おいでませ下界2
ちょっとタイトルとか思いつかないです。
更新:段落の先頭字下げ処理・・・
鬱蒼とした森の中。
一本の木に隠れ、視線の先の様子を伺うように、1人の少年が居た。
その視線の先には、ならず者らしき男たち。
下卑た笑みを浮かべ、「仕事」の成功を祝っていた。
彼らはお尋ね者の盗賊団。
森深くに拠点を構え、日々街道を通る獲物を狩っていた。
しかしそんな男たちを目にしていると言うのに、少年には怯えた様子もなければ、憎しみと言った情も浮かんではいない。
ただただ静かに観察する様子は、まるで神が人々を見守るように、どこか慈悲深い神々しさを思わせた。
それから一言。
「…冒険者か?」
と呟いた。
どうやら少年に人を見る目は無いらしい。
まぁそれも仕方ない事。
元々少年の仕事は、人間を観察するような仕事では無かったのだから。
彼が唯一ぶち切れ…感情を激しく揺り動かされるのは、享楽的な神々に関する事柄のみ。
それ以外の事柄について、少年、元給の神の心は、アホほど広かった。
広いというか、興味が無いというか、簡単に言えば、彼は大変ズレていた。
―――――
「ふむ」
特に誰かを襲っていたりもしなければそういった相談もしていない。
獣のようなギラギラした様相の男に対して、周りの男たちが従っている様は、一定の秩序が保たれているように見受けられる。ギラギラした男が、彼らのリーダーなのだろう。
周りの男たちは遜っているような様子ではあるがリーダーの男に対する敵意は無い。余程慕っているのだろう。
げひげひ笑いあっては飲み食いしているようだし仲も良さそうだ。
笑い方が下品だがまぁ、冒険者は一般的に粗野と認識されているし。
うん、問題無いな。
1つ頷くと、木の影から出て歩を進めた。
「すまん、邪魔をする」
「あ゛ぁ?」
「なんだぁ?!」
突然声をかけたせいかかなり警戒された。
まぁこんな森の中だしな。
武器に手をかけている者もいる。
危機管理能力は高いようだ。
「楽しんでいるところ悪いが、頼みがある」
「あぁ!?ガキがなんでこんなとこにいやがる?!」
「なぁおい、女じゃねぇか?!」
「どう見てもガキだろうが。なぁ、嬢ちゃん、それが人様にモノを頼む態度かぁ?」
急に大声を出され何かと思えば、確かに人にものを頼む態度ではなかったな。
粗野と言えど、初対面の人間に対しては不遜過ぎたか。
というか俺はジョーチャンという名では無いのだが。
彼らの中で他人を誰何する言葉なのだろうか。
とりあえず頼み方が気に食わないと言うなら丁寧に伝えよう。
「お楽しみの所申し訳ありません。お金を頂けませんか?」
「あぁ?金だぁ?」
「おいおい、金をやる代わりに何してくれる気だ?」
「俺たちを楽しませてくれるってか?」
「「「ぎゃははははっ」」」
…おい、病気か?
なんで突然笑い始めたんだ。
宴会していたようだし変なものでも食ったのか?
さっきまでの警戒も消えやたらニヤニヤしている。
毒キノコにでもあたったか?
あのニヤついた顔がアホどもを彷彿と…
いかんいかん。奴らが無駄な悪戯を思いついた時の顔を思い出して思わずイラついた。
出そうになった舌打ちを飲み込む。
確かに頼み事をするなら相応の対価は必要だろうな。
というか金が無いのだから変な要求をされても困る。
「あいにく楽しませるようなことは無理ですが、病気や怪我なら治せます」
お前ら現在進行形で食あたりをおこしてるだろう。
そのうち腹を下すんじゃないか?
「ああん?心配しなくても俺たちは病気持ちなんていねぇぜ?」
「体力も回復できんのかぁ?」
「なんだぁ?随分積極的だな」
まさかこいつら食あたりに気づいてないのか。
どんだけ鈍いんだ。
あのアホみたいなニヤつきがずっと続いてるのを気づいてないのか?
正直引いた。
ジロジロと全身を見る目は何かを見定めているようだ。
恐らく本当に金を出すに値するかどうかを調べていると思われる。
しかし今は子供の体だったことを思い出す。
これでは難しそうだな。
いっそ街へ行って事情を話すか…?
正直彼らのニヤついた顔を見るにたえなくなってきた。
うっかり殴りそうだ。
よし、街に行こう。
「すまん、邪魔をした」
「あ?」
くるりと踵を返して街の方へ足を進める。
今から走れば日中には着ける筈だ。
「なっ?!」
「逃がすか!!」
後ろで男たちの慌てた声が聞こえた。
まさか。
つんでれ…?
いつだったか楽の神が言っていた。
内心では相手に好意があるにも関わらず、うっかりキツい物言いをしてしまうとか。
相手の機嫌が悪くなると、慌てて取り繕う事が多いとか。
まさに今の状況…!
