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第九十六話『報酬』

 上に行くにつれて、足場や壁の作りが鉄に囲まれていった。

 ついには天井すらなくなって、星々が白黒に輝いている。

 そんな開けた場の中央に、大きな剣を地に突き刺し仁王立ちをする白衣を着た男性の後ろ姿がひとつ。


「あの人ですよね、明らかに」

「なんかすっごく、ボスっぽい立方してるにぃ」

「お客さん、ファイトですよ」

「なんで僕なんですか…」


 ヒバリさんに推し進められるがままに、白衣を着た男性の元へと忍び寄った。

 一歩ずつ、不意打ちを視野に入れた足取りで。

 ……ちょうど折り返し程度の距離まで近づいた時だった、白衣を着た男は振り返らないままに静かに呟いた。


「お、来たか」

「……どうも、志東です」


 詰まる息を飲み込んで、自己紹介を返す。

 振り返った白衣の男の年齢は30代程のように見えた、刈り上げた髪にやつれた目付きをしている。


「俺はルベルトだ、よろしく……って言うのもなんかおかしいがな」


 差し出そうとした手を止めて、ポリポリと頭を搔く男性。名はルベルトと言うらしい。


「それにしても、随分と遅かったじゃねえか、てっきり裏切ったのかと思ったぜ」

「それはこっちのセリフよ、何なの、あの下にいる兵士達は」

「兵士?」


 訝しげにルベルトさんは表情を歪めて、階段にいる姉妹を睨んだ。

 僕も訝しく思い、後ろのふたりに視線を向けた。階段から上半身だけ乗り出して、ひとりは不貞腐れたように床に頬杖を着いていた。額に航空眼鏡を付けている方の彼女だ。


「あの、ヒバリさん?テトさん?」


 呼びかけると、視線を四方八方に泳がせヒバリさんは手のひらを忙しく振った、テトさんはと言うと下の階に完全に引っ込んでしまった。

 かくして僅かながらの疑念は、確信に押し潰されたのであった。


「いや!あのあれなのよ」

「どれなのよ」


 思わず僕らしくもない言葉使いをしてしまうくらいには、少し慌てている。

 裏切りはいつも仲間から受けるものとは、よく言ったものだ。


「貴方を連れてこれば見返りとして報酬を渡すってね、契約してたのよ」

「はぁ」

「まあまあ別に罠にかけたわけじゃないにぃ」

「そうそれ、別にお客さんに死んでもらいたいわけじゃないの、ただ過程としてそうなっただけで…」


 僕自身あまり気にはしていないが、ヒバリさんにも罪悪感というものはあるらしく最後の方は声が萎んでしまって聞き取れなかった。

 そのまま沈むように下の階へと上半身を隠していくヒバリさんを見送り、黒幕へと視線を向けた。


「ああそうだ、だからあまり責めてやるなよ」

「別に構いませんけどね、それよりこんな所に連れてきて、ルベルトさんご要件は」


 自分で足を運ばず、わざわざあのふたりを使ってまで僕を呼び出したのだ。それ相応の理由がなかった場合、問答無用で一発は殴らせてもらおう。

 そう心に決めて、僕はおもむろに拳を叩いた。


「志東くん、君に決闘を申し込む」


 返答は僕が思っていたものとは真反対で、想定していたものより平和で尚且つ暴力的なものだった。


 どうやら拳の一発所では済まなそうな理由で、僕は呼び出されたらしい。


「お客さんがんばって!報酬はもう貰ってるからあとはお客さんが勝てば大団円よ!」

「しどー兄ちゃんなら勝てるよー!」


 後ろから聞こえる黄色い声援を浴びつつ、あくまで僕は冷静だった。


 こんな仕事をしておいてなんだが、僕は暴力というのはあまり好きじゃあない。誰だってそうだろう、好き好んで暴力を振るい振るわれるやつなんて……。

 

 ……まあ、少なくとも僕はそうじゃない。


「あの、断るみたいな選択肢は」


 と言い終わる前に、ルベルとさんはポケットから球体の何かを取りだした。

 球体は硝子でできているようで中に宝石が見え、宝石の周りをいくつかのリングが回転している。


「これなんだが」

「……?」


 まさか勝てば宝石をくれるとでも言うのだろうか。

 僕がお金で動く人間だとでも……いや、お金でしか動かないような人間だけども。それとこれとは話が違う。


「中に宝石が入ってるだろ、『色食しょくしょく』って言ってな、周囲の色を吸い取って白黒にする効果があるんだ、この周りの装置がその効果範囲を広げているらしいんだ」


 その宝石の入った硝子の球体を、ルベルトは白黒の夜空に照らして覗いて見せた。


「志東くんが勝てば、これは君にあげよう。元の効果範囲は3メートル程度さ、周りの装置を壊せば街には色が戻るだろう」


 そして宝石から僕に視線を落として、ルベルトさんは僕に問いかけた。


「さあ、どうする?」


 街から色が消えた原因がここにあるのなら、あの探偵たちは一体今どこで何をしているのだろうか。

 遊び疲れて眠っているか、はたまた白黒のテレビを見ているのかもしれない。


 どちらにせよ、答えは決まっていた。


「やりますよ、やればいいんでしょう」

「賢明な判断だ」


 そう言って深く頷くと、ルベルトさんはゆっくりと僕から離れていった。

 大剣が地面に引きずられ、金属の擦れる音と共に白く炎が辺りに点灯し夜の建設現場を照らし始める。


「お客さん」


 呼ばれて振り返ると、足元に短剣がカラカラと音を立てながら僕の足元へ流れてきた。

 それを拾い上げて、刃先をなぞってみる。


「今回ばかりはレンタル料は取りませんよ」


 階段から頭だけを覗かせながら、ヒバリさんは強かにそう言った。

 お金の為ならば知り合いを売るようなヒバリさんも、罪悪感からか今回ばかりは代金を請求しないでいてくれるらしい。

 なんとも慈悲深い人だ。


「さあ、やろうか」


 感傷に浸っている僕に言って、そしてルベルトさんは大剣を構えた。

 その存在を闘志に燃やしながら。

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