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兄貴への恋を実らせてあげたい!  作者: じいちゃんっ子
俺と兄貴の中学入試
63/229

兄貴達の卒業式 後編

 有一は大きく息を吸い、静かな声で語りかける様に話始めた。


「今日の佳き日に僕達は卒業式を迎え....」


 いつもの優しさだけじゃなく、凛とした有一の声にみんな聞き惚れている


 「....皆様本当にお世話になりました。   生徒代表 山添 有一」


 終わるや否や、万雷の拍手の嵐が講堂内に鳴り響く。


 そしてプログラムの最後、歌唱曲斉唱。


[仰げば尊し]


 この時代は卒業式と言えばこれか蛍の光だった。

 見事なピアノ演奏に乗って卒業生は歌う。

 そして式は全て終わり、参加者は講堂を出た。

 校庭でみんな写真を撮ったり、お喋りをしたりしていた。


 今年は最後に6年生の教室を解放した。

 生徒会長山添有一が学校に掛け合ったのだ。


『卒業式の後もう一度だけ教室に入れて下さい。

 卒業式の後なら本当にこの教室に来るのが最後と実感出来るのです』

 有一の陳情に学校が折れる形で実現した。


 卒業式の後始末で遅くなった浩二と由香は先に帰った家族と別に、いつものように2人で帰っていた。


「兄さん、どうなったんだろう?」


「そうよね、順子さんこの後どうするのかしら」


 二人は同じ言葉を何度も繰り返しながら家路についた。


 学校に現在残っているのは殆ど今日卒業した6年生達。

 みんなそれぞれの教室で最後に写真を撮ったり、サイン手帳にコメントを書きあったりしている。


「お疲れー、みんなまたな。

 近所だから街で偶然またあおうぜー」


「富三その約束なに?偶然また会おうって日本語変だよ」


「富三言うなって...このフレーズも使わなくなるな」


 そういい残し、扇本富三は薬師明信と白石杏子の居た3組の教室を去って行った。


「さてと、もう落ち着いた?」


 杏子は後ろを振り返る。

 そこには薬師明信が座っていた。


「ああ、カッコ悪いトコ見せちまったな」


「何をバカな事言ってるの。

 帰るわよ!」


「白石、少し待ってくれ。

 俺今回受験の失敗で一杯お前に恥ずかしい所見せたけどお前は俺を見捨てず本当に感謝している。

 ...ありがとう白石」


「な、何よ明信。

 そんなに真面目な顔しても似合わない事も少しはあるかな?」


 杏子の言ってる意味が分からない明信。


「それどっちだよ」


「どっちでもいいでしょ!」


「白石、今日俺達は小学校を卒業した。

 俺達は違う中学校に進む」


「そうね....」


「白石、お前の弾くピアノは日本一いや世界一だ。

 白石...いや杏子。

 音大付属に杏子が進むのを聞いた時、

 杏子のこれから住む世界と俺の住む世界の違いを感じたんだ」


「世界の違い?」


「ああ、杏子、お前の弾くピアノは凄い。

 小学校2年からピアノ始めた時、杏子の周りはもっとうまいやつだらけだったな」


「そうね、早い子はみんな2、3歳から始めるし、でもね2年からでも遅くはないのよ」


「そうじゃない。

 杏子は最初のコンクールで凄い子達に囲まれても全然怯まず、楽しそうに演奏してたな」


「最初の県内コンクールって小学校4年のコンクールの事?

 明信、来てたの?」


 初めて聞いた事実に杏子は驚いた。


「ああ、行った。

 あんなに緊張する場面で杏子は本当に楽しそうに演奏して、特別賞貰ったよな」


「そうよ」


「お前はその後も凄い賞を取り続けた。

 それでも俺達の、俺のそばにいた。

 だから杏子が音大付属に行くのを聞いて俺は焦った。

 別に学校なんてどうでも良かった。

 ただ杏子のいない中学校なんかどこでも良かったんだ。

 でもこれから凄くなるお前にホンの少しでも俺も出来るだけ近づきたくって...」


「それで仁政を?」


「駄目だったがな、

 落ちた時は本気でどうにかなりそうだった。

 知らない内に杏子に電話してたんだ。

 すぐにお前は来てくれた。

 こんな情けない奴の為に。

 ダメだよな!

