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魂と宿命3

「ラグドールは古書でしか見た事が無いジョブだから置いておいて、さっき言った二つは何冊もの解説本が出るくらいだから良く知ってる」


 ミアはステンドグラス越し、七色の光を顔に移しながら話を続けた。


「鉄火のゼラで有名な一等級職業ラストフォージャーは。君が得意とする錬成系を得意とするオールラウンダーファイター。飛空戦艦レベルの大質量錬成から、貸付って呼ばれる得意分野無視の超高速物質錬成、念動による多重武器操作。ワンマンアーミーの異名までついてる。後衛職なのに直接戦闘、兵站までこなすから正しく超人的ジョブだよ」


 錬成を極めるならありだな。大質量も不得意分野錬成もかなり苦手だ。俺の場合瞬間錬成できる最大の大きさは電柱レベルだと実験で判明している。

 ていうか、我ながらになぜ電柱を錬成しようとおもったんだろう。俺って、凄く変な奴かもしれない。いや、あのコンクリートジャングルへの懐古がそうさせたのかも。

 森の中にそびえ立つ電柱のイメージがしばらく頭から離れない。


「チャペルサービュラントはとにかく攻撃的。高度な白兵戦闘能力に加えて魔力も桁違いだけどなによりも厄介なのがジョブ特性の無影。オーダーや血統魔術者特有の察知不能な魔術に加えて、無影はマナ使用に関する全てを隠す事ができる。完全にね。オルファンは光学系の高出力狙撃術式、オルクスと無影で何人もの有力貴族を葬ってきた」

「ラグドールは?」

「んー」


 ミアは俺の目を見つめ、再度目線を下に向ける。躊躇いというより思慮が感じられた。彼女が口を開く。


「これが一番ショックかもね。ラグドールは人間族に一番嫌われる。人の街なら石を投げられることもあるというか」


 ミアは他人事としてあっさりと言ってのける。それでも俺にはその言葉の意味が充分に分かっていた。


「あ、勘違いしないでね。帝国文化圏でなら、だよ。私は大丈夫。国教で登場する悪の権化とその配下の一文にまつわる職業だから信心深い人には、ね。異名として逆徒の王、汚れの群衆、神威の影とか。連合国側なら特性上むしろアイドルっぽいかもね」

「アイドル?」

「なんつぅか、モテる……色んな意味で」


 ホリー、途中で解説をぶんどった割にやたらともじもじ。下ネタ好きなんだな。


「無ラグドールは魔力形質が変化するらしいんだ。私たちみたいな人型亜人は影響薄いけど、モロ魔物ベースの亜人なら割と危ないかもね。系譜は高級死霊のリッチとかアンデッド系が源流とされるが、謎が多い……とか曖昧な書き方されてた。リッチって事は魔力保有量やギフトに特化してるかも。なんにせよ職業聖別受けないと詳しく表示できないし」

俺、男なのに夜道を襲われる心配しないといけないの?

「俺はどうしたらいいんだろ」


 不意に言葉が出た。ぼつりと産み落とされた一言は、和やかに話す三人を黙らせるには充分だった。

これは俺が自分で決めるべきなんだろう。でも、こうも思った。

ミアの気遣い、言葉。俺がひとりで決めるべきなんだろうか? と思った。

 本人の意思とはいえ、爆弾を抱えていると言える俺の素性を前に、受け入れるのがさも当然と背負った彼女を前にして、彼女に関わった手前にして、俺はすんなりと自由を謳歌する気になれなかった。

