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浩二君と合宿 

 私達は駅で電車を待っている。

 隣で浩二君は電車の到着時間を確認していた。


 そんな事より私をちゃんと見て欲しい。

 昨日は美容室で髪を綺麗にしたし、服だって順子さんと吟味に吟味を重ねたんだから。


「浩二君と初めてのお泊まり旅行、私楽しみ!」


 私は浩二君の腕を取り、大きな声で言った。

 ホームには何人か人が居るけど構うもんか。


「どこから聞いても誤解を招く言い方は止めて」


 困惑した顔の浩二君。

 少し悪い気もするけどごめんね...だって、


「ホームの端からこっちを見ている3人の女の子は知り合い?」 


 さっきからずっと見てるよ、私の知らない女の子達が。


「覚えがないけど、去年合宿で見た子

 が1人いるような...」


「やっぱりね」


 ほら、早速だ。


「怒ってる?」


 申し訳なさそうな浩二君の顔。

 ダメだ、こんな事では順子さんの様にはなれない。

 あの包み込むような(ひと)に...


「少しね」


「なんか...ごめん」


「違うよ、怒ってるのは私にだから」


「由香自身に?」


「順子さんはきっとこんな事ぐらいでけっして怒らない、余裕の態度でやり過ごすはずよ」


「由香、少し怖いよ」


「そうよ、嫉妬に狂う女は怖くて醜い。

 だが順子さんは微笑みでやり過ごす。

 順子、恐ろしい子....」


「順子姉さんの方が年上だけどね」


 そんな会話をしている内に電車が駅に入ってきた。

 車内で私は一緒に乗ってきた3人に微笑みを振り撒いた。


「良かった、浩二君と一緒の子笑ってる」


「さっき、あの子殺気出してなかった?」


「まさか、見てよあの笑顔。

 気のせいよ」


 小さな声だけど聞こえてるわよ。

 さりげなく聞き耳をたて続けていた。


「それより本当?去年の合宿」


「私もそうだから本当よ、皆成績が上がったって!」


「私達も充分に浩二成分を充分に摂らなくっちゃ」


「その為に必死で勉強して合宿参加選抜テストをパスしたんだもの」


『なんですって!?』

 叫びたくなる衝動を必死で堪える。

 浩二成分って呼び捨て?

 とんでもない、浩二君は私だけの物なんだから...


 「痛いよ」


 「ごめんなさい」


 気づいたら浩二君の腕を両手で握り締めていた。

 本当にダメだ、順子さんは凄い。

 あれほどお兄さん(有一さん)を愛してるのに。


 そんな事を考えている間に、心配していた電車の乗り換えは無事に終わっていた。

 いつの間に?

 浩二君って不思議、大変な事だっていつの間にか済ましちゃうんだもん。


 電車は街を抜け、緑豊かな郊外を走る。

 車内にはクーラーが無い、扇風機だけでは暑くて仕方なかったが、今は気持ちが良い。

 このままどこまでも行ってくれたら...


「次だよ」


「...そう」


 浩二君の言葉に現実へ引き戻される。

 どうやら夢の旅はここまでね、まだ帰りもあるから我慢よ。


「ここが合宿所の駅?」


 少し寂れたローカル駅。

 駅前にはロータリーとバス停が有る以外は何も無く、駅の小さな売店もシャッターが下りていた。


「ここからバスで20分くらいかな」


「バスはどこ?」


 駅前を見回すが付近にそんな車は見当たらない。

 バス停らしき屋根の下で1人の女の子が手を振っている。

 可愛い子だけど見覚えが無い。

 あの子も浩二君目当てなのかな?


 浩二君は気づいて無いみたいなので私も女の子には気づかないフリをした。


「先に行ったのかな?」


「次のバスはいつ来るの?」


 パンフレットには駅から合宿所まで専用バスで送りますとしか書いて無かった。


「さっき行ったばかりなら大体20分後かな?

 2台で折り返し運んでくれるから」


「そうなのね」


 少し暑いけど郊外で浩二君と二人っきりは嬉しい。

 私は目をつぶり浩二君に寄り添った。


「浩二君!!!」


「「わ!」」


 女の子の声に振り向くと、さっきの子が頬を膨らませて私達を見ていた。


「酷いなさっきから手を振てるのに!」


「浩二君の知り合い?」


 そうだと思うけど一応聞いてみた。

 ダメだ声が下がってしまう。


「えっと、その声はひょっとして祐一か?」


 浩二君は女の子を見て呟く。

 ちょっと待って、ゆういちって言わなかった?


「そうだよ祐一だよ、やっと気がついたね」


「嘘?男の子?」


 どう見たって女の子にしか見えない。

 サラサラの髪は肩まであるし、身体は私より小柄だ。

 なにより顔が...私より可愛くない?


「お前髪の毛どうしたんだ、去年は坊っちゃん刈りだったろ?」


「去年の合宿の後から伸ばしてるんだ。

 仁政に受かるまでは切らないって決めたの!」


 嬉しそうなゆういち君。

 でもまだ信じられない、本当に男の子なの?


「浩二君、去年何があったの?」


「こいつは清水祐一だ。

 去年知り合った友人で、去年まではちゃんとした男だったから」


「酷いな友人じゃなくて親友でしょ。

 それに、僕は今もちゃんとした男だよ。

 髪の毛は単なる願掛けなんだから。

 その隣にいる子が浩二君の言ってた好きな子?

 本当に綺麗な子だね。

 さっき浩二君が先に言っちゃったけど、

 僕の名前は清水祐一、石山小学校6年1組宜しくね」


 ゆういち君は疑う私に夏季合宿の申し込み書を見せてくれた。

 本当に男の子だったんだ。

 ゆういち君ってお兄さんと同じ名前か、漢字は違うけど。


 ありがとう、私の名前は橋本由香。

 浩二君と同じ岸里小学校6年2組です」


「確か橋本さんも仁政第一を目指してるんだよね」


「そうよ」


「じゃ僕と一緒だ。

 宜しくね!はい握手」


「ありがとう宜しくね」


 でもなんか調子狂うわ。

 天然みたいだから余計に大変よ。

 しかも何?

 私より綺麗な肌に細くてしなやかな指!!


「そう言えばバスは?」  


「10分ぐらい前に行っちゃったから後10分後ぐらいかな?」


「祐一は乗らなかったのか?」


「一杯で乗れなかったが正解かな。

 去年の倍の参加者だからね。

 今年は合宿参加者が多すぎて選抜テストまでして大変だったから」


「選抜テスト?」


「うん参加希望者が定員を上回ったからテスト上位のみが参加資格を得るって。

 聞いてない?」


「聞いてない」


「何となく分かるわ。

 浩二君が参加しなきゃ希望者が集まらないからでしょ?」


「まさか」 


「橋本さん正解。

 テストに入れなかった子達は別の日に追加合宿を設定したけれど、みんな辞退したから追加合宿は中止になったんだ」


「そんなバカな?」 


 浩二君は信じられないみたいだけど、充分考えられた。


「由香、よく参加出来たね」


「テストは1位だったから、特例よ。

 その代わり仁政受かったら名前貸して下さいだって」


「「凄い!」」


 驚く二人に少し誇らしい私だった。


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