薬師と楽しい仲間達 後編
あの日から数日が過ぎた。
薬師兄さんからの連絡は来ない。
だが俺からは連絡はしない、彼等達で結論を出すべき事だから。
いよいよ秀星祭が10日後に迫った10月24日、薬師兄さんから連絡が来た。
「すまないな、また呼び出して」
石田家の前回と同じバレエルーム。
4人共前回の衣裳は着ていない。当たり前か。
「結論は出たの?」
「ああ、約束を断りたい気持ちはある。
しかし招待して今さら来るな、とも言えない」
「だろうね、余程親しくしてない限り次のチャンスは来ないし」
「だから、だから頼む浩二!
俺達に今から出来る事を教えてくれ!!」
「出来る事?」
「舞台の上で出来る事だ。
調子良い事を言ってるのは分かっている。
だけど浩二に頼むしか思い浮かばないんだ」
「「「お願いします」」」
薬師兄さんに続いて3人も頭を下げた。
「持ち時間は?」
俺は薬師兄さんに尋ねた。
「え?」
「ステージの持ち時間だよ」
「あ、ご、約5分だ」
「ふむ」
(歌1曲分か、正直もう少しあるかと思ったが新入生にはこんなものか)
「何か楽器でもやろうか?」
「プロの卵の前でか?」
「なにか違う歌を」
「今さら間に合うかよ」
「お前ら静かにしろ!浩二が集中出来ないだろ」
いや良いよ薬師兄さん、みんな真剣に考えたのが分かるから。
1つやってみるか...
「合唱だ」
「「「合唱?」」」
「合唱ってみんなで声合わせて歌うあれか?」
「嫌なら良いよ」
「嫌なんて言ってないだろ」
「3人共顔をしかめてこっちを見れば嫌としか思えないが」
「しかし浩二、俺達たったの4人だぞ合唱ってもっと人数がいるんじゃないのか?」
「薬師兄ちゃん、今から本格的なのは間に合わない。
だから一気に5分間でけりをつける。
合唱でジャンルは[ドゥーワップ]だ」
「ドゥーワップって先日学芸大学の?」
「そうだよ。あれもドゥーワップの1つだ。
ドゥーワップなら3人以上いたら形にはなる。
そして伴奏はギターのみ」
「おい、待て俺達ギター弾けないぞ?テープでも流すのか?」
「それについては考えがある。
やるの?やらないの?」
「分かったやろう」
「やろう」
「やります」
「何でもやるって決めてたもん」
「それじゃまず声を出して」
「え?」
「パートを決めるんだよ、まずは高音」
「あ、あ、あ、あ、あー」
「そんな旋律いらん」
「すまん。あー」
俺は4人の声を聞いてから前に集めた。
「大体のみんな声は分かったらそれじゃ指名するよ」
「石田司!」
「あ、はい」
「声はよく響くしリズムも悪くないテナーだ」
「薬師明信、斎藤弘之!」
「「はい!」」
「薬師兄ちゃんの声は以前の練習で少し分かってる。斎藤君の声は主旋律に絡みやすい。
だから2人はバリトン」
「え~...お前!」
「俺だけ名無し?」
「ベース。以上だ。明日曲を決めて持ってくるから明日も集まって」
「「「「了解!」」」」
翌日俺は自筆で各パートごとに歌詞を書いた紙を4人に手渡した。
「これは?」
「全部英語じゃん」
「無茶だよ。まだ授業じゃ『ハローマイク!』の段階なのに」
薬師兄さん達4人は口々に不安を言い出した。
「歌詞の意味なんかいいんだよ。
ちゃんと英語の下にカタカナ振ってあるだろ?
