亜美の決意 (分裂前)
子供の頃から私と結城と涼は一緒だった。
男2人と女1人の組み合わせでは女の子が無理をして合わせているように感じるかもしれない。
でも、2人といるために私は無理なんてしていない。
その理由は結城の存在だった。
いつも優しくて穏やかな結城は女性の私よりも家事全般が得意だった。
その上でお人形遊びやママゴトと言った女児の遊びも理解して積極的に参加してくれた。
私達が仲良く遊んでいると涼もやってきて付き合ってくれる。
こうして男と女の間に結城が入り込む事で私達3人は上手く機能してたんだと思う。
そんな事を思い出しながら目の前ではしゃいでいる少女を見る。
有名な猫のキャラクターのショップに入ってから優希のテンションは爆上がり。
ぬいぐるみコーナーであれこれ楽しそうにしている。
(本当に女の子になっちゃったんだな)
目の前で実際に女の子になるところを見てしまったのだから信じるしかないが、それでも目の前の少女が元男だというのは実に信じたくない気分であった。
そう……信じたくはないのだ。
これが涼みたいな見た目も心も男らしい男性がこのように変化してしまったなら信じないという気持ちも強く持てたかもしれない。
だが、優希の場合は……
「亜美〜見てみて!
この子めっちゃ可愛いよ」
『亜美〜この子とっても可愛いから買っていこうかな?』
(何で記憶の中の結城とあまり行動が変わらないのよ!!)
そう……記憶の中の結城もぬいぐるみが大好きであり、2人でこういう店に遊びに来ていたのだ。
根本があまり変わらない以上、優希は間違いなく結城だと確信してしまう。
(涼はこの状況喜んでるのかな?
今は後悔してるみたいだけど、多分……)
涼が結城に対して友情を超えた気持ちを持っている事を私は知っていた。
誰よりも近くにいるのだから気付かないはずは無い。
でも、彼は私と結城の気持ちを知っていたから常に一歩引いていた。
結城が幸せならそれでいいさとでも考えていたのだろう。
そんな涼ならば間違いなく今の状況を激しく悔いて自分を責めている事だろう。
そして何としても戻してやろうと決意しているに違いない。
しかし……目の前にいる優希に再び視線を向ける。
体格は小柄に、顔はより童顔になり、髪が一気に伸びた優希はとにかく可愛かった。
私ですら懐いて寄ってくる優希を思わず抱き締めたくなる衝動に駆られるくらいなのだ。
こんな可愛い生き物を前に涼が自分の気持ちを押し殺し続けるわけがない。
優希だって心まで女の子になったら涼に惹かれるんじゃないかと思う。
そのぐらいに同性の頃ですらお似合いに見えていた2人なのだ。
(もし2人がそうなった時に私はどうしたらいいのか?)
「亜美、こっち向いて」
いつの間にか気持ちと共に視線まで沈んで下を向いていた私に勇気が声をかけてきた。
私がその声に反応して顔を上げると……目の前には大きな猫のキャラクターのぬいぐるみがあった。
「え?どうしたの、これ」
「今日は僕に付き合ってくれてありがとう。
亜美のお陰で本当に助かったよ。
だから、これは今日一日のお礼。
亜美もこの子好きでしょ?」
「好きだけど……こんな高いもの受け取れないよ」
「いいから受け取ってよ。
今日だけじゃなくて先輩としてこれからも頼っていくんだから」
「ふふ、何それ。
女性として先輩って事?」
「そうだよ。
僕は女の子としては産まれたての赤ちゃんみたいなものだからね」
「……分かった、受け取る」
「これからも宜しくね、先輩」
「こちらこそ、後輩」
そうして優希からぬいぐるみを受け取った時にこんないい子が幸せになれるならそれでいいやという気分になった。
(あ……涼も同じ気持ちだったのかな。
それなら私も優希の親友として支えてあげないとね)
これから先、優希が元に戻る保証はない。
それなら私はこの子の親友として守り導いていこう。
性別が変わっても優希は私の良き友人で良い人なのに変わりはないのだから。