プロローグ的なそれ
あれの続き
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中でも1番やばかったのは魔王になりやがった時。
目を疑った。
魔王として生まれたわけではなかった。
成り上がりやがったのだ。
魔物としては底辺に生まれながらも。
魔王になった途端ハッスルし過ぎて世界の半分くらいを手中に収めやがった。
本人曰く「ノリが大事だ」と。
うるせぇ。
そんな風に無駄に才能が発揮されてしまったのだ。
ちょっとまずいということで本来の手順で英雄が召喚され世界を平定したが、倒される瞬間まで、奴は最後まで笑っていた。
真面目に勤めていた神々は全員ドン引きしていた。
俺は素直に謝罪した。
真面目に勤めていた神々に優しくされて泣きそうだった。
そうやって何にでも楽しみを見出す奴らの所業のせいで、仕事が増えるし終わらないしでもうしんどい。
下界に叩き落とした自分のせいでもあったので余計にダメージがでかい。
享楽的な神々の"楽しみを見出す"才能を甘く見ていた。
おまけに最初に落とせはしたが、生まれ変わる際は転生の権能を持つ転の神が管理しているので、阿保を無責任に放流しただけだった。
本来なら何も出来ずにただリソース生産機となるようにしたつもりだったが、無駄に世渡りが上手いとか。
くそが。
さらに取り上げたリソースでさえ、享楽的な神々の管理下に還元していただけなので、また奴らに消費され、と…無限ループだった。
もう疲れた。
寝転んだまま、もう一度深くため息をついて作業を開始した。
作業しなければ終わらないし休めないからだ。
今日もまた一柱、享楽的な神を堕とすことになる。
正直こいつらわざとやってないか、と考えが過ぎるも、いつも通り、ルールに則って機械的に処理をした。
権能を奪い、記憶を奪い、力を奪い、リソースを取り上げ…
どこか遠くで「ついにやったぜ…!!」とか聞こえた気がしたが多分幻聴だ。
同時に、あなた疲れてるのよ。という幻聴が聞こえたので多分そう。
限られたリソースをやりくり…もとい管理するのはなかなかに骨が折れるのだ。
一番疲れるのは奴らの相手だが。
休みが欲しい。
しかしもうある程度は自動化できている。
万が一も考え、同じく生真面目な神々にちょっとずつ権限を付与しておいた。
自分以外に触らせるのは正直怖いが、真面目に仕事している彼らなら信頼できる。
G…じゃない。阿保が彼らの方へ湧かないようにセキュリティ対策も万全だ。
もし自分が過労で動けない時には協力して欲しい旨を添えて了承を得ているし、もちろんその逆もしかり。ものすごく親身になってくれたが、多分相互協力ができるからだ。
仕事ができる神って素晴らしい。
会話が通じるって本当に素晴らしい。
ぶっちゃけ自身も世界1周くらいの休暇をもぎ取っても問題無い位にはマニュアルも完ぺきにしてあった。
なぜ疲弊しながらもここまで職務を忠実にこなしているかというと、元々は頂点たる神、主神である創造神のせいだ。
主神が一柱で担っていた幾多の世界の管理を、「なぁ、ワシ働き過ぎじゃね?」の一言で、突然、彼を補佐していた自身を始めとする秘書的な遣いたちに力の一部を振り分けた。
そして、「ちょっと視察と休暇を兼ねて世界一周してくるからあとよろしくね」と一言告げると、ふらりと界を飛び立ったためだ。
通り魔的犯行に誰も動けなかった。
突如力を与えられ、自身を始めとした秘書、もとい遣い達は「は?」と立ち尽くした。
おまけに「よろしく」と言われたので反射的に「はぁ」と言う生返事をしてしまったがために契約は完了してしまった。
正気に戻った我々は呆然とした。
しかし幸か不幸か、自らに与えられた力の使い方を自然と認識してしまったが為に何の問題も無く管理できてしまった。
創造神の名は伊達では無かった。
とりあえず主神が不在の間に世界を滅ぼす訳にもいかず、まぁしばらく管理しておくか、とそれぞれの仕事に就いた。
数多の神の誕生である。
お手軽過ぎる。
創造神の名は…以下省略。
