記念写真をどうぞ
「ほら由香さん、早くいらっしゃい」
「全くですわ、ぐずぐずしないの」
「はい分かっております」
志穂様と美穂様の声がエンペリアルホテルの廊下に響く。
相変わらず苦手の二人だけど、昔程では無い。
私に自信が着いたからなのだろう。
一週間前、浩二君の家族と坂倉さん家族、そして橋本家との合同祝賀会があった。
それは本当に夢の時間だった。
主役の皆さんには悪いけど、私が選んだ黒いタキシードに身を包んだ浩二君の凛々しさと言ったら...
「由香さん、何を考えていらっしゃるの?」
「どうせ浩二さんの事ですわ」
「...う」
志穂様達は呆れた顔で私を見る。
しかし美穂様、『どうせ』とは随分な言い様ではないか。
再び訪れたエンペリアルホテル。
今日は遠方に住む橋本一族を集めての祝賀会。
もっとも合格したのは従姉妹達なので、私の家族には直接関係が無いのだが、当主のお祖父様直系であるパパは出席しないと何かと不味いので今回も私達家族は駆り出される事となった。
会は和やかに終わったのだが、終わるや否や志穂様と美穂様は親戚に囲まれてしまった。
どうやら自分の息子や親戚を婿に是非、ということらしい。
伯父様と私の家には男の子が居ないので、次々期当主に是非という訳だ。
志穂様と美穂様はとても綺麗だ。
加えて学芸大附属中学校に合格したのだから周りの親戚が血眼になるのも分かる。
なぜか私まで親戚に捕まり、見た事も無い男の子を紹介されたのには参った。
姉さんが学校のクラブ合宿で居ないのが災いしたんだろう。
『宜しくね、由香ちゃん』
いきなり笑顔で言われたので寒気が走った。
『よ、宜しく...』
頑張って頭を下げたが、笑顔が引きつってしまった。
『由香、志穂達と先日の写真を引き取って来てくれないか?』
伯父様の言葉に救われた。
こうして私達は会場を出る事が出来たのだ。
「参りましたわ」
「本当に、有一様以外の殿方に興味なんかありませんわ」
志穂様達は先程から何度も同じ事を言っている。
その気持ちは分かる、私だって浩二君以外興味無い。
川口君も大切な友人だけど、あくまで友人。
親友の和歌ちゃんの恋人としての関係だ。
「橋本様、お預かりの品です」
写真館で商品を受けとる。
ビデオテープと、スナップ写真を収めたアルバム一冊。
それぞれ私と志穂様に手渡された。
「早く見たいですわ」
「本当、嫌な気持ちを洗い流したいわ」
大変な言われ様だ、私もだけどね。
「あれは...」
手ぶらの美穂様が写真館の壁を見て固まった。
どうしたのだろう?
「こ、これは!!」
続いて志穂様も、ただ事では無い。
「...浩二君」
私まで言葉を失う。
だって壁の真ん中には大きく引き伸ばされた浩二君とお兄さんの写真が数枚飾られていたのだ。
浩二君ったら何にも言わないなんて、明日聞かなくては。
「皆さんのお知り合いですか?」
「は...はい」
「そうでしたか。
凄いでしょう、何しろ家のカメラマンの手が震えて撮影が大変だったそうでしてね、ようやく撮れた写真なんですよ」
「...でしょうね」
口を開けたまま声が出ない志穂様達に代わり、スタッフに返事をする。
こんな素晴らしい写真を撮る事が出来るのは、さすがはプロのカメラマンだ。
「や...焼き増しを」
「志穂様?」
「焼き増しをお願いしますわ!!」
「はい?」
「撮影した物全部焼き増しして下さい!」
志穂様達が叫ぶ。
そうだ、これは私もお願いしなくては!!
「な、何枚ですか?」
「4枚づつ!」
スタッフに叫ぶ志穂様。
しかし一枚足りないよ。
「5枚です」
訂正する、1人忘れてるよ。
「由香、誰ですの?」
「私達二枚と坂倉さん、後は貴女でしょ?」
志穂様達は不思議そうに聞くが、今は言えない。
「5枚で」
スタッフに念を押した。
「畏まりました」
こうして素晴らしい写真を手にする事が出来た。
翌週、送られてきた写真を私は1人の方のお家に持参した。
「順子さん、これを」
「これは?」
「私と志穂様、美穂様からのプレゼントです」
「え?」
意味が分からない様子の順子さん。
彼女は祝賀会に参加してないのだ。
だからこそ、私は彼女に渡したかった。
愛する人の素晴らしい写真を順子さんに。
「これは...」
有一さんの写真を見て固まる順子さん。
次の瞬間、彼女の目から涙が溢れた。
「気に入って頂けました?」
「もちろんよ!」
「フグッ!」
順子さんが私を力一杯抱き締める。
彼女の胸に息が出来ない!
なんて事なの?私と1つしか違わないのに!!
「...大丈夫由香ちゃん?」
「ええ...」
ようやく解放された。
事前に浩二君から胸に興味が無いと聞いてなかったら...
いや、あの胸は危険だ。
浩二君の嗜好が変わらない内に胸を大きくしなくては。
そう考える私だった。




