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A Purple Tale  作者: 雨戸稲
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紫物語 恋のきっかけとなった話

 この小説を書こうとしたきっかけは、大人の男性と未成年の女の子の純粋な気持ちから起こる恋愛ストーリーは成立するか?という疑問からでした。最初は大人の男性と小学生の女子の恋物語を考えて書いてみたのですが、考えた末、相手が小学生ではさすがにまずいので女子高生という設定に変更しました。

「いや、いくらフィクションでも大人と女子高生の恋愛はダメだろう」というコメントが来ても仕方ないという前提で書いてみました。現実世界に生きる私の場合、女子高生や未成年女子との接点は全くありません。もちろんそういった女の子と「良い雰囲気」になったことも一度もありません。いわゆる「いけない恋愛」がどういうものかも、本当のところ分かっていません。これは現実でもフィクションでも同じかもしれませんが、いくら倫理的な大人の男性とはいえ、女子高生くらいの「可愛い上に、こちらの言うことを全部肯定してくれるような女の子」とずっといたら、モラルが崩壊して身が持たないだろうと考えました。そこで、この作品に登場する怪しげな特殊生薬「ムラサキ」の持続効果を7日間だけにしようという発想が浮かびました。これなら、7日間だけ両思いになれても、期日を過ぎたら元に戻るという設定にできるという、適当な考え方かもしれませんが一つのアイディアが思いつきました。

 この作品を書くにあたっては、作者である私が法律と社会のルールとモラルを守れるかどうかが関わってくることももちろんあります。しかしそれ以前に、一つの作品を最後まで書き上げることのできる「持続力」があるかどうかが問われている。答えは自分で出すしか無い。何年かかってもいいから、答えが出せるまで書いていく。その意気込みは忘れずに、気長にゆるりと書いていきたいと思っております。

 日が昇りかけている5月中旬の朝4時ころに、山形県の海辺の砂浜を歩いている青年がいる。彼の名前は桂介。現在、栃木県宇都宮市に住んでおり、隣の鹿沼市にある物流会社の倉庫で働いている。彼の勤務先の有段運輸(株)は、本社は宇都宮市にあるが、倉庫は最寄りの駅からかなり離れており、交通が不便な場所にある。倉庫の近くにバス停があるだけまだ良いが、バスが1時間に一本か二本しか来ないので、一度乗り遅れると遅刻してしまう。おまけに、会社の決まりで正社員も含めてほとんどの社員に交通費が下りないことになっているので、バスで通ってもバス代がもらえない。それなので、桂介は雨が降らない日はアパートから自転車で通うことにして、雨の日や天気が悪い日はアパートの近くのバス停からバスで通勤することにした。

 桂介は車を持っておらず、トラックの運転が出来ないので、倉庫内での宅配物の仕分けを任せてもらっている。普段はアパートから自転車で1時間以上かけて職場に向かう。勤務が始まるのは午後3時からなので、午後1時30分には家を出て自転車に乗り始める。

 勤務地に行くだけでも運動になるのに、それから仕事の開始時間から3時間、休憩無しでみっちり宅配物の仕分けを行う。荷物は軽い箱から20キログラムの米が入った重い箱まで様々なものがある。荷物にはそれぞれ決まった番号が振ってあり、社員は番号ごとにコンテナに荷物を分けて効率良く積まなければならない。忙しすぎて、トイレに行く時間も無い。それなので、大抵の社員は休憩時間までトイレを我慢している。桂介も勤務中にトイレに行きたかった時は何度もあるが、現場の上司に頼んでもトイレに行くことを許可されなかったうえ、荷物の仕分けが忙しすぎたので、休憩時間が始まるまでトイレにいくのを我慢した。

「はっきり言って、ここブラック企業だろ!仕事はきついし、勤務時間中はトイレに行けないし、上司は怖くて理不尽だし、給料安いし!」桂介は何度もそう思った。思った回数は数え切れない。しかし、この台詞を声に出すと、上司とのトラブルが避けられない上に、

