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兄貴への恋を実らせてあげたい!  作者: じいちゃんっ子
俺と兄貴の中学入試
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兄貴達の卒業式 前編

 1981年3月16日月曜日。

 遂に兄貴の卒業式の日を迎えた。

 兄貴は朝から何度も答辞を読み返している。

 緊張のせいか少し表情が固い。


 今日の卒業式、家族全員が参加する。

 じいちゃんとばあちゃんは遠慮しようとしたが、生徒会会長にして学校全体を代表して卒業する兄貴の親族だからとPTA会長から貴賓席を用意された。

 それでも断ったが、結局はこちらが折れた形になった。


 土曜日にクリーニングから帰ってきた制服に身を包み、新品の靴下を履いた兄貴は散髪したばかりの頭を掻きながらため息を吐いた。


「やっぱり緊張するよ、上手く話せるかな」


「有一大丈夫よ。

 浩二を見てごらん、あの子も挨拶するのに全然緊張してないわよ」


 そう言って母さんは兄貴を励ました。

 俺も今日の卒業式で在校生代表として送辞を読む事になっている。


 弟が送辞、兄が答辞と山添兄弟の挨拶のリレーになるがこれはやむを得ない。

 送辞は新生徒会会長の初仕事なんだから。


「凄いね浩二。

 僕と違っていつも堂々としててさ」


「そんな事ないよ、僕も心臓ドキドキだ。

 余り顔に出ないのかな?」


 まあ由香にはすぐに顔に出ると言われるが。


「さて、そろそろ時間だ。

 みんな準備は出来たか?」


 父さんの声で皆立ち上がる。

 父さんはスーツ、母さんとばあちゃんは留袖の和装、じいちゃんも紋付き袴の和装である。


「じいちゃんの和装って初めて見たけど、すごい迫力だね」


 思わず呟いた。


「うよ、おじいちゃんの袴姿物凄く似合ってる」


「そうか有一と浩二は初めてかい。

 それなら帰りの写真館で遺影用に撮っといて貰おうかの」  


 じいちゃんは冗談半分でそう言った。

 みんな笑うが、俺は全く笑えない。


「ダメだよ来年は僕の卒業式もあるんだから!

 次は兄さんの中学校の卒業式、で次は僕の中学校の卒業式で...」


 いつか来るじいちゃんとの別れ。

 想像するだけで恐ろしかった。


「落ち着きなさい浩二」


 父さんが諌めるように言った。


「ごめんなさい」


「あーすまん...すまん。

 笑えん冗談だったのう」


 じいちゃんは申し訳なさそうに頭を掻いた。

 俺が悪いのに...


「でも久しぶりですね、義父さんの和装姿」


 父さんがじいちゃんに聞いた。


「ばあさん、最後に着たのはいつかのう?」


「洋子の結婚式ですよ」


「おー洋子の結婚式式か、それなら10年振りか」


 洋子叔母さんは母の妹で現在は500キロ以上離れた山梨に嫁いでいる。


 じいちゃんは自分で紋付き袴を着付けると最後の仕上げはばあちゃんにして貰った。


 母さんとばあちゃんは朝早くから行きつけの美容院で髪のセットと着付けを済ませている。


 小学校への通学路を家族全員で揃って歩く。

 非日常を感じながら俺は幸せを実感していた。


「おはようございます」


 暫く歩いていたら後ろから声がかかった。


「由香?」


「おはよう浩二君」


「おー由香ちゃん、おはよう」


「おはようございます。おじいさま。

 みなさん今日はおめでとうございます」


 由香は俺の家族に頭を下げる。


「ご丁寧な挨拶ありがとうね由香ちゃん。

 まだ卒業式には早いけど、今から学校なの?」


「はい、私も在校生で浩二君と同じ生徒会役員ですから卒業式の最後の打ち合わせがありますので」


 由香は少し誇らしげにニッコリ笑う。


「おー由香ちゃん今日もべっぴんさんだねー」


 ばあちゃんが由香を見て嬉しそうに目を細めて笑った。


「え?」


 少し頬を染める由香、かわいい。


「学校に行くなら一緒に行かんか?」


「え、いいんですか?

 折角家族みなさんで向かわれてるのに」


「構わん構わん、由香ちゃんも家族みたいなもんじゃ、なあ浩二?」


「そうだな浩二?」


「良いわよね浩二?」


「かまわないでしょ浩二?」


 何回聞くの!!

 顔に血が集まるのを感じた。


「良いよ由香、一緒に行こう」


 やっと返事をする。

 由香は更に顔を真っ赤にしながら、


「か、家族、浩二君と家族...」


 と言ったまま固まっていた。


 その後いつもの倍近い時間をかけて小学校に着いた。


 卒業式にはまだ早いが少しでも良い写真を撮りたい親と卒業生でごった返しており、卒業式の看板までなかなか近づけない。


「おっ!山添さんのご家族がおみえだぞ」


 誰かの声がした。

 その場にいた全ての親御さんの視線が家族に注がれる。


「どうぞ写真を撮られるのですね、さあどうぞ」


 人の波がきれいに分かれ、看板の前に案内された。


「あのーありがとうございます。

 でも良いんですか?順番...」


 父さんが恐る恐る聞いた。


「構いません。

 みんな有一君に家の子をはじめ、皆お世話になりましたから、ねえ皆さん」


 周りの親御さん達は一斉に頷く。


「家の子は虐めから助けて貰ったわ」


「家の子は勉強を見てくれて成績がうんと上がったのよ」


「家の子は私にも謂えない悩みを聞いて貰ってすっかり明るい子に戻ったわ」


「そうそう、家の子は......」


 兄貴への賞賛が止まらない。

 前世より凄く無いか?


「そんな訳ですからどうぞ、どうぞ!」


「なんと言うか有一...お前凄いな」


 父さんは少し怯えながら周りを見て兄貴に聞いた。


「僕そんなに凄い事してないよ、困ってる同級生の話を聞いたりしただけだから」


 さすがの兄貴も困惑気味だった。


「それじゃ卒業式の打ち合わせがあるから。

 式ちゃんと見てね、また後で」


 写真撮影が終わった兄貴はそう言うと行ってしまった。


「それじゃ我々も中に入る事にしましょう。

 それじゃ浩二、由香ちゃんまた後で」


「うん、また後で」


「はい皆様また後程」


 俺の家族も卒業式が行われる講堂に入って行った。


「何と言うか、凄いわねお兄さん」


「僕もこれ程とは」


 兄貴の前回を上回る超人振りに困惑するのだった。


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