 もう諦めるつもりでおちゃらけてたのに!」


「明信..」


 真剣な明信の言葉に杏子も何と言っていいか分からず、ただ見詰める杏子。


「諦めたくない。

 ごめん白石、お前が...好きだ」


 明信は杏子の目を見て告白した。


「...知らなかった」


「隠してたからな」


「どうして?」


「だってお前、有一が好きだったじゃん」


「私が?有一を?」


 杏子は明信の言葉に昔を思い出そうとした。


「お前は自分の気持ちに気づいて無かったがな。

 周りから見ればバレバレだったぜ」


「でも今は...」


「知ってる。

 今は有一の事を意識してない。

 あーだからチャンスだと思ったのに。

 1年からの秘かな恋心が...」


 頭を抱える明信に杏子は溜め息を1つ吐いた。


「...全く明信は昔から思い込みが激しいんだから」


 杏子は優しい目で明信を見た。


「杏子?」


「私はそんなに凄く無いよ。

 ピアノも好きでやってるけど練習量だって周りの子には負けないんだから。

 だからそんなに私を神聖化しないで、普通の小学校6年生だから」


「いや普通じゃねぇだろ?」


「普通だよ。

 ごめんね、明信の気持ちに気付かなくて」


「いいよ」


「ううん、こんなに一生懸命私の事が好きなんて気付かなかった。

 まだ明信が好きかは分かりません。

 でも世界が違うとか言わないで、私は普通の女の子なんだから。

 これから明信を意識させてよね」


「それどっちだよ。

 付き合えるの?無理なの?」


「これからだよ。別に私は引っ越さないし。

 ここに、この町にいるんだから」


「そうだな学校が違ってもすぐに会えるよな」 


「ありがとう杏子」


「どういたしまして。ところで明信?」


「なんだ?」


「この前言ってた秀星は男子校だから駄目だーみたいのあれ本気?」


「もちろん本気。

 周りに女の子の居ない学校生活、あぁ...」


「明信~~」


「なんだ?」


「このバカ!!!!」


 杏子の怒声は有一と順子の居る2組の教室まで響いた。


「この声は白石さんだね」


「また薬師君バカな事杏子に言って、怒らしたんでしょ」


 少し呆れながら順子は呟いた。

 2組の教室は有一と順子の2人だけだった。


「みんなやっときれいになったね。

 順ちゃん後始末手伝ってくれてありがとう」


 ごみ袋を手に有一は順子に頭を下げる。

 順子は何も言わず、有一を見つめていた。


「どうしたの順ちゃん?」


「ううん...久し振りに2人きりだなって」


「昔は2人でよく一緒に帰ったり、公園で遊んだからね」


「そうね、懐かしいな...」


「そうだね」


 懐かしい日々を思い出す2人。

 順子は絞り出すように呟いた。


「戻りたい...」


「え?」


「戻りたいよ、あの頃に戻りたい!

 また有一君と遊びたい!!

 一緒の教室で過ごしたい!一緒に学校行事に参加したい」


 悲痛な叫びと共に順子の目から涙が溢れた。


「順ちゃん....」


「ごめんね我慢してたのに。

 これで最後だと思うと我慢...我慢出来なくて。

 最後に言わせて下さい。


 私十河順子は山添有一君が好きです。

 1年からずっと、今もこれからもずっとずっと...」


 順子は有一をしっかり見つめながら告白した。


「順ちゃん...

 ひょってして西村さんの言ってたあれって」


「...私の事」


「そうだったんだ、そんな気はしてた」


 鈍感男、有一の意外な言葉に順子は息を飲んだ。


「有一君...」


「僕はバカだ...こんなに順ちゃんを苦しめるなんて」


「ううん私が、私が勇気を出してハッキリ、分かるまで何度も言ったら良かったの」


「そんな事無いよ。

 それでも気付かなかった僕がダメなだけだから。

 ありがとう」


 有一は順子の前に立った。

 背の高い順子の前では小柄な有一は見下ろすかたちになってしまう。


「有一君...」


「人を好きって気持ちが余り分からないけど、きっと僕は順ちゃんが好きなんだろうって思います。

 これで終わりなんか言わないで、これから好きって、素直に好きって言えるまで、これからも僕と一緒にいて下さい」


 余りに嬉しい有一の言葉。

 しかし喜びより戸惑いが先に来る順子。

 何しろ有一の鈍感さに悩まされ続けた6年だったのだから仕方ない。


「良いの?」


「もちろん」


「別の中学校に行っちゃうんだよ?」


「それで終わっちゃうの?」


「有一君の事が好きな人周りに一杯いるよ?」


「順ちゃんが僕をしっかり見ててよ」


「やきもち焼くよ」


「いいよ」


 顔を真っ赤にしながら有一に次々言葉を出して来る順子。

 それをにこやかに返す有一の顔も赤い。


「...そんな子達に余り冷たくしないでね。

 私は有一君を取られないように頑張るんだから、絶対に負けない。

 有一君にふさわしい女になるために私も頑張って、周りの子に参ったって私を認めさせるんだから‼」


 この順子の言葉には有一も驚いた。


「つらくない?」


「大丈夫、ありがとう」


「これからもずっと一緒だよ、宜しくね順ちゃん」


「うん、宜しく有一君」


 しっかりと握手をする2人。

 浩二の知らないところで有一の恋は大きく進んで行った。



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