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兄貴への恋を実らせてあげたい!  作者: じいちゃんっ子
俺と兄貴の中学入試
57/229

大祝賀会!後編

 十数枚の写真撮影を終えた俺と兄貴は控え室に戻って来た。

 同じく準備を済ませた母さんとばあちゃんは、俺達が部屋に戻る少し前に帰って来て椅子に座っていた。


「へぇー二人共凄いわね。

 良く似合ってるわ。

 こんな服私達じゃ用意出来なかったわ」


「はあー長生きはするもんじゃねー。

 有ちゃんも浩ちゃんも外国のお人形さんみたいじゃな」


 二人共喜んでくれた。


「父さんは?」


「まだ帰ってこん」


 少しお怒りのじいちゃん。

 控え室に一人待たされていたので、ご機嫌ななめだ。


「父さん大丈夫かな?」 


 不安気な兄貴。

 開場5分前、スタッフがやって来た。


「お待たせ致しました。

 これより山添家、橋本家、坂倉家様合格祝賀会、会場にご案内いたします」


「まだ父親が...」


 母がスタッフに事情を話す。


「了解致しました。

 控え室に戻られましたら、会場にご案内させていただきます」


 完璧なスタッフの対応。

 しかし父さんどこに行った?


 またじいちゃんの機嫌が悪くなるんじゃないか、そう思っていたら、


「ほう....」


 じいちゃんは感心、いや感服したような声を出していた。


「どうしたのじいちゃん、何かあった?」


 気になったので聞いてみた。


「浩二、さっき案内人が[山添][橋本][坂倉]の順に言うたじゃろ」


「うん」


「こう言うもんは格が上の家が先に来るんじゃ。

 つまり旧家で名家の橋本家が本来一番先に来るはずじゃ、それでも一番を譲るちゅうことは今日の主役を有一と認めておるって事じゃな」


 成る程、1回ちらっと聞いただけでそこまで分かるのは、さすがはじいちゃんだ。


 会場があるレストランの特別室に案内され、招待状を持っていたじいちゃんがスタッフに渡した。

 じいちゃんが持ってて良かったよ。


「ご案内いたします」


 受け取ったスタッフが一礼して、俺達を案内する。

 レストラン奥にある特別室の扉を開けると、


[山添家 橋本家 坂倉家 合格記念祝賀会]


 と書いてある会場内に足を踏みいれた。


「「有一様!」」


 その声に振り返ると、これまた『これぞお姫様』と言う表現がピッタリの衣装に身を包んだ志穂さん美穂さん姉妹が弾ける笑顔で兄貴を出迎えた。


「とてもお似合いですわ!

 やはり服は着る人を選びますのね」


「当然ですわ志穂さん。

 何と言っても私の目立てですもの」


「あら美穂さん、私もこの白いタキシードといいませんでしたか?」


 なにやら雲行きが怪しいな。


「志穂さん美穂さん、僕の為に用意して貰た衣装ありがとう。

 僕よりも志穂さんと美穂さんのドレスの方が似合ってるよ、さすがに本当のお嬢様だね、どうみたってお姫様だもん」


 空気を読む兄貴は志穂さん達にフォローを入れつつ二人を誉めた。

 兄貴にお姫様と呼ばれ顔が真っ赤だ。


「嫌ですわ有様からかいになっては」


「そうですわ有様」 


「「ホホホ」」


 二人共、自分の家族の方にふらつきながら戻って行った。


「有」


 声に兄貴と振り返ると、坂倉さんが家族と一緒に立っていた。

 坂倉さんも、とても可愛く綺麗なドレスを着ていた。


「坂倉さん凄く似合うよ。

 普段と印象が余りにも違うから見違えちゃった」


「うん、ありがとう。

 でも有一の方が似合ってる。有素敵」 


 坂倉さんの頬が赤い、珍しいものを見たな。


「ありがとう坂倉さん」


「有」


「何?」


「私の家族が揃ってる坂倉さんは少し違う」


「あっそうか、どう呼べばいい?」


「唯、唯って呼んで」


「分かったよ、唯ちゃん」


「ちゃんいらない、唯でいい」


「えっ、呼び捨て?

 いきなりちょっと家族の前で...」


「大丈夫、みんな親しい人は私を唯とよぶから。

 有も親しい人だから...お願い」


 更に顔が真っ赤になっては俯く坂倉さん。

 後にいる坂倉さんの両親もにこやかに頷いていた。


「分かったよ、宜しくね唯」


「ありがとう有」


 その様子を見ていた橋本姉妹。


「ずるいですわ坂倉さん。

 ならわたくしの事を志穂と」


「そうですわ、わたくしの事も美穂と呼んで下さい」


 余りの剣幕に怯みながら兄貴は隆一さん夫婦を見た。

 お父さんの橋本隆一さんが笑って頷いた。

 兄貴はニッコリ笑い、


「分かった、宜しくね。志穂、美穂」


「「キャー!!」」


 志穂さんと美穂さんは叫びながら、また家族の元に走って行った。


「浩二君」


 振り返る前に分かる。

 この声は、


「由香」


「こんにちは」


 由香はニッコリ笑うとスカートをつまみ上げ、ちょこんとポーズを取った。


「凄く、凄く似合うよ!」


「ありがとう、浩二君も本当に王子様みたい」


「ありがとうでも今日の主役達は、」


「幸せな4人だよね」


「うん」


 俺達は笑い合う。


「由香すごくキレイになりましたわね...」


「由香ずるいですわ!

