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第一話『仕事と私事』

 この街は昔ながらの街並みを保っている、今にも馬車か何かが通り過ぎそうな雰囲気の街並みだ。


 実際、馬車は走っている。

 そんな街の一角に位置するログハウスのカフェがあった。

 名前は『pudding』。

 プリンの専門店かと間違うような名前だが、残念なことにこのカフェにプリンは一種類しかない。


 誠に残念だ。

 それを除けばかなり雰囲気のいい店だ、人はあまり入ってこないし、明かりには灯油ランタンが使用されていて温かみのある、ゆるりとした雰囲気になっている。


「うん、遅れてるね、二分も遅刻だよ、ありえないね、紅茶でもおごってもらおうか」


 そして、そのカフェでそうのたまっている人物が僕の協力者だ。

 彼女の名はマリアナ。

 黒を基調としたコンビネゾンを着た、銀色の長髪の、赤い瞳に縁のない眼鏡を掛けている女性だ。


「紅茶を奢るのはいいですけど、仕事の件とモルとの面会の件はどうなってます?」

「というわけで! ウルくん、このお店でいちばん高い紅茶を頼むよ」

「わかりましたです!」


 了承を得るや否や、このお店で唯一働いている、ウェイターのウルくんに声を掛けた。

 ウルくんは大きな声で返事を返し、そそくさと厨房へ消えていった。


 止める時間もなかった。


「人の話聞いてます? というかしれっと高いの頼まないでくださいよ……」


 ウルくんは十歳くらいの男の子だ。栗色の短髪と青い瞳を持ち、背は低い。たしか、昔にここのオーナーが拾ってきた子だ。

 ウルくんもちゃっかりしてるな、まったく。


「仕事はまたいいの持ってきたし、面会はOKだって、今日中に午後四時まで面会が許されてるよ」

「ありがとうございます」


 なんやかんやで仕事はしっかりしてくれる人だ、これくらいは大目に見よう。

 店内は相変わらず客は居なく、貸切状態。この静けさがここの良さなのだけれども。


「仕事の件は三つおいしいのがあったよ、聞くかい?」

「お願いします」

「えっとね、この三つだ」


 そう言いながら、テーブルに置いてあった分厚い紙の束をこちらに寄せる。 


「ハロウィンの誘拐お化けのうわさ、吹雪の精霊の噂、餓桜(がろう)に侵された地区の調査だね」

「餓楼の調査毎回僕のところに来てません?」

「誰もやりたがらないからだろうね」


 こういうことが多々ある、しかしこういった誰もやりたがらないものほど儲かる、そしてその分リスクが大きい。


「紅茶お持ち致しましたー!」


 ウルくんが紅茶を二人分、お盆に乗せて厨房から姿を現した。


「僕の分は注文してないんですけど」

「じゃあウルが飲むです! お代は払ってもらうけどです」


 ちゃっかりというか、もう怖いまである。

 自分で飲むと豪語したものの、紅茶をしっかり僕の前にも置き軽くお辞儀をして厨房の方へ再び消えていった。


「はぁ、まったく……」

「うん、高級なだけあっておいしいね」


 不服ながらも、紅茶をひと口。


「うん、おいしい」

「泣くほど美味しいのか、そうかそうか」

「お金も欲しいですし、しかたないから餓楼調査してきますよ」

「うん、任せたよ」


 もったいないと思いつつも、紅茶を一気に飲み干し。


「んじゃあ、賭けてきます」

「うん、頑張れ〜」


 代金をテーブルに残し、店を後にした。

 向かうは路地裏街にある、拘置所。

 高級な紅茶の余韻に浸りながら、街を歩いた。

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