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兄貴への恋を実らせてあげたい!  作者: じいちゃんっ子
俺と兄貴の中学入試
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兄貴の話

「ただいま!」


「おかえり」


 兄貴が卒業証書と配られたお祝いの小さな花束を持って家族全員が待つリビング入って来た。

 晴れ晴れした顔に心が和んだ。 


「今日は良くやったな。

 疲れただろう、夕飯を食べたらお風呂に入って早く寝なさい」


「そうよね、有一頑張ったわ。

 お疲れさま」


「有一カッコ良かったの。

 えーもん見させてもろた、ありがとう...ありがとう」


「有ちゃん、ありがとう。

 ばあちゃん()え記念になったよ」


 家族みんなで兄貴を労った。


「おかえり兄さん」


「ただいま浩二」


 兄貴の顔をじっと見る。

 普段はどちらかと言うと色白で、ややあると青白く見える兄貴の顔が赤身を帯び、表情も晴れやかだ。


「どうしたの浩二?」


 じっと兄貴の顔を見ていたら、不思議そうな顔で聞かれた。


「兄さんがいつもより、その元気だなって思って」


「元気?」


「元気とは違うか、スッキリした感じかな?」


 うまく言えない俺に兄貴は少し考える仕草をした。


「浩二、僕の部屋に来て」


「え?」


「いいから来て。

 みんな今日はありがとう。

 御飯出来たら呼んでね、浩二行こう」


 訳も分からないまま袖を引かれ、兄貴の部屋に入った。

 久し振りに入る兄貴の部屋。 


 珍しく整理された本棚の図鑑類や百科事典。

 意外かも知れないが兄貴は整理整頓が苦手だ。


 ごみが散乱したり、下着が落ちている訳じゃないのだが、本の扱いが雑なのだ。

 参考書や辞書を読んだらその辺に放置する。


 調べる次の項目が見つかると前の本を元の位置に戻すのだが、それまでの本の扱いが実に悪い。

 開いたままだったり、床に投げ捨てたように積んであったりといった具合だ。


 見かねた母が兄貴の部屋に入り整理したのだが、まだ調べている項目が終わって無かったらしく、悲しそうに抗議されて母も困ってしまい、それから誰も兄貴の部屋に立ち入らなくなった。


「そこの椅子に座って」


 家庭教師の使っていた椅子に座る。

 位置が高い、結構背が高かったんだと今更ながら思った。


 兄貴も自分の椅子に座り、俺達は差し向かいになる。

 兄弟でこのシチュエーションはおかしい。

 少し照れる。


「で、何なの兄さん?」


「...今日順ちゃんに言われちゃった」


 この時点でピンと来た。

 順子姉さん言ったんだ!

 遂に言ったんだ!


 いや待て、問題は兄貴がちゃんと理解しているかだ。

 落ち着け、落ち着くんだ俺。


「へ、へえ言われたって何を?」


「僕の事が好きだって...」


 恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてうつ向く兄貴。

 太股の上に握りこぶしを並べもじもじしている。

 可愛いぞ兄貴、なんという愛らしさだ。


「じ、順子姉さんが兄さんに告白をしたんだ、良かったね」


「良かったってどういう意味?

 まだ僕、浩二に返事言って無いよね?」


 順子姉さんの気持ちが分かり過ぎて、つい先走ってしまった。


「いやあの、順子姉さんは前から兄さんの事が好きだったみたいだから...良かったねって...」


「そっか、浩二も順ちゃんの気持ちは知っていたんだ。

 僕はなんて鈍感だったんだろう」


 全くだぞ、ミラクル鈍感男め。


「それで兄さんの答えは?」


「まだはっきり好きって気持ちが分からないけど...きっとこの気持ちは僕も好きだと思う。

 ありがとうって言った...」


「よっしゃあああぁ!! 」


 兄貴の話に思わず立ち上がり、両手を突き上げた。


「ど、どうしたの浩二?

 急に立ち上がって」


「いいから兄さん続き、続きを早く!」


「えっと、これから中学校離れ離れだけどしっかり僕を見ててねって言ったよ」


 兄貴...あんたやるときはやる子やん。

 いかん、下手な関西弁で何考えてるんだ俺は。


「そうか、そうなんだ。

 じゃあ中学校で何があっても大丈夫だね」


「僕は大丈夫。

 でも、順ちゃんは周りの子を突き放さないでって」


「はい?」


「僕の彼女だって周りに認めさせる、だって」


 話の流れに困惑が隠せない。


「良く分からない」


「そうだよね」


「順子姉さんは嫉妬しないのかな?」


「やきもち焼きだって、順ちゃん自分で言ってた」


「でも良かった、兄さんおめでとう!」


「ありがとう浩二、話したらもっとスッキリしたよ」


「それじゃ僕自分の部屋に帰るね」


 俺は兄貴の部屋を出た。

 順子姉さんの告白に、兄貴は不器用ながらOKの返事をしたんだ。


 なのに順子姉さんは兄貴を好きな女の子を突き放さないでって、これは矛盾だよな?

 由香に聞こう、明日一緒に勉強する約束してるし。


 翌日、約束の時間に由香の家に着いた。


「こんにちは由香」


「いらっしゃい浩二君、さ上がって」


「おじゃまします」


「今日は家に誰かいる?」


「姉さんがいるよ、なんで?」


 良かった、お約束回避。


「いや別に何でもないよ」


 由香の部屋に入り、真面目にお勉強。

 1時間ぐらいして最初の休憩。


「うーん疲れますなー!」


 由香は腕を上にして伸びをした。

 少し成長した由香の姿に胸の高鳴りを感じた。


「浩二君教えるの上手いよね。

 私の家庭教師の先生より上手いよ、きっと!」


「僕が知りたいと思っている勉強の箇所が近いから教えやすいんだよきっと」


 前世で家庭教師してました、なんて言えない。


「そんなもんかな?」


「そんなもんだよ。それで話は変わるけど昨日さ」


 話を変える。

 一番聞きたかった事だ。


「お兄さんの話?」


「そうだよ、順子姉さんとの」


「教えて」


「もちろん。

昨日ね、兄さんと順子姉さんは....」


 詳しく由香に説明をする。

 順子姉さんが兄貴に言った事を全て、包み隠さずに。


「順子さん遂に、遂に言ったんだ!

 お兄さんもようやく、えらい!」


「でも由香、最後に順子姉さんの気持ちが...」


「浩二君、分からないの?」


「うん」


 って事は由香は分かったのか。


「順子さんの挑戦よ」


「挑戦?」


「ええ挑戦。

 既にお兄さんを好きな女の子がいる事を順子さんは知っているでしょ?

 きっとまだまだお兄さんの事が好きになる女の子が現れる事も予測してわ」


「そうなの?」


「つまらない女が有一君を束縛している、そう思われたら、そんなに女に付きまとわれて有一君が可哀想、って余計にアプローチが激しくなる。


 それか、そんな女と付きまとわれて、有一さんはつまらない奴って思わるかもしれない。

 それはお兄さんの恥になるでしょ?


 有一君の彼女として自分の存在を知らしめ、相応しい女になる宣言。

 女の挑戦ね」


 腕を組み、何度も由香は頷いた。


「由香?」


「なに?」


「少し怖い」


「恋に生きる女は少し怖いの!」


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