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第九十話『よく分からない新商品は買いたくなる』

「あそこの塔、いつ完成するんですかね」


 前に見える塔を、とりあえず話題に出してみたのだけれど。テトさんとヒバリさんの気を引く話題ではなかったようで、素っ気なく「うん」と頷いたりするだけで話を続ける気はなさそうだった。

 もしかすると、本当に嫌われているのかもしれない。


「あの、僕何かしちゃいましたか」

「何が?」

「いや、その、あまり話したくなさそうだったので」


 人に嫌われることに長けている僕だけれど、子供に好かれやすい体質なのが自慢なのだ。親しみやすいのか、舐められやすいのか曖昧なところだけれど。

 ともかく、好かれている人間が少ない以上、既に好かれている人間に嫌われたくは無いものだ。


「あぁ、ごめんごめん、けどほら、今仕事中だから、人探してる途中だし」

「あ、そういえばそうでしたね、すみません。けどヒバリさんが真面目に探しているのは分かりますけど、テトさんがこうも静かなのは一体どういう……」


 仕事中だった、そう言えばそうだった。子供なのは僕の方だったか。

 テトさんも目を光らせて熱心に辺りを観察しているし、なんだか僕だけが真面目にやっていないように(実際そこまで真面目に取り組んではいないが)見えるじゃないか。


 手伝いを申し出ておいてこの体たらく、ここ最近の休み続きですっかり腑抜け切っているようだ。


「人って成長するのよ」

「なるほど」


 ヒバリさんの成長という言葉が、テトさんに向けられたものだったのか、それとも僕に向けられたものだったのか。

 それによっては、意味が変わってくる。

 成長するべきだ、僕も。

 そう、糾弾されているように感じた。


「それにしてもこの探し方はちょっと効率が悪いんじゃあ」

「まあね」

「まあねって、いいんですかね、それ」


 真面目に仕事をしているんじゃあなかったのか。効率を分かっていて上げないのは、職務怠慢ってなやつだぞ。

 さっきまで軽い散歩気分だった僕が語るのもなんだが、これは非常に宜しくない。何かここはひとつ、言ってやらねば。


「こうい…」「わた…」


 ヒバリさんと話すタイミングが、重なってしまった。

 その後に蔓延する沈黙は、あまり心地いいものじゃない。


「あ、先どうぞ」


 沈黙を破るためとにかく何か言わないと、先程僕が言おうとしたことを続けるか、相手に譲るか。

 そこで僕は先に言い訳でも聞いてやろうと思い権利を譲ることにした、ヒバリさんは上目遣いに軽く目礼して弁明を始める。


「私たちは一応、居たらいーなーぐらいの感覚で探してるだけ、捜索には本命がいるのよ」

「あれ、僕以外にも協力者がいたんですね」

「拗ねた?」

「いや、そういうわけじゃあないんですけど」


 それなら少しくらい、雑談してくれても良かったのではなかろうか。

 真面目に仕事をしているから今は話せないみたいな雰囲気を醸し出しておきながら、本気で探してる訳じゃあないと。

 言い訳に言い訳を重ねて、矛盾という嘘が浮き彫りになってきたな。


「この街ってたくさん食べ物のお店あるにぃ」


 それまで一言も喋らず、街の様子を意欲的に観察していたテトさんが本性を表した。


「だってさ、志東さん」

「なぜ僕に振るんですかね」

「あれ食べたい」


 ヒバリさんとのやり取りを遮るように、テトさんはどこかで見た事のあるような屋台を指さした。

 旗に派手な色合い(白黒だけどもね)で〈新感覚!醤油プリン味ソフトクリーム!〉と書かれている。


「なにあれ」

「あれ食べてみたい」

「たしかに気にはなりますけど」


 気にはなるけど、買うと後悔するタイプのやつだ。好奇心猫を八つ裂きにするとはまさに、この時のためにあった言葉のようなものだ。

