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男達の挽歌?

 薬師明信は悩んでいた。


 もちろん悩みの種は来週の球技大会の事である。

 自分で準備できる事は準備したと思う。

 浩二に会った翌日本屋に行き、[男女の会話術]や[出来る男はここが違う]等の書籍を購入した。

 更に新しい靴と更に靴下、何故か新しいブリーフまで購入した。


 そして家でも学校のジャージを着て鏡の前で自然体の待っている男のポーズの練習をしていた。

 しかし見本が無いからどんなポーズが正解が分からず前髪を手で摘まんだり、

 拗ねた顔をしてジャージのポケットに手を入れ『よう』と言ってみたりしていた。


 もう既に自然体の意味を履き違えていた。


 浩二の言う自然体はいつもの薬師明信でいけば大丈夫だよの意味だったのだが、薬師は自分が自然にやりたい、(なりたい)モテたい、注目されたい事を自然にするのが自然体と勘違いしていた。


 だが薬師の頭にある悩みはそんな勘違いしている自然体の事ではなく、


「誰を選ぼう...」


 まだ友人を誘っていなかった。

 薬師に友達がいないのでは無い。

 寧ろクラスでもクラブの中でも人気者な友人が多いくらいであった。


「友人を一堂に集めてオーディション...

 いや選に漏れた奴が先輩にチクったら俺の席までも奪われかねない。

 やはり声を掛けた時点で採用にするか」


 翌日から3日間、薬師は色々な質問を友人達に対して行い、その人間性を探り、遂に3人にまで絞りこんだ。

 選考基準は

『不潔でなく』

『普段から楽しい会話ができ』

『顔もそこそこ』(自分よりやや劣る)

 そしてなにより、

『抜け駆けしない奴』が選ばれた。


 翌日の放課後、薬師は3人を集めた。


「おい薬師なんだよ、いきなり呼び出して。

 最近お前変だぞ?

 昨日はいきなり『フリーで喋ってくれ』って

 3分の砂時計用意してくるし」


「そうだよ、ボクなんて『キメ顔を3つしてくれ』ってそれ意味あるの?」


「僕も変な質問ばかりされたよ。

『明智光秀をどう思うか?』とか『シーザーとブルータスの関係』とか何の意味があるのさ?」


 薬師はそんな彼等を前に、1人穏やかな顔で椅子に座り見つめていた。


「すまない今日君たちを集めたのはある特殊な役目を担って貰いたいから召集したのだよ」


「回りくどいなら俺は帰るぞ。

 今日は女とデートの打合せがあるんだよ」


「僕は塾があるから早くしてくれたら嬉しいな」


「僕は何にも無いから別に良いぞ」


 呼び出された男達の言葉を聞いていた薬師は溜め息を吐くと静かに口を開いた。


「司マイナス30点 弘之マイナス10点 みつる0点」


「なんだよいきなりマイナス30点って!

 本当に帰るからな!」


 男が叫ぶと同時に薬師は立ち上がった。


「4日後の球技大会に!」


「な、何だよ急に」


「球技大会に俺は女を招待した」


 薬師の言葉に男達は衝撃を受けた。


「ま、マジか?」


「さ、誘うだけなら」


「いや見ろあいつの顔を!」


「まさか...」


 ニヤリと笑い薬師は再び口を開く。


「4人来る。女が4人来る」


「「「オオー!!」」」


 正に歓喜。

 男達の雄叫びが教室に響く。


「薬師...いや薬師様、先程は数々の失礼の段

 何卒、何卒お許しを」


「おや司君、先ほどはデートがどうとか?」


「う、嘘です。

 デートはおろか彼女も、いや球技大会に女の子を誘う事すら出来なかったチキン野郎です」


 司と言われた男が薬師に平伏した。


「宜しい。次は弘之」


「はい!」


「塾がどうとか...」


「いえ、どうせ授業前も授業後も女の子に声一つかけられない事は目に見えております。

 本日は休ませて頂きます」


 弘之も司に倣い平伏した。


「良かった俺何も言わなくて」


 最後の1人がホッと溜め息を吐いた次の瞬間、


「みつる!!」


「はいっ」


「確かにお前は何も言わなかった。

 しかし仲間の危機にも何もしなかった!

 今回のミッションにおいて求められるは団結力、信頼関係だ。...裏切り者はいらない」


 静かに薬師は首を振った。


「し、失礼しました」


 みつるも2人に倣い平伏した。


「宜しいでは話を」


「あ、あの薬師様...」


「何ですか石田君?」


「どうやって女の子達を誘ってOKを?

 俺、先週勇気を振り絞って小学校の時代の同級生に電話を」


「そりゃダメだったでしょう」


「はい、冷たく断れました。

 たった5ヶ月会わなかっただけなのに」


 石田司が語る当然の結果に薬師は大きく頷いた。


「私は卒業以来電話を欠かしてません。

 特に6月からは週に1回は電話しています。

『今、忙しい』と切られる事もありますが、諦めること無く、縁を大切にしたのです。

 そうして今回、自然な流れの中で球技大会に誘う話となり。成功しました」


 薬師の言葉に男達は尊敬の眼差しで彼を見た。


「そのような遠大な計画を薬師様が?」


「そうです、と言いたいところですが導いて頂いた方はいます」


「その方の名前は?」


「残念ながら名を出す事は控えます。

 尊称を付ける事すら禁じられました。

 さ、そんな事より、大事な話...」


「「「球技大会!」」


「皆さんの協力無くて次はありません。

 今回の球技大会を切っ掛けに体育祭、文化祭と続くのだから」


「「「おおー!」」」


 その後薬師は自然体の正しい意味を教えて貰ったり、教室のおもしろそうな場所を案内するコースの設定、案内する男の順番、そして会話する内容の吟味をした。


「良し今日はこんな感じで良いだろ。

 明日から球技大会前日まで毎日ミーティングを行う、いいな!」


「「「異義なし!」」


 男達の言葉は力強かった。

 なにしろ男ばかりの男子校。

 覚悟はしていたが、思春期の彼等には女の子の縁は何よりの救いだった。


「俺今日から毎日新しいパンツ履こ」


「僕は兄ちゃんに殴られても良いからトニックシャンプー使うよ」


「僕は、僕は...これから大会まで毎日お風呂に入ろ」


「「「いやそれは毎日入れよ!」」』


 そんな馬鹿らしい会話をしつつ、迎えた球技大会。

 詳しい内容は省略するが、存外上手く行ったと報告しておこう。


 帰りには連絡先を交換する者もいた。


 しかし上手く行った最大の要因は彼ら自身は気付いてないが、薬師を含めた男4人がなかなかの男前だったからである。


 そして今回の結果は塾の前で待ち構えていた薬師により浩二に伝えられた。

 結果を聞いた浩二は慈しむ目でにっこり笑い、


「男子校に入ると男としての自己評価が下がるからね。

 だから次も自分のペースを崩さないで」


 薬師は新しいアドバイスを受けた。

 今回『どうして?』と聞かなかった。


『満足な答えが返って来ないもん!』


 薬師は心で叫んだ。


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