後これ」
「何だカセットテープ4つ?」
「同じ曲が入ってるから家でも聞いて頭の中で完全にコピーしてね」
「わっスッゲー英語しか書いてないよ」
「ちょっと待って僕の歌詞、歌だけじゃないけど?」
「当たり前じゃん。ドゥーワップなんだから」
「ワ~ってどうやって歌詞とからめるの?」
「それに僕の歌詞、ボンとブンとドゥンしか書いてないんだけど」
やり方を詳しく教えてやりたいけど時間が無い。
「とにかく曲を聞け、そして後はハモれ。
自分の声のパートを今から練習する」
「「「「分かった」」」」
「主旋律のテナー石田君はまずは曲を聞いてその通り忠実に歌う事」
「はい!」
「バリトンは主旋律に対する掛け声があるからずらさいない事」
「「はい!」」
「ベースはリズムを体に刻んで、ボン、ブン、ボンだ」
「はい」
「後はみんなひたすら声を合わせてハモるんだ!学校でも、授業前、休み時間、放課後。
とにかく4人顔を会わしたらハモりの練習だ」
その日から薬師兄さん達は毎日練習を重ねている。
何故知ってるかと言えば薬師兄ちゃんから『順調だ』と毎日俺に電話があるからだ。結構電話魔だな。
そして俺は、
「佑樹、ギター教えてくれ」
「え?」
「すまんギターを教えてくれ、そしてギターを貸してくれ」
「まずは事情を教えてくれよ」
「実は薬師兄さんがな....」
俺は佑樹に事情を説明する。
「そうか、なら俺も協力するぜ!」
「良いのか?」
「任せろ浩二とアッキーの為だ!」
佑樹先生のギター特訓が始まった。
(ギターは前回多少嗜んだがもう前回と今回含めて30年近く触ってないから1から佑樹教えてもらおう)
佑樹の父さんは音楽が趣味だからレコードだけでなくギターもエレキにアコースティック等10本以上所有しており佑樹も父親の手解きでかなりの腕前だった。
「浩二、本当に初めてか?何でコードすぐに押せるんだ?おかしいだろ?」
「佑樹の教え方がいいんだよ」
そんな感じて日々は過ぎた。
そして本番前最後の日曜日。
「どうだ浩二?」
「すっげぇ!浩二アッキー達すっげぇよ!」
4人組の歌を聞いて順調な上達に自信を感じる
佑樹の『すっげぇ』が石田家の練習場に響いた。
「それじゃ今からギターの伴奏付けるから合わしてね」
ギターのスコア(楽譜)は佑樹の父さんが見つけてれくれた。
更に事情を聞いた佑樹の父さんは当日ギターを2本貸してくれる。
チューニングも完璧にして当日渡してくれるそうだ。
「衣裳はどうするの?」
これは賭けだ。ここでつまらない事を言わないと信じて。
薬師兄さん達4人は顔を見合わして。
「もちろん制服でやるよ」
そう言った4人。良い笑顔だ!
「よし!」
そして文化祭当日を迎えた。
朝9時の学校。
女の子を迎えに行った石田君以外の3人と俺と佑樹は打ち合わせをする。
ステージは11時頃でそれまでは8人で文化祭を見て回る。10時45分にステージ裏に集合して出番。
俺と佑樹は背中にギターケースを抱えて移動する。
大柄な佑樹は校内でも目立つ。
身長もこの前聞いたら175センチを越えていた。
顔の彫りまますます深くなり最近は髭まで生えて来ていた。
外国ミュージシャンのような格好、
(Gパンに黒い革のジャケットを着た佑樹と制服を着た小学6年生佑樹。別人だな)
俺は懐かしい(?)前世以来の学校散策しながら時間を潰す。
やがて時間が来た。
ステージのある体育館、ステージ横の隙間から客席を覗き見る。
(パイプ椅子に座る杏子姉さん見っけ)
左右に4人並んでいる女の子、よく目立つ。
なかなかかわいい子揃いだ。
(良かった、先日のブルドックを見せなくて)
「おい次だぞ」
緊張で顔がガチガチに固まった石田君に声を掛けられる。
前のステージを終えた3人組と擦れ違った。
制服姿の4人を見てキラキラの衣裳を着ている出演者達から控え室では嘲笑の的だった。
「次は中等科1年8組 石田司君達と助っ人2人による、コーラスです」
司会のよく分からない紹介に合わせて俺達6人はステージに上がる。
急いで4人はステージセンターの所定ポジションに立つ。俺と佑樹は椅子に座り準備完了。
緊張から震えてる薬師兄さん達4人組、
(ダメだ。これではギターから曲に入れない)
佑樹と目配せして待つ。
逆効果でますます緊張する4人。
ざわつく客席。(不味いな....)
その時、
「こらー明信!
あんた達の立ち姿見に来たんじゃないんだからね!良いところさっさと見せなさい!!」
杏子姉さんの声が講堂内に響いた。
静まり返った講堂内、観客の視線は当然杏子さんに集まる。
杏子さんの顔が真っ赤になっていた。
(杏子姉さん恥ずかしいだろうな。あんな大声出したらみんな注目するんもんね)
『さあ4人組よ、男を見せろ!』
俺達6人一斉に頷く。俺と佑樹でギターからイントロに入る。
「Only you can make ~」
(完璧だ!各パートの被せ方もすばらしい)
佑樹と目を合わせてギターを弾く。
俺は成功を確信しながらギターを合わせた。
そして無事に最後ののパートに入る。
「~one and only you 」
静まり帰る体育館。
次の瞬間爆発したような歓声と拍手。
歓声に呆然としている薬師兄さん達4人に招待した女の子達も駆け寄る、杏子姉さんも泣いてる。いやみんな泣いてる。
薬師明信、石田司、斎藤弘之、北村(だったかな?)....
とにかく泣いてる。
俺と佑樹はギターをケースに仕舞うと素早くステージを降りる。
「次の出演者に悪い事したな」
「全くだ」
俺の呟きに佑樹は笑いながら返事をして秀星を後にした。




