祐一襲来
兄貴の中学校生活は順調に始まり平穏な日々を過ごしている。
対する俺は受験戦争の真っ只中。
努力のお陰か、俺は由香と模試判定でA判定を取る事が出来た、
佑樹もサッカーで地方大会優勝を決めた。
佑樹が言うには、
『クラブチームの出ない大会だから優勝は当然だぜ』
それを聞いた花谷さんに、
『負けたチームの事を考えなさい』って怒られていた。
そして今日は花谷さんの剣道の大会日。
俺と由香も息抜きがしたくて隣りの県まで応援に来ていた。
もちろん佑樹も一緒だ。
会場は3つのゾーンに別れていて、(柔道、剣道、空手)花谷さんは剣道の部で見事優勝を決めた。
「応援ありがとう」
試合を終えた花谷さんは防具を外し、汗を拭きながら俺達のいる応援席にやって来た。
「やったな和歌、優勝じゃん」
鞄から水筒を花谷さんに手渡す佑樹。
中は冷えた麦茶が入っていた。
「今日は全国クラスの選手は出て無いから当然の結果よ」
少し照れながら花谷さんは水筒をらっぱ飲みする。豪快だな。
「おい待て、この前俺が似たような事言った時、怒らなかったか?」
「個人の闘いは良いのよ」
「んな言い訳あるか!」
いつものやり取り、言葉と裏腹に佑樹達は笑顔だ。
「この二人は似た者同士だね」
「本当」
俺と由香も釣られて笑った。
「そろそろ表彰式だろ」
「そうね、行って来るわ」
水筒を佑樹に返し、花谷さんは応援席から再び会場に戻って行く。
表彰式は3つの種目全て1ヵ所の会場で行われる。
俺達も表彰式の会場に移動した。
小さな大会と花谷さんは言ったが、結構な人が式を見ようと集まっている。
適当な場所を見つけ、表彰式を観覧する。
さっきはあんな事を言っていた花谷さんだけど、嬉しそうな笑顔で賞状とカップを受け取っていた。
「お待たせ」
荷物を肩に担ぎ花谷さんが走って来た。
やはり剣道の荷物は大きい、包みには防具が入っているんだろう。
「着替えねえのか?」
「会場のシャワー室は小さいからね、芋洗い状態だからこのまま帰るわ」
「そっか、荷物持ってやる」
「あら、ありがとう」
微笑ましい佑樹と花谷さん。
俺も何か由香の...ポシェットしか持ってないな。
「待って!」
会場を出ようとする俺達に後ろから声が掛かる。
振り返ると白い道着に黒帯を締めた女の子が息を弾ませやって来た。
「やっぱり由香ちゃんと浩二君だ、久し振り!
といっても2ヶ月振りか?合宿以来だね!!」
満面の笑みを浮かべて喋る女...いやこいつは...
「祐一か?」
「今気付いたの?僕遠くから分かったよ!
由香ちゃんと浩二君だって!」
やっぱり祐一か、私服しか見た事ないからな。
なかなか道着姿も似合ってる。
長い髪を後ろで束ねる姿はやはり女の子にしか見えない。
「ねえ由香、この子って知り合い?」
花谷さんが聞いた。
そういえば二人は祐一と初対面だったな。
「そうだよ、清水祐一君って言うの。
祐一君、彼女は花谷和歌子さん。
私達と同じ岸里小学校の親友なんだ」
「へー親友同士か、僕と浩二君みたいな?」
祐一よ、なんで上目遣いをする?
「えっ?祐一って嘘、由香この子男の子なの?
だって声まで女の子で。えっ?」
激しく混乱する花谷さん、佑樹は...固まっている。
その気持ち分かるぞ。
「和歌ちゃん大丈夫よ、見た目は女の子みたいに可愛いけど、ちゃんとした男の子だから」
『嘘だ!』
由香の言葉に心で叫んだ。
「そうだよ、僕はちゃんとした男だから」
『絶対ちゃんとしてない!』
もう一度叫んだ。
「どうしたの浩二君?」
「いやその...何で祐一がここに居る?」
「だって空手の大会だったから」
「空手?」
「合宿で言わなかった?」
「ああ、空手。
祐一のじいちゃんが道場やってる」
そう言えば聞いたな、かなりの腕前だって。
「そうだよ、受験勉強ばかりじゃ体力落ちるから出ろって、じいちゃんが」
「祐ちゃん結果は?」
「もちろん優勝!」
祐一は可愛いくウィンクして由香に飛び付く。
おい由香に、貴様は!
「...なあ浩二」
「なんだ佑樹?」
「合宿で会った親友って、なんの合宿だ?」
佑樹の疑問はもっともだ。
ちゃんと説明しよう。
「もちろん勉強だ」
「同じお釜のご飯食べたんだよ」
「オカマを?」
「こら佑樹!釜の飯だ祐一もわざとだろ!」
どうも祐一が相手だと調子が狂う。
「ごめんね、冗談はこれくらいで」
祐一、お前の冗談は分からんぞ。
「改めまして僕は清水祐一。
石山小学校6年生、君達の事は浩二君や由香ちゃんから聞いてるよ。
川口佑樹君に、花谷和歌子さんでしょ?」
「あ、普通の男の子の声」
「これはこれで違和感あるな」
「普段の声が地声だからね、無理したら低い声が出せるんだ、滅多に出さないけど今日は特別」
祐一よ、男の声が出せるなら普段からしろ。
それと由香の呼び方は橋本さんに戻らないんだな。
「君達も来年仁政第一受けるんだよね、一緒に頑張ろ」
「えっ?空手部って仁政に推薦あった?」
「ひどい和歌ちゃん!」
「「和歌ちゃん?」」
「ちゃんと一般試験で入るよ。
ね?浩二君も佑樹君と一緒に行こ」
祐一は両腕を俺と佑樹に絡ませる。
そんなに力は入ってない筈なのに解けない。
佑樹ですら踠くばかりだ。
「何で祐一君に腕を組まれて嬉しそうなの?」
花谷さんは冷えた声で佑樹を見るが、これは仕方ないのだよ。
哀れ佑樹...
「離せ清水!和歌誤解だ!俺はノーマルだ、浩二と一緒にするな!」
なんだよノーマルって?
俺もノーマルだぞ...多分。
「由香は平気なの?」
「色々あって麻痺したみたい。
祐ちゃんは祐ちゃんであってね、祐ちゃんなの」
由香分からないよ...
こうして祐一は佑樹達の友人となった。




