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あの日、魔女が殺した魔女  作者: 藻クズ
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01. 森林の中で

「だったら、今日からアタシの家来になりなさい」

 不意に投げかけられたその台詞に茫然とただ口元を眺め、そして、理解することもなく言葉をこぼす。二人が出会って半日も経たない出来事であった。


―――


 頬に張り付く髪のうっとおしさを感じながら、アルマは一人、森の中を歩いていた。はあはあ、とアルマの小さく短い息づかいと、地面を踏みしめる足音だけが辺りに響く。


 何処で道を間違えたのだろうか、と手に握り締めた地図を再び読む。先日立ち寄った村で購入した地図。しばらく森を歩けばすぐに街道に抜けられると助言されてから、どれほど歩いたのだろうか。もはや現在位置すら見失ったアルマにとって、地図を確認することに何の意味もない。役立つと思い買った地図が役に立たず、ただただ蓄積する疲労と糸口の見えない現状に、鬱憤(うっぷん)が爆発しそうになっていた。

「あーー、何処なのよッ!! ここぉ……」

 いや、爆発はしていた。が、すぐに自分の無計画さに後悔するアルマ。今の状況だけの話ではない。そろそろ日が傾く森の中を、身軽な腰袋一つと左腰に備えたロングソード一本で歩く彼女には、理由があった。


 幼いころに手にしたロングソード。彼女は毎日手にとっては、兵士の真似事してた。いつしか真似事が訓練に変わり、次第に彼女は兵士への憧れを抱くようになっていた。憧れは冷めることなく直向(ひたむ)きに年月を重ね、遂に衛兵として夢を叶えたのであった。

 自村から近い町に配属され、そこで六年間を過ごすことになる。様々な経験の中で、挫折を感じることもあったが、折れることのない素直な努力と町人の感謝に支えられたアルマ。未熟な彼女は次第に自信と共に居心地良さを感じていった。

 そして、小さな実績の積み重ねと、その腐ることのない姿勢を評価され、アルマは王国への配属を命じられることになった。彼女にとって全く抵抗がなかったといえば嘘になる。慕ってくれる町人。彼女に憧れてくれた子ども。信頼され、時に目標となる仲間。その人々との別れ――そして大きな不安。期待に応えられるだろうか、と。そんなまだ見ぬプレッシャーもあったが、アルマにも芯の強さがあった。決して順風満帆な六年ではなかった。自身に負けず、妥協しないそんな姿勢は、彼女の心の武器でもある。だからこそ、自分を信じ踏み入れた新天地であったが、志半ば、アルマは逃げ出してしまったのだった――。

 それから目的がある訳でもなく、ただただ大陸一の王国へと足を進めていた。その結果が今の現状である。職も捨て、人生の岐路に立ち、目の前の立ち位置すらも見失ったアルマにとって、この先のことなんて尚更分かる筈もなかったのだ。


「日が落ちる前に街道に出たかったけれど……」

 今は目先のことに集中しなければないない。が、周囲は先ほどから相も変わらず木々が立ち並ぶばかりで、人跡は微塵も感じられない。ならばと、覚悟を決め夜を過ごせそうな場所を探すが、時間だけが正確に過ぎ去っていくだけであった。足取りは段々と早く、そして忙しなく周囲を探り続けるアルマ。彼女が焦っているのは、日没だけが要因ではない。嫌でも認識しなければならない、自身の足元に絡みつく脅威に。

 擦り潰された雑草から覗く削れた土。その異様な痕跡が連なり、無数の太い線を周囲に浮かび上がらせていた。動物の類と片付けるには安直な、異質で何かが這った痕跡。


 ―――魔物である。


報告者ID:466352様

誤字指摘を受けて修正しました。ありがとうございます。


直向き(ひたき)→直向き(ひたむき):ルビ誤り

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