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裏表-ウラオモテ-  作者: 桜乃倖
裏-ウラ-
3/4

核心をつく言葉がついに澪岡の口から放たれた。

横領の事実に気が付いてたなら、もしかしたらとは思ってたが...。

「マスター。ギムレットを」

俺は澪岡が奢ってくれた半分ほど残っていた酒を下げてもらい、飲み慣れていた酒を頼んだ。

澪岡には申し訳ないとは思ったが、もう飲む気にはなれなかった。

「澪岡。申し訳ないが、それは出来ない。」

澪岡は何も言わずに腕組みをしながらカウンターを見つめていた。

俺はカウンターに置かれていた店名入りの紙ナプキンを取り、足元に置いてあった自分の鞄の中から

ボールペンを取り出した。

紙ナプキンに丸を幾つも書き出して、それを澪岡の前に置いた。


① ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

② ○ ○ ○ ○ ○ ● ● ● ● ●

③ ○ ● ● ○ ● ○ ○ ○ ● ○


「澪岡。この白丸はコインの表。黒丸はコインの裏。十回連続で投げた結果がこれだとして、

この中で一番起きる確率が高いのはどれだと思う?」

自分は真剣な話をしているのに、俺がふざけていると思ったのか、澪岡は不機嫌そうな表情で

紙ナプキンを何も言わず眺めていた。

「③じゃないのか。」

澪岡が答えたのとほぼ同時にギムレットが俺の前に置かれた。

「だよな。実はな全部同じ確率なんだよ。結果問わず二分の一が十回連続で

千二十四分の一になるんだよ。」

「...なるほどね。不思議だな。」

俺はギムレットを飲んだ。飲みなれた味が口の中に広がっていた。やっぱりこっちがいいな。

グラスを置くと紙ナプキンをもう一枚取った。先程と同じように丸を書き澪岡の前に置いた。


○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ● ●


「さっきと同じで九回連続投げた結果だとして、次に表が出ようとも裏が出ようとも

最終的な確率は一緒なんだよ。人生には幾つも分岐点がある。『はい』か『いいえ』、『右』か『左』、

『やる』か『やらない』。二択の連続なんだよ。『自分だけがラッキー』とか

『自分だけが何をやってもうまくいかない』。『自分だけが』って事はないんだよ。

結局は発生確率なんて表だろうが裏だろうが一緒なんだよ。俺はお前でもあり、マスターでもあり、

あそこのカップルでもあるんだよ。この中の誰が誰になってたとしても不思議じゃないんだよ。」

「何が言いたいんだ。」

澪岡ははっきりと俺を睨みつけていた。こいつのそんな目を初めて見た。

「お前と俺に差なんてない。それなのにお前に何で裁かれなくちゃいけないんだ。

お前は何者なんだよ。何者でもないんだよ。そんな奴に何を言われようとも俺は自分の投げた

コインの裏表を変えるつもりはないよ。」

俺はギムレットを飲み干し、喉の疲れを回復させた。

「...そうか。わかった。」

澪岡は俺が丸を書いた紙ナプキンをくしゃくしゃと丸めた。

「マスター。ニコラシカを。」

澪岡はオーダーを伝えると丸めた紙ナプキンを上着のポケットへ入れた。

「俺もギムレットを。」

俺たちのオーダーした酒が出てくるまで、お互いに一言も喋らなかった。

澪岡の目は先程の鋭さは消えてなくなり、力強さだけを残して元に戻っていた。

俺はというと、今日中にどうやって澪岡を殺そうかと考えていた。

恐らく、こいつは本当に証拠を持っているし明日警察へ行くだろう。

この後どこかへ誘って...。いや、もしくは道路か駅で後ろから...。

「おまたせしました。」

二人の前に同時にグラスが置かれた。

二人は何も言わずに一気に飲み干した。


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