プロローグ的なあれ
急に思い立ったので。目指せ完結。
更新:段落の先頭字下げ処理・・・
真っ白な空間にぽつりと、1人の青年が居た。
居たというか、仰向けで寝転んでいた。
20代半ばほどに見える青年は、目を閉じたまま微動だにしていない。
整いすぎたその顔は、彫像のように人間離れしており、白い肌も相まって、その姿はまるで死んでいるようだった。
まぁ彼は人間では無いのだが。
ここは神界。
数多に連なる神の世界の1つ。
その中でも、各神界における必要な力の供給量を設定し、必要な量だけを供給する場所。
神々が管理している世界から、神の力の源たる力を集め、その力を各神界へ供給して、神々が管理している世界を維持するために正しく循環させる………まぁぶっちゃけ運営に必要な経費を定め、組織へ付与する財源管理的なものを担う部署、違う。場所。
仕事内容としては責任重大ではあるが、日夜同じルーティーンを繰り返すだけなので、慣れてしまえば寝ながらでも作業が可能だった。
問題さえ起きなければ、眠りっぱなしでも良いのだ。
問題さえ起きなければ。
彼は眠っているからでは無い。
疲れているのだ。
休める時に休みたいのだ。
そしてその眠りを妨げる音が響く。
「…あぁ…」
彼、便宜上"給の神"と呼ばれている青年は、小さく息をこぼすと、諦めたようにゆっくりと目を開けた。
そして深い深いため息を吐き、
「…………またか………」
と呟いた。
神界という名の組織における運営に必要な力の供給を司る権能を持っているので、他の神々が好き勝手に力を使えば当然リソースが不足してしまう。
そして必要最低値を下回りそうになると、彼へ連絡が入るのだ。
ここは、誠実で堅実で規則を遵守するくそ真面目な者、または情に流されない公平な者にしか管理できない。
彼はそれなりにくそ真面目だった。
故に規則を守らなかったり、規則を逸脱する神々に対しての彼は非常に冷たい。
相手によっては表情が消える。
それ以上になるとぶち切れる。
しかし情に流されるような性格でもなかった。
彼の中で、敬意を払うに値するかどうかで対応が変わるだけの話だからだ。
振れ幅が大きいが為に二重人格を疑われることもままあるがそれは彼にとってはどうでも良いことだ。
そもそも規則を逸脱する奴が悪い、という認識だ。
おまけに優秀さが仇になり、一人でも管理できてしまっていた。
険しさを滲ませた表情は、彼の美貌に陰りを見せる。しかしそれ以上に疲れきった様相は、無能な上司と部下に挟まれる中間管理職の中年のような哀愁を漂わせていた。
せっかくの美貌が台無しである。
しかしそれも仕方のないこと。
彼は、享楽的な権納を与えられた数多居る神々の好き勝手な振る舞いに忙殺されていたからだ。
彼はごろりと寝転んだまま、死んだような目で新たに追加されたログを再度見た。
"キューちゃんHELP!リソースやばい!――BY俺☆"
そして呟く。
「by俺☆…じゃねぇ…っ!」
そして顔を盛大に歪める。
「……やばいのはてめぇらの頭だ〇〇共が…っ!!!」
くそ真面目な彼は、美しい面立ちではあるが、ちょっと口が汚かった。
「あぁ…こいつはどうシメるか…」
そして敬意を払う必要が無い相手には、とても短気だった。
―――――
最近、享楽的な神々の間で横行している加護の付与。
1つの魂に与えるには強大過ぎる力。
世界のバランスを簡単に崩すような過度な能力。
それをたった1つの…集団だったりもするが…とにかく魂の許容量を超える程の能力を与えては、自らの世界に解き放つ。
そしてその魂の生き様を、初めは応援し、暇になれば試練を与え、時に見放し、時に飽き、最終的に忘れ去る。
せめて最後まで面倒を見ろ、と言いたいが飽きっぽい奴らには意味を成さない。
返事はするが口だけなのだ。
おまけに奴らはそれを何度も繰り返す。
何度も何度も。
奴らの首から上を粉々に砕いて捨ててしまいたいと何度も願うのは仕方ないことだろう。
最近は呼び出される魂たちも、はいはい、チート転生チート転生、と慣れたものである。
慣れるな、と言いたい。
魂たちの反応は様々だが、受け入れようが拒絶しようが、すべてが異なる反応な為、それはそれで享楽的な権納をもつ阿保ど…神々には大変喜ばれていた。
本当に奴らはどうしようもない。
