夢幻
結城達が部活動に力を入れ始めてから時間は過ぎて冬休みに入る前の日である。
最近は食事中以外は部屋に閉じこもって勉強や部活の作業をしている日々が続いたのだが、この日は結城の方から優希の部屋を訪ねた。
「ごめん、いま時間大丈夫?」
「いま配信動画の確認終わった所だから問題ないけどどうしたの?」
扉越しにノックすると優希は返事をしながら扉を開けて結城を招き入れた。
久しぶりに入った元自分の部屋は以前よりも可愛いグッズが溢れており、また女の子の部屋特有のいい匂いが結城の鼻腔をくすぐった。
「えっと……これ、僕が作ったゲームとシナリオで1人から遊べる風にしたんだ。
良かったらテストプレイ手伝ってくれないかな?」
内心では少しドギマギとしながら結城は中央のテーブルにシナリオ本とキャラクターシート、鉛筆とダイスを置く。
「へぇ……これってもしかして?」
「うん、優希が一番最初のプレイヤーだよ」
「そういう事なら謹んで遊ばせてもらおうかな」
こうして2人はゲームを間に挟んで久しぶりに顔を向かい合わせた。
お互いに自分の顔は散々みてきたはずである。
しかし、これが成長したという事なのか……2人にはお互いの顔が記憶の中よりも少し大人びて見えた。
その顔を見ていると以前まで覚えていた異性だった頃の自分の顔の記憶が消えていきそうな気持ちになる。
「変わったよね」
「そうだね。
でも、それはお互いにって事だと思うよ」
「うん……でも、その進んだ方向は決して同じじゃなかった。
私はもう結城の事を自分だなんて思えなくなったよ」
「それもお互い様かな。
僕も優希が同じ人間だったなんて思えない。
きっと、これから先はその気持ちがどんどん強くなっていって完璧に分かれちゃうんだろうね」
ゲームを進めながらも優希がポツリと語り始めれば結城もすぐにそれに応じる。
気がつけばゲームの手は止まり、お互いの話し声だけが部屋に響いていた。
「最初に私たちが会った時の事覚えてる?
私はなんて可愛く素敵な男の子だろうって思ったよ」
「僕は何て可憐で可愛い女の子がいるんだろうって思ったよ」
「今考えたら私たちって完全にナルシスト入ってたよね。
こんなに自分の事を好きになってたんだから」
「その後も考えは手にとるように分かるし相性は抜群だったしね。
こんなに一緒にいて落ち着くなら一生優希が側にいればいいかも……なんて。
そんなの1人でいる事と変わらないのにね」
「私もあの時は結城と一緒にいるのが一番楽しかった。
正直な話ついてくる2人を邪魔に思ったこともあったぐらい」
「それは酷くない?」
「じゃあ、そんな気持ちは全くなかった?」
「……あった」
「あの時はお互いに変わってなかったんだから分かるわよ」
そう言って2人はひとしきり笑い合った後で、まるで予め台本でも用意していたように同じタイミングで同じ言葉を吐いた
『でも、それは都合の良い夢だった』




