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危険な?体育祭 後編

「順子姉さんお疲れさま」


 ようやく落ち着いた俺達は順子姉さんに声を掛けた。


「お姉様凄かったです。私感動しました!」


 由香も、いつもの順子さんから、お姉様に呼び方が変わっている。


「すっげぇ!俺ビックリした!!

 十河さんすっげぇ、本当すっげぇよ。

 なあ浩二すっげぇよな?」


 佑樹よ、お前はすっげぇ以外の表現を知らないのか?


「十河...また胸大きくなったな...」


 薬師、お前はバカだ。何を前屈みで言ってる?

 薬師兄さんの言葉に由香と順子姉さんの絶対零度の視線を浴びせられ薬師は縮んだ。

 身体と、どこぞも一緒に。


 午前の競技が終わり、俺達は持ち寄った昼食を食べる。

 もちろん順子姉さんも一緒、兄貴達生徒は教室で昼食となる。

 学校には余り保護者が体育祭に来ていない。


 実際家や橋本さん達の家族も来ていない。

 何とかメンバー達は兄貴を護り通している。


『さっきの順子姉さん愛のテレパシーで新たな危機はもう無いのでは?』

 そんな空気に俺達包まれていた。

 兄貴が参加するのはフォークダンスのみだ。


 これさえ乗りきれれば、そう考えながら由香の作って来てくれたサンドイッチに手を伸ばした。

 昼の競技が始まる。

 フォークダンスは最後のプロクラム。

 しばしの平穏な時間が過ぎる。


「ちょっといいかしら?」


 不意に声を掛けられて振り向くと、見たことの無い女の人がいた。

 おそらく上級生だろう、学芸大附属の体操服を着ている。


「何ですか?」


「今大変な情報を入手したの」


「大変な情報?」


「ええ。さっきの応援団にいた女の子達が泣きながら私達メンバーの所に来て『私達はは間違っていた』って。そしてこれをくれたの」


 1枚の紙を差し出す。

 そこにはフォークダンスの兄貴襲撃計画が書かれていた。


「「こ、これは!」」


 由香と順子姉さんに緊張が走る。


「どうやら僕達の出番のようだね。

 佑樹!薬師!準備はいいな?」


「おう!」


「お前また呼び捨て...まあいいか」


「由香、順子姉さん。ちょっと行ってくる」


 俺達は由香達の返事を待たずに上級生の女の人に付いていった。


 実はこんな事があろうかと事前に<有様を守る会>のメンバー数人と打ち合わせをしていたのだ。

 プロクラムが進みいよいよ最後のフォークダンスが始まる。


 校庭に全校生徒が集まって、600人を越える生徒が踊るフォークダンス。

 中々の迫力だ。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 由香視点


 明るい曲が運動場に流れる。

 レッツキッスだ、楽しそうに踊る生徒達。

 何事もなく進み最後のオクラホマミキサーが流れていた。


 その時、ある一人の女子が浩二君のお兄さんの手を引っ張った。

 呆然とするお兄さん。

 しかし次の瞬間、志穂さんが女子の手を叩き落とし兄さんの腕を取り逃げ出した。

 しかし他の女子達に囲まれる。

 場内に流れていた曲が止まり、ざわざわする校内。


「あっ誰だ!」


 不意に大きな声がする、

 その声の主が指差す方向を見た。


 校舎の正面、生徒が出入りするひさしになった2階部分のコンクリート屋根に並んだ3人組。


「何あれ?」


 そこにはスーツに身を包んだ3人組。

 顔を黒く塗り、1人はつけ髭にサングラス、残り2人もサングラス。

 何故かその内1人は頭に帽子を被っていた。

 あの帽子見覚えがある、だってあれは...


「中華帽....」

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 浩二 視点


 よし上手く行ってるな。

 俺は観客、生徒、教職員の視線を集めるのに成功したのを実感した。

 これは第一段階、これからが本番だ。

 俺は渾身の気持ちを込めマイクを握り締めた。


「RUN AWAY  とても好きさ~!」


 俺の声に合わせ曲が流れる。

 生徒会メンバーに渡したテープが鳴り響く。

 某ブランド名と同じ名前のグループが歌う代表曲だ。


 校庭では兄貴に襲いかのかからんとする女子達と兄貴の腕を取り、走り回る<守る会>のメンバー達。

 次々と兄貴の横をメンバー達が交代する。


「「ウワ~ウワ~ウワ~!」」


 佑樹と薬師兄ちゃんのコーラスもバッチリだ。

 みんなこれがイベントと勘違いし始めてる。


 おっと、俺達のいる所の窓を開けようと大人が悪戦苦闘している。

 だが、こちらからつっかい棒しているから開かないぞ。


 曲は佳境に入る。

 リレーするメンバーの疲れが目立って来た。

 兄貴もフラフラだ。

 坂倉さんが兄貴の手を握り、一般席にやって来た。

 そして順子姉さんに兄貴を託す。

 順子姉さん兄貴を...おんぶした?

 俺達はサングラスを外して更に声を張り上げる。


「お前を抱いてRUNアウェ~イ」


「「ウエーイ ウエーイ ウエ~~」」


 佑樹と薬師兄さんのコーラスが終わる。

 俺達は目配せすると隅に用意したロープを垂らして下に降りた。

 そこに待機していた<守る会>メンバーに合流、素早く演劇部の部室へと逃げ込んだ。


 メイクを落とし服を着替え、しばらくほとぼりを冷ましてから由香の元に戻る。

 由香は少し怒っていたが、順子姉さんの取りなしで治まる。

 あの後の話を順子姉さんから聞いた。


 兄貴を背負った順子姉さんは曲が終わると、教職員の席に行き兄貴を降ろし、


『とても面白いプロクラムでした。

 参加させていただきありがとうございます』

 と満面の笑顔で頭を下げたそうだ。


『イベントだったの?

 楽しかった。先生ありがとうございました』

 兄貴もそう言って笑顔で頭を下げた。


『先生すみません少しサプライズをいたしました』

 最後に生徒会の皆様が学校関係者に言って、これで一件落着。

 但し生徒会の皆様は少し怒られたらしいが、大したことにはならないみたいだ。


 体育祭も終わり5人で並ぶ帰り道。


「どうしてあんな演出になったの?」


「それはね由香、兄さんのためだよ」


「お兄さんの?」


「そうよ由香ちゃん、

 あのフォークダンスの時に有一君を無理矢理助け出すのは簡単よ。

 でも有一君の心の傷になっちゃうかも知れないでしょ?」


「心の傷?」


「そうよ、あんなにたくさんの女の子に追いかけられて怖くないはず無いでしょ。

 だから『鬼ごっこにしちゃえ』って浩二君が」


「浩二君が?」


「まぁ提案はしたけどあんなに上手く行くとはね。

 やっぱり凄いよ学芸大学附属の人達は」


「じゃあ変装も正体を隠すため?」


「いや、あれは単にしたかったら。

 衣裳から小道具まで凄かったよ、さすが学芸大学附属の演劇部。

 楽しかったよな佑樹」


「最高だったぜ!

 またやろうなアッキー!」


「そうだなユウ!」


「そうだ、まだあのテープ消してないから今度一緒にやろうぜ?」


「なんだユウ、あのテープって?」


「ギャランドゥさ!!」


「..-キュウ」


「由香ちゃん?由香ちゃんしっかり!!」

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