 彼女は危うい。俺に言い放った気高い志の為、自らを犠牲にすることを厭わない人種に見える。彼女が俺を見た目には、明るさだけが宿っていたわけじゃなかった。


「つーかわかんない、君らで決めてよぉ」


 俺は思いをひた隠しに冗談めかしてそんなふうに言った。それを知ってか知らずか、二人は再び笑ってくれる。


「とりあえず、お前はどんなふうになりたいんだ?」

「ワクワクしたい」


 ホリーの素朴な疑問に俺は考えるべくもなく即答した。


「色々な事がしたいから、たぶんラストなんちゃらは選ばない。男なら未知の領域、モン娘モテモテのラグドールでしょ!」


 俺の気軽な受け答えに、腕を組んだミアが笑った。これは本意でもあり、誤魔化しでもある。

そう、こんな感じで流してくれ。ミア、君はあまりにも人が良すぎる。人をそんな簡単に受け入れちゃだめだ。


「おや、新しいお友達かい?」


 背後から聞きなれない優しい声が聞こえる。振り返ると。


「やぁ」


 今日は巨漢の吉日なんだろうか。扉の近く、ボロ繕いの袋を背負い立つ彼を見るに身長は2mはあるだろう。粗末な麻の修道服を身にまとった男は眼鏡を片手で直すと、袋を下ろす。柔和な物腰と顔つきはともかくとしてローブ下部には返り血がついている。この世界の男は皆デカイのかもしれない。ラグレスさんが巨岩なら彼は大木って感じ。


「キアラン神父! その袋はなんでしょうか?」


 やけに恭しく、改まった口調に変貌したホリーは神父に問うた。


「しんぷさまー!」

「がおーはどうしたの? がおーは?」


 ホリーへの返答の代わりに聞こえてきたのは雑踏と黄色い声。


「が、がわいい」


 思わず声が出る。下は五歳、上は十歳からなる幼児の集団がキアラン神父をあっというまに取り囲んだ。それぞれ頭に角や獣耳、ペンギン頭までいる。よちよちとヒナみたいだ。

 神父は泥を拭かれ、ヨダレは垂れ、と成すがまま。

 なんか、平和だなぁ。この風景。


「こらーお前たち? 私の服の替えないんだぞー」


 神父はぐずり始める子供を抱き抱え、足元の子供たちを優しくたしなめる。


「しんぷさま、がおーにお服びりびりされたもんね」

「すっぽんぽんだったー」

「すっぽんぽん、お服をびりびり……」


 ホリーがぶつぶつとつぶやく。なるほど、先ほどの敬語の意味がわかってきた。


「おっす、キアランのおっちゃん。キースは?」


 ミアは、ほとほと疲れ顔で服のシミを眺めるキアラン神父に聞くと、はい、と子供の抱っこを引き受ける。


「見張り番と拾得物の歩合交渉だ。あの子もここに来て早三年、随分と成長したものだよ」

「なんか拾ったの?」

「いやー、ちょっとワイバーンをね。襲われたからやっつけちゃって。そのままというのも迷惑になるし拾い物ってことで届出を。少しばかり運営費にあてがいたいからちょうど良かったよ」


 さらっというね神父様。


「子供たちは!?」

「ミアは心配性だなぁ。数匹のはぐれ程度だったらドゥンケルなしでもこの子達を守れるさ」

「キアラン神父、凄いと思わない? わたくしの師匠でもあるのよ」

 ホリーさあ、まじでやめてくれないかな? 猫被りすぎて誰だかわからなくなる。

「その子は」


 アバラに滑り込む短剣の如く、なめらかに。神父はそんな調子でミアに質問すると俺を見た。


「ばっちし国連憲章違反級のオーダーだよ。ここに来て一週間、森で彷徨ってたみたい」

「そうか。庇護下にないオーダーでありながらの五体満足。幸運だね。とりあえず、早めの晩御飯にしようか、いいね? えーっと」

「マナ・ヒラトです」

「マナ君、色々話そうよ」


 話自体は何気ない物であったけれど、空気感からして大事であるのがありありと分かる。神父の口調は子供達と接するよりも柔らかく、落ち着かせるような物。子供たちの無軌道な歓声と気味の悪い対比を感じる。生ぬるい油の層と、冷水の合間を漂うような不穏と不快を感じる。

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