「うちは毎日忙しいよ。いやなら辞めれば?」と本当に言われかねないので、我慢している。今すぐ仕事を辞めるわけにもいかないので、桂介は目の前の作業に集中した。

 3時間勤務に集中した後、初めて1時間の休憩時間がもらえる。大抵の社員はこの時間内に夕食とトイレ休憩を済ませる。休憩終了後、再び3時間勤務に集中して、ようやく仕事が終わる。その後、タイムカードを入れ終わった社員がトイレに駆け込む。桂介もタイムカードを機械に入れて、トイレから出た後は挨拶を済ませてまた自転車で1時間以上かけてアパートまで帰らなくてはならない。

 桂介は倉庫で6時間もみっちり働いたので、疲れているはずだった。しかし、普段から体を使って疲れているにも関わらず、全く眠れそうになかった。何もせずにベッドに横になっているのは嫌だったので、読書とゲームをやっていた。それにも飽きてしまったので、彼は今住んでいるアパートから歩いて近くにある夜道を歩いている。

 

 この物語の主人公のフルネームは、相馬桂介。福島県相馬市の相馬に、桂馬の桂に紹介の介と書く。年は29歳で、今年の12月で30歳になる。現在住んでいるのは、北関東の栃木県の宇都宮市にある田舎町のアパートに住んでいる。県庁所在地がある市街地からはバスで1時間以上かかる。実家は宇都宮市にあるけれど、今は仕事の関係で実家から離れた職場に近いアパートに移り住んだ。持っている資格は、普通自動車免許、中学・高校の社会科教員免許と少林寺拳法二段。今の会社で働く前に、学校で教師をしていた時期があった。大学を出た後に新卒で栃木県の中学校に配属された。しかし、仕事のストレスとプレッシャーに耐えかねて3年で退職した。その理由として、学校の先生になると普通以上のコミュニケーション能力を求められ、仕事が終わってからもみんなから「見られる」というプレッシャーに耐えきれなかったためだ。結局、3年目の3月末で退職し、その後は再就職のあてもないまま日本各地を旅したり、短期のアルバイトを繰り返してどうにか生活していた。それでも困窮しなかったのは、両親が公務員で、実家が貧乏ではなかったことが大きい。倉庫で雇ってもらえたのは、そこの会社の社長が柔道の有段者であり、黒帯に対するこだわりが強かった。桂介は喧嘩は弱かったけれど少林寺の黒帯を取得できたので、そのことを話したら採用してもらえた。社長の言ったとおり倉庫内での仕分けの仕事はきつく、武道をやっていて鍛えておいたのはよかったなあと彼はしみじみ思った。


 話は変わるが、彼には今心底はまっているアイドルがいる。土浦リサという名前の高校1年生のジュニアアイドルだ。彼女は、インターネット上でアイドル活動を行っており、桂介もオフラインで握手会が開催された際には足を運んで一度だけ握手してもらったことがある。リサは水色の羽衣のようなドレスに青いロザリオをもっており、その十字架が彼女のシンボルになっていた。正直、彼はその青い十字架を買った。3,000円と、安くはなかったけど買った。なんだか、アイドルのシンボルを買った後は怪しげな新興宗教の信者になったような気分になったが、それでもよかったと桂介は思った。


 さて、その少女が今の彼とどう関係あるかというと、夜明けの時間帯にたまたま浜辺を歩いていた相馬桂介は、ビニールシートの上に寝ている小さな女の子にいきなり出くわした。しかも彼女は自分の好きなアイドルに似ていた。本人かと思うくらい酷似していた。

「どうしようか」桂介はつぶやいた。本来なら警察を呼ぶべきかもしれない。しかし、こんな時間に小学生くらいの女児一人がひとりぼっちで寝ているのは訳ありだと考えた。とりあえず、彼女の肩をたたいて声をかけた。

「こんなところで寝てると具合悪くなるよ。どこから来たの?」

「・・・ん」少女は目が覚めるとはっとなった。いきなり知らない男が話しかけてきたのだ。

「へ、変質者!?」

「いや、おかしいのは君でしょ。なんでこんなところで一人で眠ってたの?お父さんやお母さんは?」

少女は少し黙ったが、ゆっくり口を開いた。

「・・・来たの」

「ん?」

「わたし、神奈川県の田舎町から来たの。おととい両親とけんかして、きのう学校から帰った後いきなりお金と青春18きっぷ持って電車乗り継いで、ここに来たの。でもホテルの予約もなにもしてないから、仕方なく河川敷で野宿することにした」

