画堂部長の目的
部活を始めて一ヶ月が経過した時には既に変化が起こっていた。
「おお……こんな所で見れるなんて」
「なんて可憐なんだ……」
優希と一緒に廊下を歩いていると至る所からその様な声が聞こえてくるのだ。
「なにか視線を感じる様な気が……」
「多分気のせいじゃ無いと思うけど。
原因はアレのせいだと思う」
そう言って私が指さしたのは動画配信部の部室。
その扉を開けて中に入ると上機嫌の部長が出迎えてくれた。
「やぁやぁ、待っていたよ。
君達のお陰で我が動画配信部の評判は上々さ」
「この間の取材動画も評判良かったんですか?」
「勿論だよ!
動画の視聴回数も順調に伸びているし、この間は収益化の申請も通ったからね。
部費も潤沢になるだろうさ」
「わぁ〜凄いですね」
「ちょっと待ってください!」
呑気にはしゃぐ優希とは違い、部長の言葉に私は思わずストップをかけた。
「どうしたのかね?」
「収益化とか初めて聞いたんですけど」
「今話したばかりだからね。
部費だけではどうにもならない問題があったが、これなら我が目的の達成も近づくことだろう」
「いや、私達の取材動画で収益って……」
「元々外部に向けて配信していたものに広告を付けただけのものさ。
これは個人的に使うわけでは無いから許してもらいたいものだがね」
「どういう事なんです?」
「うむ……我が校の部活の成り立ちは自由であるのは知っているな?」
「それは……この部活が良い例ですよね」
動画を撮って配信する部活が認められてるなどという学校は数が少ないであろう。
「全くもってその通りだな。
そして、部活として申請されれば部費と部室が手に入る。
だが、部活が多いせいで部費というものはかなり少ないのだよ」
「それで部費を稼ぐ為に広告を?」
「少し違うな。
此処で稼いだお金は取材した部活動に取材費として渡そうと考えている。
君達も今までの部活の取材で何か気付かなかったかね?」
「え……何だろう?」
中学の時は帰宅部であった結城の記憶を持つ結城では気付かなかっただろう。
だが、私には一つ思い当たる事があった。
「何処も設備が老朽化していましたね。
あれは部費が少なかったからですか」
「そういう事だ。
施設が古くてやる気の出ない部員たち。
そのせいで弱いのだが、弱いと地域の後援会も付かずに自由に使えるお金が増えない。
そこで取材を行いやる気を出させつつ後援会を求め、動画配信のお金を各部活に還元するという作戦で、
この負のスパイラルに陥っている学校の運動部を救いたいと言うのが私の目的なのだよ」
「画堂部長……」
想像を遥かに超える壮大で立派な目標に思わずウルっときてしまった。
「ぶぢょ〜〜〜わだじがんばりまずうううう〜」
隣では感涙した優希が涙を流して部長の手を取ってブンブンと振り回していた。
「はっはっはっ、私の目的に共感してくれて嬉しいよ。
薪開君はどうかな?
お金が絡む事には賛成できないかね」
「私は……そこまで立派な目的は持てません。
でも、部長と優希を手助けするくらいなら出来ますので……これからもよろしくお願いします」
「それは本当に助かるよ。
君たち2人がいてこそ人気の動画が作れるものだからね」
こうして私達2人はこの部活で更に頑張っていく決意を固めた……のだが、これが想像以上に大きな出来事になる事を私達はまだ知らなかった。




