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秘密合宿

 ようやくバスが来た。

 由香は祐一が男だと言うことに納得したのか、ようやく気を許し始めていた。


 祐一が男なのは間違いない。

 去年は3人一緒の風呂に入ったんだ。

 そういえば吉田久がいないな。

 律子とうまく行ったのだろうか?


「久はどうした、今回は別行動か?」


「久は来てないよ、塾も辞めちゃった」


 祐一はあっさりと言う。

 久は自習を頑張っていたはずだったが、


「受験するのやめたのか?」 


「違うよ、りっちゃんと同じ塾に移ったんだ。

 久から伝言聞いてるよ。

『来年も参加しろって言ってたのに、ごめんな。

 今は律子と一緒に勉強してる。ありがとう』だって」


「そうか上手く行ったんだな」


 胸は疼かない。

 律子の事は過去になったのか。

 新しい人生を歩む俺の隣には由香が居るんだ...愛する由香が。


「家族とも和解したみたいだし、浩二君本当にありがとう」


 そう言って祐一は頭を下げた。


 俺達を乗せたバスは施設に着く。

 バスから降りて、まずは受付を済ませた。

 一緒に施設に入り、旅行鞄を由香部屋まで運ぶ。


 由香は先程から無言だ。 

 祐一との会話で聞いた律子の名前に混乱しているのだろう。


 ...そろそろケリを着けたい。


 俺には前世の記憶がある事を由香に伝えるのに丁度良い機会だ。


 由香は(さと)い人間だ、俺が嘘を言えば忽ち見抜いてしまう。

 いつかこの日が来ると思っていた。

 大丈夫だ、由香なら分かってくれるさ。


「集合までに時間があるから、荷物を整理したら玄関まで来て」


 由香は無言で頷いてくれた。

 自分の部屋に行くと、今年も祐一と相部屋だった。


『少し出てくる。

結団式迄には戻るから』


 祐一に言ってから部屋を出る。

 急いで玄関に戻ると由香は既に待っていた。

 緊張した面持ちの由香。

 俺が何か言おうとしてるのが分かったのだろう。


 合宿所横の空き地に由香を案内する。

 ここは去年祐一に教えて貰った場所。

 人は滅多に来ないので聞かれたくない話をするには最適だ。


「...どこから話そうか」


『俺って前世の記憶があってさ~』

 いきなり言っても由香は信じないだろう。

 由香はああ見えて、現実主義者だ。

 当時流行っていた幽霊や心霊写真を全然信じて無かった。


「浩二君...律子さんってひょっとして2年前の?

 さっき祐一君は石山小学校って言ってたよね?

 去年の合宿で何があったの?」


 由香は焦ったように捲し立てる。


「隠してた訳じゃなかったが去年の合宿で吉田久に会ったんだ。

 由香も2年前の遠足で会ったあの吉田久だよ」


「えっ?浩二君、それって一体どういう...」

「最後まで聞いてくれ。

 吉田は荒れていて、俺は絡まれたんだ。

 あいつは付き合っていた伊藤律子との交際を親に止める様言われ自暴自棄に近い状態だった。

 見かねた俺は吉田を手助けしてやった。それ以来吉田久と会ってない。


 もちろん律子...伊藤さんには遠足から一度も会ってない、それだけの話なんだ」


「...その話本当?」


 話しを聞き終えた由香がポツリと呟いた。

 由香はずっと俺の目をジッと見ている。

 大丈夫、何1つ嘘は吐いてない。


「橋本さん聞いて無かったの?

 浩二君言わなかったの?

 どうしてさ、良いことしたのに」


 沈黙を破ったのは俺達では無かった。

 後ろから聞こえた声に振り返る。


「祐一、どうしてここに?」


 祐一は困った顔で立っていた。

 変な所に出くわしたと思っているのだろう。

 帰れとも言えないし、こっちも困ったな。


「ごめんね、やっぱり気になって浩二君を探したんだ。 

 だって急に橋本さん黙り込むんだもん。

 さっきバスで中で話した事が原因なら僕にも説明の義務があるでしょ?」


 祐一の言葉に由香が頷いた。


「祐一、俺達は2年前に伊藤さんや吉田と会った後、色々有ったんだ』


 それが切っ掛けで由香と付き合いだした。

 由香を苦しめてしまった苦い思い出だ。


「事情があるみたいだね。

 分かった、余計な事は言わない。

 でも橋本さんこれだけは言わせて」


「...何かな?」


「浩二君は去年の合宿で親友の吉田久君を助けてくれたんだ。

 それで久はりっちゃん...伊藤律子さんと更に強く結ばれたんだよ。

 浩二君とは去年から一度も連絡を取ってないんだ。

 年賀状まで書いたのに」


 祐一、最後は余計だ。

 だが第三者の説明は助かる。


「...浩二君、伊藤律子さんって浩二君にとって何?」


 由香は声を震わせて聞く。

 ここが正念場だ。

 祐一がこの場に居るが、不思議と気にならなかった。


「上手く言えないんだ。

 ...俺と未来に何か起きる可能性があったかも...知れない人だった」


 覚悟を決めて秘密を話した。


「...未来って、浩二君は未来が分かるの?」


 由香の声が低くなる。

 疑っているのか、信じているのか分からなかった。


「俺の思い込みだけかも知れないが」


 小さく頷いた。


「私の未来も知ってるの?」


 やはりみんなそこが気になるだろう。 

 だが由香の未来は俺が知る物と変わってしまった。

 どう説明したら良いんだ?


「浩二君教えて、私は貴方と結ばれてましたか?」


「言えないよ」


 俺が知る未来の事を話す訳にいかない。

 家出、妊娠、堕胎。

 そんな十代を送ってしまった由香はもう居ない。

 俺が変えたんだ、由香の運命を。


「...言えないって、浩二君と私は結ばれ無いって事?」


 興奮した由香はすがるように聞いてきた。


「そうじゃない、俺の知っていた未来は既に変えられているんだ」


「変えられている?」


「兄さんの未来、順子姉さんの未来、由香の未来、後は佑樹や花谷さんも。

 みんな俺の知っていた未来と違うんだ。

 そして俺の未来もね。

 祐一、お前の未来も変わったかもしれない。

 だから今、この先の未来の事は俺にも何一つ分からないんだ」


 実際何も分からないから仕方がない。


「...なんか都合良く浩二君に言いくるめられてる気がするわ」


 少しの沈黙の後、由香が呟いた。


「俺も上手く説明出来ないんだ」


 我ながら上手く言えない自分が嫌になる。

 由香は俺の顔を見た後、少しだけ笑った。


「分かったわ浩二君。  

 これからの未来は一緒に作ろう、まだまだ私達の周りには分からない未来が一杯あるんでしょ?」


「今までの話全部俺の全て思い込みかも知れないぞ」


「それでも良い!!

 だって私は浩二君と出会ってからずっと幸せだもん!」


 由香は吹っ切れたような笑顔で俺に言った。


「僕も去年たった4日間浩二君と会っただけなのに1年前からずっと幸せだよ」


「祐一、誤解を招く言い方は止めなさい」


 祐一よ、なぜ由香と張り合うのだ。


「さっきの話で気になった事があるの」


「僕も一つある」


 二人共まだ何かあるのか。

 もう秘密は無いハズだ。


「何かな?」


「「浩二君に俺は似合いません!」」


「はい!」


 俺達3人は大笑いしながら合宿所施設に戻った。


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