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修学旅行 前編

 修学旅行シーズンがやって来た。

 俺達の小学校も9月に修学旅行に行く。

 行き先は関西。去年の兄貴達の広島でなく関西。


 大阪、神戸の2日間。

 この年、神戸で博覧会があるとかで今年のみの変更で翌年にはまた広島に戻ったはずだ。

 前回の記憶にある修学旅行も楽しかった気がするが今回の修学旅行は更に楽しみだ。


 まず学年の雰囲気が良い。

 男女のいがみ合いが無いだけでこんなに学校行事が円滑かつ楽しくなるとは意外だった。


 そして何より前回は居なかった由香と佑樹、

 そして親友の花谷さん達がいる。

 わくわくしてその日の朝を迎えた。

 学校に7時集合、今は朝6時。


「母さんおはよう」


「おはよう浩二」


「みんなは?」


「おじいちゃんとおばあちゃんは起きてるけどまだお部屋にいるわよ」


「兄さんは?」


「まだ6時よ、寝てるわ」


「父さんは?」


「知らない」


 同じ寝室だから知らない筈がない。

 この春ぐらいから家の仕事がさらに順調になり、父さんは毎晩の様に接待やら遊びに飲み歩く様になった。

 ちゃんと朝方には家に帰るんだが、確か数年後に肝炎で入院するんだよ。


『じいちゃんに釘を刺して貰おう』

 そんな事を思いながら、いつもより早い朝食を食べて母さんからお弁当を受け取って出発。


「おはよう浩二君」


「おはよう由香」


 いつもの待ち合わせ場所で由香と合流。

 普段と違い背中には大きなリュックサックを背負っている。


「まだ眠いね、浩二は平気なの?」


「6時前に起きる習慣が出来てるからね」


「凄いわ。私今朝も全然起きられなくってママにシーツ剥がされちゃったもん」


「女の人は朝が弱いって言うよね。

 だから由香だけじゃないよ」


 由香は朝が弱い。低血圧なのかな?


「そうよね、いつもより1時間程早く家を出るだけで町の感じも変わるわね」


 まだ通勤通学の人達がいないだけで雰囲気が違う。

 散歩する人。犬を連れている人。

 なんか新鮮だ。

 そんな会話をしてる間に学校に着いた。


「おっす浩二!」


「おはよう佑樹」


「由香おはよう!」


「和歌ちゃんおはよう」


 いつもの面子が校庭に集まり、集合まで楽しい会話が始まった。


「浩二、関西って何があるんだ?

 たこ焼きに漫才くらいしか知らねえぞ」


「私も、あと関西弁?

 まんねん、でんがな、なんやねん、ぐらい?」


「私も京都、奈良には家族旅行で行った事ある

 けど大阪と神戸は行った事無いし」


「でもよ神戸楽しそうじゃん、テレビでいつもやってるあの歌、『ポートピアー』だっけ?]


「そうよね、博覧会って初めて!」


「俺も!」


「私も!」


「浩二君は?」


「僕も、もちろん初めてだよ」


 この時間軸ではね。


「浩二君関西に詳しい?」


「少しテレビで見るイメージくらいかな?」


 本当は『テレビで見るイメージくらい』でない。

大学の4年と会社の2年、計6年間を大阪で過ごした。


 もちろん前回の時間軸での話。

 堺市にある大学に通い、先輩に酒、麻雀を覚えさせられ、先輩に鴨にされ負けて金をむしり取られ家賃が払えず下宿を追い出され大阪市内の実家から通ってる同級生の家に転がり込んで助けてもらったんだ。

 ...思い出したら腹立って来た。


「どうしたの浩二君?」


「いや別に」


「それじゃ俺達は自分のクラスに帰るか」


「そうね、由香バイバイ」


 集合時間になり、佑樹と花谷さんは自分のクラスに戻っていく。

 普段なら俺の僅かな変化も見逃さない由香だが、今日は修学旅行。

 しかも佑樹と花谷さんが違うクラスの寂しさからか気がつかないみたいだ。


「はい集合!」


 引率の担任の教師達が皆を集める。

 出発式が始まり、最初に校長先生からの訓示、長い。


 次は俺が生徒代表で簡単な挨拶。

 予め先生に見せていた予定原稿の半分近く割愛。


 楽しみ前の挨拶は短いに限るのだ。

 挨拶が終わり教師達の目が一斉に集まる、笑顔で対応。

 校長目を伏せ、俺勝利。

 その後あやふやに出発式は終わり。

 クラスごとに分かれ、バスに乗り込み出発。


「「「ありがとう浩二」」」


 バス車内でクラスメートからの感謝の嵐、みんな校長の話の長さは辟易だったらしい。

 担任までも、


「ありがとう山添、助かったよ。

 実はお前の挨拶の後、まだ教頭達が話をする予定だったんだ。

 山添の笑顔であやふやになったよ。

 みんな!先生からのプレゼントだ、全ての席移動を許可する!」


「先生、新幹線もですか?」


「ああ他のクラスの移動もOKだ!

 但し移動は2回までとする。

 騒いで他の乗客の苦情が来たらその場で終了だ、いいな?」


「「「はい!!」」」


「先生良いんですか?」


「構わんよ、6年全担任が決めた事だ。

 今頃他のクラスのバスでも発表してる頃だろう。

 この学年の纏まりは素晴らしい。

 いじめも無ければ仲間外れも無い。

 来年から別の担任を受け持つのが怖い位だ」


 そう言って担任は笑った。


「ありがとうございます」


 この担任は前回も一緒だった。

 前回の印象は余り覚えて無いが、話せばこんな好い人だったんだ。

 これも今回の変化なんだろうか?


「浩二君!!」


 由香が顔を赤く染めてやって来た。


「由香、良かったな」


「うん。浩二君のお陰だよ!」


「ありがとう浩二!」 

「浩二君ありがとう!」

「サンキュウ浩二!」

「キスしていいか浩二!」


 クラス内から感謝の声があがる。

 先生の粋な計らいに感謝だ。


「みんなありがとう。

 でも僕の力じゃない、先生が僕達みんなを信用しての事だよ。

 その事を決して忘れないでね!」


「了解!」

「分かった!」


「後、キスはいらない」


 俺の言葉にクラスが笑いに包まれる。

 やがてバスは駅に着いた。


「浩二!」


 佑樹達が走って来た。


「聞いたよ。一緒の電車だな!」


「もちろん!」


「由香!私達もね」


「和歌ちゃん私も嬉しい!」


 バスターミナルのあちらこちらで歓喜の声あがっていた。


「さあみんな新幹線に乗るまでは打ち合わせ通りだ、整列!」


 教師の声にみんなお喋りを止めてクラスごとに整列する。


「ますます楽しくなりそうだ」


 由香の手を握りながら、楽しい旅の始まりを感じていた。

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