「・・・女の子が一人で野宿は危ないよ。最近、物騒な事件多いんだし。この辺はわりと治安いいけどさ」

「・・・確かにそう言われると、何も言えないね」そう言ったとたん、彼女のおなかが鳴った。桂介は気を使ってショルダーバッグの中からバウムクーヘンを取り出した。

「これ食べる?」

「いい。昨夜はちゃんとごはん」と言いかけたとたん、また彼女のおなかがぐうと鳴った。

「・・・やっぱり、食べたい」

「はい、あげる。よかったらボトルに入ってるコーヒーもあるよ」

「・・・ありがと」少女は桂介が入れたコーヒーのカップを受け取った。

「ところでさ」桂介は言いにくそうに切り出した。

「君って、ジュニアアイドルのリサちゃんって子に似てない?」

「んっ!ゲホッ!ゲホッ!」少女は唐突に指摘されてコーヒーを噴き出してむせた。

「わたしのこと知ってるの!?」

「うん。動画配信サイトほぼ毎回チェックしてるし、一応一度握手会にも行ったんだけど」

「・・・うれしいな。私のこと知ってくれてる人がこんなところにいるんだ」リサは再びコーヒーをすすると、桂介に質問した。

「お兄さんの名前は何?」

「相馬。相馬桂介だよ」

「桂介さん、ありがとね。わたし一度実家に帰って両親と話しあってみるよ。今日帰る」リサは下の名前で呼び、お礼を言った。

「そうだね。そのほうがいいよ。実家はどこ?」

「神奈川県の橋本だよ」橋本は、神奈川県の横浜市から距離が遠い。で、JR宇都宮駅からだと在来線で2,3時間はかかる。

「ここまではどうやって来たの?」

「橋本駅から鈍行の電車乗り継いで来たよ」

「スマホかケータイは持ってる?」

「今は持ってない。家に置いてきたの」

このご時世、小さな女の子を一人暮らしの男の家に上げると疑われるし、始発の電車が出るまでまだ時間があるな。と、桂介は思った。そこで、こんな提案をした。

「じゃあさ、宇都宮駅から電車が出るまでまだ時間があるから、駅まで行って一緒に待つ?それとも、お巡りさんのところへ行こうか?」

「警察はやめて!」リサは後者の提案を頑なに拒否した。

「警察だけは・・・やめて」桂介はため息をつき、こう提案した。

「わかったよ。じゃあ6時を過ぎたら駅まで一緒に行こう。その代わり、自分で地元の駅まで電車を乗り継いで、自宅まで帰ること。できる?」

「・・・わかった。そうするよ」

リサは悲しそうに下を向きながらも同意した。リサは川の流れを聴きがらコーヒーをすすり、

「川の音キレイだね」と感想を言ってまたコーヒーをすすった。



コーヒーを飲んで落ち着いた二人は、駅まで一緒に歩くことにした。河川敷から歩いて30分ほどのところに、バス停はあった。始発のバスが5時50分と電光掲示板に表示されていた。桂介は入場券を買って、リサとともに路線バスに乗車した。二人は無言だった。黙って40分ほど待っている間に、湘南新宿ラインの横浜駅方面の電車がホームに到着した。リサは車内に向かって歩き、桂介にこう告げた。

「ありがとう。もし、もしまた会えることになったら、友達になってくれない?」リサはたどたどしく質問した。それに対して桂介は、

「友達になってくれるの?おれでよければいつでもいいよ!それと、また握手会にも行くからさ!」と、喜びを隠さずに返事をした。返事が終わった後在来線の電車が来た。リサと桂介は手を振りながらお互いにさよならをした。でも、きっといつかまた会えることを信じた。リサを見送った桂介は背伸びをし、こうつぶやいた。

「仕事は午後からだし、ちょっと眠るか」

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