世界1周とか何百年何千年かかる気だ、とは誰も突っ込まなかった。
神々の時間軸は人間のソレとは違うからだ。
それに、確かに主神が休みを取るのは初めてのことだし「まぁいいか」と、初めは全員真面目に働いていた。
自分の管理下になった世界の崩壊は、自分の力を失うことを意味することを理解したからだ。
おまけに各神が管理することになった世界がすべて崩壊した暁には存在の消滅すらあり得るから気を付けてね、という爆弾情報が残されていたらしい。
おい。
存在の消滅をおまけ扱いするのはどうかと思うが、与えられてしまったものは仕方ないし、今まで通りやればいいのだと、全員が自らの仕事に従事した。
しかし、管理する世界にちらちらと映る頂点たる神の自由気ままな振る舞いに、明らかに自由を謳歌している姿に、享楽的な権納を与えられた神々が我慢出来るはずもなかった。
我々でさえイラついたのだ。
享楽的な権能を持つ一柱、また一柱と似たようなことを考えだし。
リソースに余裕があるから、と。
管理は別の神(俺)がするし、と。
世界の危機を救う英雄とか見てみたい、むしろ自分の手で作りたいし、ギリギリを責めたら面白そうじゃね?と。
そして才能を遺憾なく発揮した。
本当に才能の無駄遣いである。
奴ら、自分が楽しみたいが為に、普段競い合っていた連中とも協力して成し遂げたやがったのだ。
もう一度言おう。
才能の無駄遣いである。
そしてその無駄な才能が、下界でも遺憾なく発揮されている。
本当に才能の…以下省略。
とりあえず、最初に遺憾なく才能を発揮しやがった神々は、今も下界での生活を楽しんでいた。
下界で死を経験する度に、当然赤ん坊からやり直しになるのだが、生まれ持っていた性質のせいで、記憶が無くとも、毎度違う人生を歩めることを心の底から楽しんでやがる。
むしろ戻ると仕事しなきゃだからしんどい、という感情が残ってやがった。
殴りたい。
下界が罰にならないので正直枷を付けて馬車馬のごとく働かせた方がましだった気がする。
さらに、今現在好き勝手振舞っている享楽的な神々には才能がなかった。
必要最低限の処理はできるが、応用力は無い。だからこそ今も残ってアホなことをしているのだろうが。
おまけに好き勝手したいがために「リソースが足りない」とクレームを入れてくる。
能力も無いのに給料を要求してくるアレである。
今すぐ奴らの元へ行き、顔面をぼこぼこにしながら罵声を浴びせてやりたい衝動を抑え、ログを一瞥。
ほぼ中身の無い要求な上に過去に阿保どもがやらかしてから禁止事項にしていた内容なのでその旨を記載して返信した。
仮に余剰分からリソースを渡すにしても享楽的な神々内で共有しているリソースだ。
お互いに首を絞め続けるという永久機関は既に完成している。
真面目にやってる他の神々に迷惑をかけるような真似はしないしするつもりがない。
自分たちのケツは自分たちで拭え。
当然である。
当初は苦労したが、今は慣れたものである。
慣れたくはなかったが。
処理自体は目をつぶっていても出来る。
そんな能力いらなかったが。
馬鹿の一つ覚えのように連絡入れてくるのは同じ奴らばかりだからな。
ほんといい加減学習しろ。
毎日何かしらこちらに迷惑をかけて来るのは、もはや才能なのではないかと疑い始めている。
他の神々はどうあしらっているのだろうか。
相談すればよかった。
――――――
そろそろ残っている奴らからも権限を取り上げられる時期だからと、彼は何とか堪えていた。
下界には、享楽的な権能を持つ神々の、楽観的で自己中心的な性質の奴が増えてはいたが、同類の神々の管理下なので彼には無関係とスルーしていた。
分散して落としても居るし、混乱も問題も無いだろうと。
なんなら、ぜひお互いにまた阿保みたいに競い合ってリソースを生産してくれ、と言わんばかりに放置していた。
とりあえず、主神が帰ってきたら殴…休みをもぎ取ろうと常々思う程には、彼らの相手に疲れきっていたのだ。
しかしそれが、自分の首を絞めることになるのを、彼は知らなかった。
お読みいただきありがとうございました。