何にでも楽しみを見つける奴らの才能の一つである。
やめてほしい。
そして奴らは己の管理する世界だからと、段々際限が無くなってきた。
おまけに似た考えを持つ奴らが結託し、数は力とばかりに次々と問題を起こしている。
手に負えない。
初めは突発的に生じた異変の処理のためだった。
数千年単位の、忘れた頃に起きる程度の緊急事態の解決の為に、神々の持つ権能のバランスを鑑みて異界から魂を引き上げるかを話し合い、引き上げると決めたらならば、複数の神々の合意の元、特別な儀式を経て異界の魂と契約を交わし、世界の守護を依頼していた。
それを、享楽的な権納を持つ神々が「何それヤバくね、ウケる」と無駄にある才能を遺憾なく発揮し、簡略化し、単独で異界の魂を引き寄せた上に能力を与え、果ては自らの管理下の世界へ送るという主神レベルの大業を成しえてしまった。
普段はお互いにどうでもいい内容で一番を競い合っているくせに、好みの方向性が同じになった途端に相乗効果をもたらしやがった。
能力の無駄遣いである。
いい加減にしろ。
当初はちょっとした天変地異が起こった際に実験的に投入していたようだ。
その天変地異ですら時間をかければ現地の者でも対応できるものだったが、阿保みたいに能力を与えた魂が阿保みたいに活躍した上に阿呆みたいに奴らと考えが似通っていたせいで、想像以上に享楽的な神々のツボに入った。
入ってしまった。
そして「マジやべー、俺も、私も」と次第に数が増えていった。
ふざけるなくそが。
しかしそう簡単に強大な力を得た魂が活躍する場なんてあるはずもなく、奴らはわざわざリソースを割き、ある時は仮想敵を作り、ある時は全世界の生き物を敵対させ、そしてまたある時は、与える所か奪う始末。
奪ってどうする。
しかも奪ったリソースで新たな魂を召喚するという酷いマッチポンプを慣行した。
享楽的で楽観的な価値観を持つが故に、その時の思い付きで好き勝手に振舞う神々。
消費され続けるリソース。
世界から産み出される神の力の一端とも言うべきリソースは、一時期奴らの管理分のリソースが枯渇しかけたが、そんなこと許されるわけがない。
下手したら真面目にやってる他の神々のリソースを割く羽目になりかねないので、早々に自らの権能をフル活用して、一定の使用量を超える場合は強制的にそいつの管理下のリソースと本人が持っていたリソースを奪取し、改めてリソースに還元。
本人分しか残ってないってどういうことだと当初は切れた。
うっかりじゃねぇんだよ。
今まで消費したリソース分を稼いでくるまで、一定期間の神界からの追放、もとい奴らの管理していた下界に叩き落した。
その時の俺の笑顔はきっと神として誕生してから一番輝いていたに違いない。
ぶっちゃけお前ら自分たちが作ったアホみたいな環境で揉まれて来い、という私怨が混ざっていなくもないがこれ位は許されても良いだろう。
しかし今日に至るまで結構な数を堕としてきたが、第2、第3どころかもう千は超えてるんじゃないかってくらい堕としまくっているが全然減らない。
下界で異常な繁殖力を持つGなのか、と。
小さくて黒い平ぺったいのでも緑の小鬼でもどうでもいいが、ソレなのかと。
そして奴らはへこたれない。
むしろ楽しんでいる。
世界における各種族の、人間なら人間における一般的な力しかないのに。
「やべー、苦戦するー、死ぬ―」と言いながら笑っているのを見た時は正気を疑った。
罰にならなかったので、早々に記憶も消すように調整したが、持って生まれて染みつきまくっていた享楽的で楽天的な性質は変わらなかった。
なんてしつこい。
酷い時は路傍の石だというのに、蹴り転がされるのすら喜ぶという始末。
理解できない。したくもない。
知能の低い獣として生まれれば、本能に忠実に生きる事に喜びを見出し、弱肉強食の世界で日夜縄張り争いに勤しみ、人間に生まれれば可愛いもので言えばガキ大将。酷い時は暴虐の限りを尽くす王だった。
そもそも享楽的な奴が好き勝手に使える金と権力が付与されればそうなるか、と妙に納得した。
落とす先の生物が指定できないせいでもあるが、まぁ世界を崩す程の力は無いのでもうスルー案件だ。
最終的に民衆に酷い殺され方をしていたがそれでも笑ってやがった。
本当に意味がわからなかった。
お読みいただきありがとうございました。