栄光の王冠だ!
「それでは諸君、定例の会議を始めます」
とあるお好み焼き店。
4人座敷のテーブル
議長薬師明信の開会宣言で開会する。
「今回の議題はいよいよ11月3日に迫って参りました文化祭、秀星祭についてであります」
「今回も体育祭のように成功させたいな」
「おう!司、今回も頼むぜ」
「みつるも前回大活躍立ったしな」
「いや、弘之こそなかなかだったぞ」
口々に2週間前の体育祭女の子招待成功を讃える声が続く。
しかし薬師明信の名前は上がらない。
なぜならその日を彼は楽しみにする余り
数日前に風呂に長く入り過ぎ逆上せて湯冷めし風邪をひき、熱が下がらず両親からのドクターストップで無念の欠席をしたのだった。
この悲報は薬師からの電話を受けた白石さんから浩二に伝わった。
『バカが風邪引いて家に電話何度もしてくんのよ。
母さんが怒るからさ。浩二あんたあいつのマスターでしょ?
何とかしてやって』
仕方がないので先日の学芸大学附属の体育祭の助っ人に加えてあのステージに繋がったのである。
「おっと済まないな明信、お前の前ではしゃいだらまずいよな」
「ごめん、体育祭の後4日間も休んでたもんね、ショックは癒えた?」
「でも向こうの女の子も気を使って一人来なかったから3対3だから良かったな」
「そう確か白石さんだっけ?
お前良かったな、気にしてもらえて」
皆好き勝手に話す。
いつもの彼なら涙を焼けた鉄板に落とし涙の粒を踊るらすところであるが、
この日の彼はそんな声に動じる事なく微笑んでいた。
「どうした、薬師?いつもと様子が違うな?」
「本当?まだ熱が下がらないの?」
「ショックで灰になったのか?」
からかい気分で明信を弄る石田達。しかし明信は動じず静かな笑みを浮かべる。
「甘いな君達は、実に甘い。
私がいつまでもそんな些細な事を引きず男に見えるのか?」
「休み明け泣き腫らした目で来てたのに?」
「やかましい!私は既に救われたのだよ」
明信の言葉に3人は驚く。
「救われた?」
「誰に? まさか?」
「そう偉大なあの方にです」
「今回はどのように?」
「聞きたいですか?」
「はい。是非とも」
「宜しい。
確かに私は不覚にも風邪をひき絶望の海に沈みました。
しかし私の不参加を聞き悲しんだ女性から私を励ます為あの方に連絡が行き私を救って頂いたのです。
哀しみに暮れる私にあの方は仲間と共に現れて一緒に唄い踊って励ましていただきました」
「なんだよ、それだけかよ」
「本当、単に一緒にはしゃぎ回っただけじゃないか」
「それだけで救われた何だ薬師君もめでたいな」
肩透かしを食らった気分になり明信への文句が続く。
「ふふふ...」
「なんだよ。まだ続きがあるのか?」
「話は最後まで聞きなさい。
唄い踊るのは大舞台に備えての事!!」
「え?」
「大舞台?」
「どう言う事ですか?」
「練習は3日続きました。
そして先週の日曜日あの方を含めた3人で1000人近い観衆の前でコンサートをしたのです」
明信は立ち上がり酔いしれた顔で語りかける。
「嘘だ」
「いや見ろあの顔は......」
「球技大会に女の子を呼んだ時と同じ顔だ」
「嘘と思うのは仕方が無い事。しかし事実なのです。
残念ながら正体を明かせぬ為変装は致しましたが」
「何で正体を明かせないの?」
「やっぱり嘘じゃねえか?」
「僕は疑う訳じゃないけどやっぱり証拠が欲しいな」
「この新聞の切り抜きをこの特大虫眼鏡で見たまえ」
明信は持って来た鞄の中からファイルに挟まった写真と虫眼鏡を取り出した。
「なんだ地方版の新聞の切り抜きか?」
「えーと[学芸大学附属高等学校中学校合同体育祭で前代未聞の鬼ごっこ大会。
謎の3人組が舞台を盛り上げた。現在行方を探している]
この写真...まさか?」
「そうまさかです」
ニヤリと笑みを浮かべる明信。
「いやしかしカラーでわりと鮮明に写っているがどれが明信かわからねぇぞ?」
「そうだよ」
「髭に帽子に最後の一人は違うね彫りが深いな外人さんかな?」
「そいつはユゥだ」
「ユゥ?」
「彼のニックネームさ。そして私はアッキー。
因みに髭をつけておられるのがあの方です」
「うわっ?写真でも分かる凄い笑顔」
「あぁ、引き込まれるぜ」
「それじゃこの帽子を被ってるのが?」
「そう、私だよ」
みんな写真を虫眼鏡にかざす。
しかし顔を黒く塗っているため明信と確信が持てない。
「顔を黒く塗ってるからわかんねぇよ!」
「やれやれ頑固な御仁達だ。さ、証拠だよ」
明信は更に鞄から1つの帽子を取りだし3人の前に差し出す。
「何だよこのへんてこな帽子」
「え?ちょっと待って?」
「これってまさか?」
「そう、これこそが証拠の品、栄光の冠です!」
「「「栄光の冠?」」」
「そうです。中華帽とも言うらしいのですが、
あの方より頂いたのです。成長の証として。」
「確かに柄まで写真と同じだ」
「これは昨日、今日では手に入らない」
「参りました」
「俺もだ、疑ってわるかった」
「僕は最初から信じてたよ」
「「みつる!!」」
「ごめんなさい!」
「もう一度中華帽...いや栄光の冠を見せて貰っていいか?」
震える手で明信に哀願する石田司。
「ああ、もちろんだ」
優しい笑みを浮か帽子を司に手渡す明信。
震える手で頭上高くかざし、
「すばらしい!!
これが栄光の冠、いや栄光の王冠だ!!」
その後も秀星のおバカ4人組の話は続き、
文化祭の話は次の議題に持ち越されるのであった。




