危険な?体育祭 前編
来週は学芸大学附属の合同体育祭。
何やら気合の入った女子が40人程、ある教室に集まっている。
彼女達はクラスや学年はバラバラたが、その勢力は生徒会の一部にまで及んでおり、この組織が持つ多様性を示していた。
「皆様良くって?
体育祭のミッションは有一様を1日魔の手からお守りする事」
「そうですわ。
敵は姑息にも有一様を応援団団長に指名しました。
何処の世界に中高一貫の学校で、中1の応援団団長がいましょう?」
まず口を開いたのは橋本志穂と美穂姉妹。
二人の言葉に集まったメンバー達は一斉に頷く。
「狙いは写真。そしてボディタッチ」
続いて坂本唯が静かに話を始めた。
「ボ、ボディタッチですって何て破廉恥な!」
高校のバッジを付けた1人の生徒が口を押さえた。
「それだけ有一に餓えている、奴等は危険」
坂本唯はそう吐き捨てる。
彼女は既に山添有一に迫る危険を感じていた。
「とにかく、有一君の出場する競技の多くは男子のみの参加だから大丈夫です」
別の生徒が体育祭のプログラムを広げる。
彼女は生徒会で体育祭の実行役員を勤めていた。
「男同士の嫉妬は無いかしら?」
「大丈夫です、先日有一君に意地悪した2年生、潰しました」
「潰した?社会的に?肉体的に?」
「さて、どっちでしょう?」
「なんにしても、その子は終わりね」
恐ろしい会話次々と飛び出す。
さすがの橋本姉妹と坂本唯も怯んでしまった。
「ま...まあそれなら男の嫉妬による暴力は排除されたと見て良いですわね」
「うむ、流石は有様を守る会のメンバーだ」
三人のそんな言葉を受け流すメンバー達。
先ほどの生徒がプログラムに書かれてある[有様]の出場種目に指をさした。
「だとしたら後は男女混合種目、ムカデ競走ね」
「「「「男女混合!!」」」」
「残念ですが我々メンバーは誰1人有一君と同じ班に入れなかった。
しかし横に付き有一君をお守りする事は出来ます」
「それなら同じ1年である会長達に賭けるしかないわね」
「「まかしてもらって良くってよ」」
「まかせろ」
三人は胸を叩いて頷いた。
その様子に一部のメンバーは安堵の表情を浮かべた。
橋本姉妹と坂本唯なら身を挺して有一を護ると分かっていたのだ。
「そして1番の注目は我が校伝統の!」
「「「「伝統の!」」」」
「「「生徒全員参加のフォークダンス!」」」
上級生達の緊張感溢れる声に坂本唯を始めとする1年生達は首を捻る。
「それは、そんなに危険なんですの?」
「想像つかない」
「そうね、あなた達1年は初めてですから」
「2年前の惨事...」
「有りましたね...」
「2年前の惨事って?」
一年生の尋ねる言葉に上級生達が沈痛な表情で俯いた。
「...あの時も有一君の様に注目されていた男子がいました」
「そうね、あの子も有一様程で無かったけど、可愛いかったわ」
「...ダンスが始まり曲が流れた」
「ある女がその男の子の番の時に悲劇は始まったの」
「「「悲劇?」」」
「自分のパートが終わっても男の子の手を離さないどころか、腰に手を回して、そのまま抱きしめたのよ。
その後同じように男の子を狙っていた他の女子達が一斉に襲い掛かり...」
「...これ以上は言えませんわ」
「ただ、その男の子は学校を去っていった」
「あの悲劇を繰返しては行けません」
「我々は有一君を独占するのではなく共存共栄の道を行くのです」
「それが私達の会の意義」
「そう、<有様を守る会>ですわ!!」
「フォークダンスの有一君のポジションはここから始まりますか......」
その後も遅くまでミーティングは続いた。
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「体育祭?」
塾の帰り道、俺は由香の従兄弟、橋本志穂さん美穂さん姉妹に呼び止められ、そのまま駅前のハンバーガー屋に連れていかれた。
とりあえず飲み物を頼み、隅の席に座る。
「そうですわ。来週の日曜日学芸大学附属高校と中学校合同体育祭」
「有様から聞いていますでしょ?」
確かに兄貴から来週の日曜日体育祭があるのは聞いていた。
しかし受験生である俺は行く予定は無かった。
順子姉さんは行くのかな?
「ええ聞いてます。
何か応援団を頼まれたと言ってました」
「そう、その体育祭に浩二さんはお見えになりますの?」
「いえ、予定はしてないです」
「そうですか、受験生でいらっしゃいますからね」
「この様な事をお願いするのも気が進みませんが。
浩二さん、体育祭に来ていただけませんこと?」
「なぜです?」
「有一に危機が迫っているからだ山添浩二」
「坂倉さん?」
「遅かったですわね」
「うんクラブが遅くなった」
「坂倉さんクラブに入ってたんですね」
「文芸部、そんな事はいい。
私からも頼む、有一に危機が迫っている」
「私達は全力で有一様を守る。しかし...」
「しかし?」
「予想外の事が起きた時の切り札にしたい」
「予想外とか危機とか言われましても良く分かりません、詳しく教えて頂けませんか?」
「私から説明いたしますわ。実は...」
橋本志穂さんは詳しく事情を説明してくれた。
「成る程、良く分かりました」
「では協力して頂けますか?」
「この事は十河さんには?」
「十河さん?」
志穂さんと美穂さんは順子さんを知らないみたいだ、余り接点が無いからだろう。
「有一の想い人」
坂本さんが苦々しい表情で二人に教えた。
兄貴から聞いていたのか。
「そうですわね。十河順子さんですね」
「由香から連絡して貰いますわ」
「良いんですね?」
「私達は有一様が好きです。
それは十河さんに負けないくらい」
「そして有一様も十河さんが好きな事も存じております」
「でも二人はまだ付き合っていない」
「そうです十河さんは正々堂々と私達に挑戦いたしております」
「だからお互いに干渉せず、そして卑怯な事はしたくないのです」
「でも今回は別」
「有一様の危機には手を結びますの」
成る程、順子姉さんが兄貴の好きな人と知った上での話か、なら断る理由はない。
「分かりました、僕も協力しましょう。
ではそちらの分かっている情報を教えて下さい」
打ち合わせは30分程続いた。