 私も有様と相思相愛になれましたら、綺麗に由香より、もっとキレイになれますのに!」


「うーむ負けられない」


 会場内はそれぞれの家族が楽しそうに談笑して、とても良い雰囲気だ。


 会場内にはビデオカメラを構えたスタッフ、大きな一眼レフを構えたスタッフまでいる。


 父さんが息を切らして会場に入って来た。

 散策したら迷子になって、控え室を探し回ってたんだって。

 30分の遅刻だ。

 家族が揃い、会場内に始まりを告げる音楽が流れて来た。


「また後でね」


「うん後で」


 それぞれ家族のテーブルに着いた。


 兄貴や志穂さん、美穂さん、坂倉さんは主役なので高砂席に4人並んで座っている。


 兄貴と坂倉さんは恥ずかしそうだ。

 しかし橋本姉妹は堂々としたものでニコニコ笑っている。


 司会者が表れ、マイクの置かれたテーブルに着いた。


「それではお待たせ致しました。

 これより山添家、橋本家、坂倉家、合格記念祝賀会を始めさせていただきます」


 司会者の開会の言葉に続き、主賓の挨拶と案内状に書いてあったが、ここで何故か家のじいちゃんが指名された。


 じいちゃんの挨拶も予定されていたが、あくまでも孫の祖父の立場で主賓ではなかった。


 今回は三家合同祝賀会なので全員が主賓の扱いで急遽の指名なったそうだ。

 おそらく喜兵衛さんの計らいだろう。

 じいちゃんは焦らず、見事な主賓の挨拶をして会場内を感動させた。 


 続いて同じく主賓の橋本喜兵衛さんの挨拶。

 これまた場馴れ感があり、神社のご祈祷の話し等、笑いも交えた素晴らしい挨拶だった。


 最後に坂倉家は唯さんのお父さんが挨拶した。

 実直な編集者らしく、きっちり纏めたいい挨拶だった。


 しかし緊張したのか崩れるように席に座ると暫く動かなくなった。

 その後、兄貴達主役4人の挨拶と続き、とても和やかな祝賀会となった。


 いよいよ祝賀会が終わりに近づいた頃、俺はスタッフに花束を渡された。

 高砂席を見ると兄貴も渡されている。


 今は、志穂さんと美穂さんのお父さんが挨拶をしている。

 話が最後に近づいた頃、


「今回の素晴らしい全員合格は有一君が皆を引っ張り上げてくれた事に疑いの余地はありません。

 有一君にそんな気は無かった事は重々承知しております。

 しかし、今日せめてここで頑張った家の娘達、坂倉さんの娘さんに労いの花束を渡しては頂けないでしょうか?

 有一君お願いします」


 兄貴はビックリした顔をしていた。

 でも取り乱すこと無く顔を上げ、高砂席からステージ前で待機する3人にそれぞれに花束を渡した。


 衣装のせいもあり、さながら王子様がお姫様にプロポーズの花束を渡しているようだった。

 3人共涙ぐみながら大切に花束を胸に抱いた。


 そうして会はお開きとなり、みんなそれぞれに控え室に戻っていく。

 俺は由香を呼び止めた。


「由香」


「何?」


「僕からも」


「あら、ありがとう」


 由香は少し困惑した表情を浮かべた。


「どうしたの?」


「いえ、今日の志穂さん、美穂さん、坂倉さんの様子を見ているとね...

 本当にお兄さんの事が好きなんだって伝わっちゃて」


「そうだね」


「私達、順子さんの応援していたよね」


「うん」


「そしてお兄さんは順子さんを意識し始めた」


「少しずつだけどね」


「このままいけばお兄さんと順子さんは...」


「先は分からないけどね」


「でも中学生になると2人は離れる。

 でもお兄さんと志穂さん、美穂さん、坂倉さんの3人は同じ中学校よ。

 みんな距離が近いし、その時、私達は順子さんを....」


「分かってるよ、由香。

 でも最後に選ぶのは兄さんだ」


 苦しい決断を迫られる事になるだろうが、それは兄貴が決める事だ。


「お兄さんが好意に気が付いて、自分の気持ちに素直になれたら」


「でもひとつだけ僕が見極めなきゃいけない事がある」


「見極める?」


『由香も、その時一緒にお願い』

 そう言葉を飲み込んだ。


「兄さんの事を幸せにしてくれるかどうかだよ」



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