私の身に、一体何が……!?
「――アンナ・スコット! 君との婚約は、この場をもって破棄させてもらう!」
――やっぱり、戻って来られましたわ!
アンナは王子のお決まりのセリフを聞いて、狂喜乱舞の思いだった。しかし、彼女の心の中の怒りは、全くと言って良いほど収まっていなかった。そのため彼女は、心が落ち着くまで、何度も死に戻りをする羽目になった。
「君は最低な人間だ!」
「うるさいですわーっ!!」
――シュンッ!
「君の顔など、見たくもない!」
「ひどすぎますわーっ!!」
――シュンッ!
「アンナ令嬢は、最低最悪な人間なんです!」
「あんたは黙ってろぉぉぉい!!」
――シュンッ!
「婚約を破棄する!」
シュンッ!
「婚約を」
シュンッ!
「こn」
シュンッ――!
……一体、何度死に戻ったのだろうか。「一人の悪役令嬢が婚約破棄を言い渡された回数」の世界記録を取ったであろうところで、アンナはようやく心が落ち着いた。いやむしろ、彼女は段々と楽しくなってしまった。
「何とか言ったらどうなんだ、アンナ!! 君がカヌーレ嬢を虐めていたんだろ!?」
……王子には大変申し訳ないが、アンナは何百回も死に戻りを経験したので、最早婚約破棄の下りには飽きてしまった。そのため、彼女はロクに話を聞こうともせず、自分の好きなように振る舞い始めた。
「おーっほっほっ! せっかくパーティに出席しているのですから、美味しい料理をたんと食べなくては、勿体ないもいいところですわー!」
「あっ、おい! アンナ!」
――どうせ、死に戻ってしまうのですから、何をしても問題ありませんわ!
アンナは豪華なテーブルにダイブすると、贅沢な食材がふんだんに使われた、見た目にもお腹にも美味しい料理を、心ゆくまで味わった。
「んー! 美味しいですわー!」
王子も侍女も、誰も彼も、目を見開いて驚いている。上品な振る舞いを忘れることのなかった公爵令嬢が、祝いの席で食べる魚にかぶりつき、度数の強い祝い酒をがぶがぶと飲んでいるのだ。それはある意味、夢のような出来事だった。
「ほーら、王子! あなたもこうやって、だらだらと食事を楽しみたいのではなくて?」
「くっ……! そんなわけ、ないだろう……!」
「おーっほっほっ! それは、残念でしてよー!」
恥ずかしそうに顔を伏せる王子を見て、アンナは高慢な高笑いを連発した。甘く熟れた小さな果実を、美味しそうに齧りながら――。
「……うっ!?」
――次の瞬間、アンナは途端に気持ちが悪くなり、その場に倒れ込んでしまった。激しい嘔吐と、ひどい頭痛。まさか……、これは、毒……!?
「アンナ様!? 大丈夫ですか!?」
駆け寄って来る侍女の声が、徐々に遠のいていく。――あれ? 私、死に戻るついでに、誰かの命を救ってしまいましたの……?
「ちっ……。邪魔が入ったな……」
アンナが倒れた様子を見て、何者かが舌を打つ。しかしその声は、当のアンナには届かなかった……。