危険な?体育祭 中編
志穂さん達から話を聞いた翌日、早速由香に昨日の話をした。
「私も志穂さん達から聞いたわ。
やっぱり浩二くんのお兄さんは目立つから予想はしていたのよね」
「そうだね」
兄貴の危険性を知る由香。
こうなる事は分かっていた。
「順子さんに昨夜連絡しといたわ。
今日学校が終わったら4人で話し合うって」
「4人で?」
「ええ。お兄さんが好きな人同士しっかり話し合いたいらしいの」
「それなら体育祭で僕達の出番はなさそうだね」
「そうなら良いんだけど」
「まだ心配?」
「ええ。お兄さんの事が好きな方々が暴走した時の事を考えると」
「そうだな...」
浮かない顔の由香。
不測の事態に備えた方が良いって事だ。
ある一つの考えが浮かんで来た俺は早速準備に取り掛かる事に決めた。
そして数日が過ぎ、兄貴の体育祭当日を迎えたのだった。
「ねえ浩二君」
「何?」
「何でここに川口君に薬師さんまでいるの?」
由香の質問はもっともだ。
順子姉さんが来てるのは当然だが、佑樹と薬師兄さんがこの場に居る事は理解出来ないだろう。
でも今は詳しく説明する訳にいかない。
「最悪の事態に備えてだよ!」
「川口君、浩二君から聞いてる?」
俺の様子に溜め息の由香は佑樹に聞いた。
「練習しただけだぜ」
「練習?」
一応の口止めをしたので、佑樹は曖昧な返事をしてくれた。
「おう楽しかったぜ。なあアッキー」
「アッキー?」
由香は笑顔で薬師兄さんをあだ名で呼ぶ佑樹に驚いている。
「そうだなユウ!
なんか大切な物が剥けた気がするぜ!」
「ユウ?!」
薬師兄さんまで佑樹をあだ名で呼ぶ事に驚く由香。
しかし2人共ダサいあだ名を考えたな。
「薬師兄さん!
そう言う時はひとかわ剥けたと言うんだよ」
「おっそうか、ありがとう浩二」
「ふぅ...何も起きない事を祈るわ」
「僕も祈るよ、協力者達が上手くやる事をね」
「上手くやる?」
不安気な由香の心配を他所に体育祭は始まった。
一般の観覧席に座る俺達の隣に順子姉さんが笑っている。
穏やかな笑顔の順子姉さんは何人かの女生徒達に手を振っていた。
顔見知りが学芸中学に居るのかな、そんな話は聞いてないけど。
それにしても順子姉さんはいつもより大人っぽい格好だ。
化粧こそしてないが、大きな身体、見事なプロポーション、とても中学1年生に見えない。
体育祭は順調に進み、兄貴の出番も順調にこなしている。
学芸大付属は中高一貫校なので、一学年ごとの出番は少ない。
しかし良く出来たプロクラムだ、まんべんなく全ての学生に出番があるように配慮されている。
さすが学芸大学附属と言ったところか。
「次は男女混合ムカデ競走か。聞いた事無い種目ね」
プログラムを見ていた順子姉さんが運動場に視線を移す。
兄貴の出場する種目は決して見逃さない気迫を感じた。
出場者がスタートラインに向けて歩く。
みんな細長い板に足を描けるベルトの穴に足を通して登場する。
6人が縦に並んでいるのか、ここまでは普通のムカデ競走だ。
ただ列が少し特殊で、先頭から男、女、男、女、男、女の順。
成る程、だから男女混合ムカデ競走なのか。
兄貴は青いゼッケンを体操服の上に着けている班で、先頭から3人目と志穂さんから聞いていた。
でも小柄な兄貴の顔がよく見えない。
スタートのピストルが鳴った。
次の瞬間、兄貴の班に居る女子が動く、
後ろの女子が兄貴の肩に置いていた手を素早く腰に下げた。
同時に兄貴の前に居た女子も兄貴の手を自分の腰に当て、更にお尻を突き出した。
「ああ有一、なんて羨ましいんだ!!」
俺の後ろで薬師兄さんが叫んだ。
その気持ちは分かるが、口にしないでくれ。
順子姉さんの表情は笑顔だが、その目は笑ってない様に見える。
由香よ、どうして貴女は俺を睨むんだ?
由香からの視線を受け流し運動場を見ると、いつの間にか兄貴の班の横に付いていた志穂さん達が参加する班が、呼吸を会わせて兄貴の班の板の上に自分達の板を引っ掻けた。
当然転ぶ両チーム、前後の女子に兄貴が挟まれる!
「...なんて素早い動きだ」
佑樹が呟いた。
兄貴が転ぶ直前に、反対側に付いていた坂倉さん率いる班が兄貴を救出した、完璧だよ。
ムカデ競走は3チーム共に失格になったけど、
志穂さんと美穂さん、そして坂倉さんは晴れやかな顔でハイタッチを繰返していた。
その後、応援団による応援合戦が始まる。
一斉に各応援団が校庭に走って来た。
青いハッピ背中には青龍の文字。
赤いハッピ背中には朱雀の文字。
白いハッピ背中には白虎の文字。
黒いハッピ背中には玄武の文字。
みなそれぞれのカラーの鉢巻きも巻いている。
兄貴の応援団は青龍。
てっきり赤組、白組かと思っていたら四神に別れていた、さすが学芸大学附属。
兄貴の応援団長姿は...可愛い。
団長の勇ましさ、逞しさとは対極の団長がそこにいた。
それぞれの学年の前でエールを飛ばす応援団。
兄貴の周りにいる応援団の女子は明らかに
興奮して、触ろうとするが、確認学年に配置された<有様を守る会>のメンバー達が最前列でそんな女子達を威圧する。
これも見事だ。
どう見ても気合の入った応援団と気合に応える生徒達にしか見えないのだから。
最後に我々のいる一般観覧席に兄貴が来る。
一斉に周りからシャッターの音が響いた。
さすがに写真までは止められなかったみたいだ。
「何?何なの?」
「芸能人の記者会見みたいだ」
由香と佑樹は異様な雰囲気に圧倒されている。
「ああ、俺もハッピ着て鉢巻きすれば有一みたいに女子達からシャッター押して貰えるのに」
薬師兄さん、それは無理だ。
各学年の前で兄貴へボディタッチに失敗した女子達は最後に来た我々の居る一般席に賭けたようだ。
兄貴を囲む女子達の手が伸びる。
『危ない!』
そう思った時、いつの間にか席を最前列に移動した順子姉さんが立ち上がると身体を乗り出し、兄貴に何かを囁いた。
良くわからないといった顔をした兄貴が目を閉じる。
次の瞬間、順子姉さんからフワリと包み込む温かい視線が応援団の女子と周りの男子達を飲み込んだ。
...効果は覿面だった。
それは俺達にも見えた、そして聞こえたのだ。順子姉さんの心の声が。
『頑張って有一君、素晴らしい仲間に囲まれて良かったわ。
皆さん有一君を守ってあげて下さい。
お姉さんからの、お、ね、が、い』
後ろを振り返って佑樹と薬師兄ちゃんを見る。
真っ赤な顔で頷く。
恐らく俺もそうなんだろう、由香まで顔が赤い、男女問わずなのか。
これを正面から浴びた応援団達は堪らない。
みんな真っ赤な顔で校庭に戻って行った。
男子はみんな前屈み。
恥かしいよね、ご苦労様です。




