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兄貴への恋を実らせてあげたい!  作者: じいちゃんっ子
俺と兄貴の中学入試
66/229

本で読んだ

 心配していた兄貴の学校生活だが、何とか無難なスタートを切った。


 入学式に新入生代表の挨拶をした兄貴に黄色い喚声が上がった事を志穂さん達から聞いた。


 順子姉さんや由香から、『動きが無い以上はこちらから積極的に動くべきではない』と言われ、静観の姿勢を取る事にした。


 しかし兄貴の危険を理解している坂倉さん達3人には、何かあった時は俺に速やかな連絡をする約束をした。


 そんな訳で今しばしの平和の時間の中、俺は受験生に戻り勉強に(いそ)しんでいた。

 そして6月になった、ある日の夕方。

 塾の帰り道、駅前で一人項垂れ改札を出る疲れた中学生を見つけた。


 薬師兄さんだった。


「薬師兄さん!」


「誰だ?

 おう浩二じゃんか、久し振り。

 塾の帰りか?」


「うん、薬師兄ちゃんは今帰り?

 随分遅いね、クラブか何か?」


「まあな、そうだ浩二ちょっと時間あるか?

 少し話がしたいんだ、

 駅前のハンバーガー屋に行かないか?

 奢るからよ」


 俺の返事を聞く前に袖を引っ張り店に連れて行く薬師兄さん。

 別に奢って貰わなくても良いが、悲壮な顔でお願いされては断れない。


 ハンバーガー屋でハンバーガー2つとポテトにジュースを2つ注文して商品を受け取る。

 トレーに乗せて店内隅の4人掛けテーブルに座った。


「久し振りだな浩二。

 まあ食べてくれ、気にしなくていいから」


「ありがとう、帰ったら夕飯があるからハンバーガー1つとジュースをもらうね」


「そうか、遠慮しなくて良いんだぞ」


「分かったよ、で話って?」


「ああそうだな、有一は元気そうか?」


「うん元気だよ。

 勉強が大変みたいだけど頑張ってる」


「何かクラブはしてないのか?」


「進学校だからあんまり盛んじゃないみたい、半分以上が帰宅部だって。

 でも勧誘が凄くて、1度家にまで勧誘がついて来てちゃってね、志穂さん達が追っ払ってくれた」


「志穂さん達って有一と一緒の学校に行った?」


「そうだよ兄さんの為と言って守ってくれてる。

 学校の中でもクラスの子達が志穂さん達と

『有様を守る会』って作って兄さんを守ってくれてるんだって。

 あれっどうしたの」


「...良いよな有一...良いよな。

 羨ましいよ」


 薬師兄ちゃんは肘をつき、その上に頭を置き項垂れてしまった。


「羨ましい?」


「羨ましいよ、俺も『明信様を守る会』が欲しいぜ」


「作って貰ったら?」


「馬鹿!

 男子校で誰が誰に守って貰うんたよ。

 右をみても左をみても野郎ばっか...俺もう嫌だ...」


 ジュースを飲みながら薬師兄さんが復活するのを待った。


「...覚悟はしてたんだよ。

 男ばかりの環境、辛くても最低でも3年だって。

 でもよ辛い、辛過ぎる。

 電車に乗ってても女子にばかり目が行っちまう。

『あの子は共学』『あの子は女子校』とか」


 こりゃ重症だ。


「高校は絶対共学に進みたいって父ちゃんと母ちゃんに言ったらよ、秀星高校より偏差値が上なら良いよ、下がるなら内部進学で秀星高校なって。

 無理だよ!

 秀星高校ってめっちゃ難しいのに」


「そうだね、秀星高校に進む為に秀星中学校に行く子までいるもん」


「クラブに入って内申上げようって考えてテニス部に入ったんだ。

 でもよ、マネージャーまでみんな男だよ!」


「そりゃそうだ」


「しごきはきついし、辞められねえし。

 八方塞がりだよ...」


 あ~あ泣いちゃった。

 秀星高校って俺の前世の母校なんだよね。

 志望校に落ちて意にそぐわぬ男子校に入った時の絶望感は分かる。

 仕方ない助けますか。


「薬師兄さ...いや薬師」


「な、なんだ急に?」


「ひょっとして明日共学になれば、とか近所の女子校と合併したら、何て考えてないか?」


「ぐ、なぜそれを...」


「今じゃ学校の事務員のお姉さんや保健室の少し歳のいった先生にも眼が行くとか?」


「こ、浩二なぜそれを...お前どこでそんな事を?」


「本で読んだ」


「嘘つけ!」


「僕は人の為になるなら嘘をつく事もない事も無い、ない事もない事も.....無い」


「わかんねぇ!無いのか有るのか?」


「いいから黙って聞く!」


「はい」


「つまり男ばかりの生活に疲れて青春を満喫出来ない、そう考えてる訳だね」


「違うのか?」


「違う!」


 俺は薬師兄さんの目を見て語りかけた。


「学校の中では確かに男ばかりだ。

 しかし外を見ろ!

 世界の半分はどうだ?女だ!」


「あっ!」


「まずは塾に行け、塾は共学だ。

 そこで女子成分を補うんだ。

 そして友達だ」


「友達?」


「小学校時代の女の子の友達の縁を切るな。

 まだ卒業して間もない今なら連絡は出来るだろう、そうすれば招待も出来る」


「招待?」


「そうだ、文化祭や体育大会において招待した女子、すると学校での君の地位はうなぎ登りだ。

 自然とクラブのしごきも無くなるぞ」


「ど...どうしてそんな事がわかる?」


「本で読んだ」


「またそれか...」


「手遅れにならないようにな。

 女の子から長く離れていると話す事はおろか女の子と目すら合わせられなくなる」


「それも...」


「本で読んだ」


「分かったよ、ありがとう。

 まずは白石とはマメに連絡を取り合う。

 そして塾に行く。

 何か霧が晴れて行くようだ。

 浩二、本当にありがとう」


「どういたしまして、悩みが少しでも解消すれば良いね。

 ご馳走さま」


「き、急に変わって...まあ良いや。

 確認だけど、それ程の事本当に?」


「本で読んだ」(嘘)


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