しかし下手にこちらから声をかけると機嫌を損ねるとも言う、面倒くさい生態だとも言っていた。
とりあえず彼らが追い付けるように少し速度を緩めるか。
5分後
「ぜぇ…っと…っつかまえっ…ぜ…っ!!」
「はぁ…っずらせ…って…!!」
息も絶え絶えな様子で俺の肩に手を置いた男たちが睨むように俺を見る。
俺としてはかなりゆっくり目に走ったんだが、まるで全力疾走したみたいな様子の男たちに首を傾げ声をかける。
「大丈夫か?」
「〜〜っそがっ…!!」
更に強く睨まれたが顔が赤い。
ふむ、これが照れと言うやつか。
心配したような声掛けに赤面するとは。
なるほど面倒くさい。
「へへへっもう逃げらんねぇぜ?」
俺の肩に手を添えた男たちの後ろから更に声がかかった。
というか逃げたんじゃなくて面倒くさくなって話を打ち切ろうとしただけなんだが。
こいつらまさか俺に構って欲しいのか。
つんでれめんどくせぇ。
曰く、つんでれなる人種は他人に誤解されがちで心を許せる者が少ないとか。
おまけに実際は寂しがり屋とか。
くそ面倒くさい。
しかし初対面の俺にどんな希望を見出したんだ。
つんでれ同士じゃ満足出来ないのか。
まさか、隠している俺の神気にあてられ…
「!」
「へへへ、ようやく理解したか」
「…っああ…」
食あたりではなかったのか…!
俺を見てやたらニヤついたのも神にも縋りたい程の寂しがり屋のなせる技か…!
つんでれとはかくも恐ろしいものだったのか…!
くっ…正直人間を甘く見ていた…!
思わず顔を歪めると、両肩の男たちの手に僅かに力が籠る。
いかん、このまま彼らの話を聞くのは時間がかかるだろう。
きっと自身がどんな思いでいたのかを生い立ちから話されるに違いない。しかも全員。
つんでれは拗らせると話が長いと言ったのはどの神だったか。
くそ!興味が無さすぎてスルーしてたが解決策までしっかり聞いておけば…!!
「そうそう、大人しくしてりゃあ悪いようにはしねぇぜ?」
「…っ…」
嘘だ…!
あれは理解者を見つけた目だ。
キラリと光った。
あの目をしたやつはロクな事をしないと相場が決まっている。
思わず周囲にいる男たちに視線を向ける。
全員がニヤニヤと視線を交わしている。
誰が1番に話すか相談でもしているのか、視線を交わす度に、目にギラギラとした光が宿り始めている。
まずい。
きっと開始30秒で飽きる。
そして聞き流す。
絶対に気づかれる。
拗らせたつんでれ達が切れたらとんでもないことになるらしい。
何の罪もない彼らには悪いが、意識を奪うか…?
「おいてめぇら!初モノは俺様に寄越せと言ってんだろ!!」
「そんな!頭を相手にしたらすぐぶっ壊れちまいますよ!」
「がはは!従順になって良いじゃねえか!!」
「?!」
こいつら…!
まさかあのリーダーの男は俺の精神を壊すほど話のネタがあると言うのか?!
顔から血の気が引いていくのがわかった。
不当な暴力は唾棄すべきだが、さすがに神の精神にさえ影響を及ぼす程の内容は看過出来ない。
今後、普通の人間に希望を見出してしまったらコトだ。
仕方ない。
やはり1度気絶させて街に連れていこう。
精神の錯乱、つまり病気なら教会へ放り込めばいい。
俺が治した方が早いが、俺の神気にあてられてこうなってしまったからには、不用意に力を注ぐべきでは無い。
一瞬で意識を刈り取らなければならない。
魔法を使わずに、体術で、だ。
首に手刀は下手したら首を落としてしまう。
みぞおちを打っても下手したら貫く。
顎も下手したら頭蓋を破るやも…
そんなことになれば確実に治癒魔法をかける必要が出てくる…!
くそ!
やわ過ぎるぞ人間!!
というか俺のステータスと肉体をもうちょっと人間寄りにしておけよ!!
こうして彼らの身の安全を考えている間にも、じりじりと距離を詰められている。
くそ、いつ肩に添えられた手が、俺の肩を組むように回されるか分からない。
下手に突っぱねる事も出来ない。
チラリと腰の剣に目をやる。
道具を使えば、多少力が分散されるのでは…?
「おいおい、まさか抵抗しようってんじゃあないだろうな?ああ?」
「っ!?」
いかん、気づかれた。
男たちの雰囲気に、僅かに剣呑さが滲む。
いつの間にか額に汗をかいていた。
思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
お読みいただきありがとうございました。
お気づきかもしれませんが、彼はちょっとズレてます。
神様だもんね!