 というか、醤油プリンってそれウニ味ソフトクリームなのでは。


「流石にダメですよ、奢りませんから」

「いじわるだにぃ」


 せめて奢るならもう少しマシな何かを、とでも言おうとしたけれどテトさんはどうしても例のそれを食したいらしく。ヒバリさんに泣きつき始めた。


「ならしかたない」


 この姉、実は妹に甘いのだ。たぶんきっとこれから食べるであろうウニ味ソフトクリームなんかよりも、ずっと甘い。

 姉の許しを得て、上機嫌にスキップなんてしながら屋台へ向かっていくテトさんの姿を見て。

 ヒバリさんと、静かに笑った。


「へい!店主!ソフトクリームプリン醤油味ふたつ!」

「あと別にプレーンひとつ、あ」

「あ」


 テトさんに並んで僕もソフトクリームを店主に注文、したのだけれど店主はどこかで見たことがあるような風貌をしていた。

 店主も僕を知っているようで、互いに目が合ったまま固まっている。

 その店主の目は、あくまで精密に黒く縫い合わされた目に見える物、だけだけれども。


「何してるんですか」

「見ての通りソフトクリーム屋だけども」

「串焼き屋じゃありませんでした?」

「でも今売ってるのはソフトクリーム、そゆことだね」

「どういうことなんでしょう」


 店の方針チェンジにしては、えらく大胆に大きく変わっている。串焼き屋から何を発想してソフトクリーム屋になったのだろうか。

 流行りにでものったのかな。ソフトクリームが流行っているという話は、別に聞いていないけれど。


「この子、かわいい」

「テトさん、そのぬいぐるみ呪われてますよ」

「やっぱりいらない」


 にこやかにぬいぐるみを拒絶するテトさん、ぬいぐるみは驚いたように僕とテトさんを交互に見て。


「おうおう、失礼極めてんな」


 コーンにアイスを巻きながら、苦笑を含めそう言った。


「はい、ソフトクリーム醤油プリン味ね」

「それどうやって持ってるの」

「不思議だよね」


 ヒバリさんの疑問に、答えではなく共感で返すぬいぐるみ。ぬいぐるみの手でコーンを持てている謎、それよりもテトさんはソフトクリームの味が気になるようだ。


 スンスンと香りを確認してから、小さな一口で頬張った。反応を見るに、1周まわって美味しかったらしい。


「ヒバリさん、あんまり考えない方がいいですよ」

「闇ね」


 考えると頭が痛くなることは幾つもある、それらひとつひとつを気にして時間を割くよりも。それはそういうものなんだなと、自分を説得させる方が楽だ。

 少なくとも僕はその考え方で、今の今まで首の皮一枚繋げて生きのびてきた。


「ところで」


 ぬいぐるみがウニ味ソフトクリームをヒバリさんに私ながら、ぽつりと呟いた。

 ソフトクリームを受け取ったヒバリさん本人は、険しい表情でソフトクリームを睨んでいる。

 そういえばあの時テトさんが2人分、ソフトクリームを注文していたような。


「白衣の男なら君らが向かってる方向に行ったよ」


 ぬいぐるみはそう言葉を続け、僕達の視線を知らぬ顔にソフトクリームのプレーンをコーンに巻き始めた。

 ヒバリさんが目を見開いて、どういう事だと目配せしてきているが、僕が知ったこっちゃない。

 僕はてっきりこのぬいぐるみが、もう1人の協力者だと思っていたのだけれど。この様子じゃ違いそうだ。


「塔方面ですか」

「そうそう。はいプレーン、8000円」


 わざとらしく大きく首を縦に振って、ソフトクリームを僕に手渡すぬいぐるみ。

 愛らしい見た目をしているのに、本質はどこまでも不気味だ。

 あと8000円ってなんだろう。


「このぬいぐるみイカれてるね」

「そうなんですよね」 

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