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兄貴への恋を実らせてあげたい!  作者: じいちゃんっ子
俺と兄貴の中学入試
56/229

大祝賀会! 前編

 橋本本家が主催する大祝賀会の日がやって来た。

 我が家は朝からてんやわんやの大騒ぎ。


 ばあちゃんは着物の着付け、母さんはドレス(貸衣装)と化粧をホテルに予約したので、特に焦る必要は無い。

 落ち着かない小市民な父さんが、早く行こうと言い出して早々の出発となりました。


「出発するぞ、みんな忘れ物はないか?」


 父さんが運転する車でホテルに行く。

 普段は仕事の配達に使っているワゴンタイプ自家用車。

 折り畳んでる椅子を出したら8人乗りだから家族6人の山添家には調度良い。


 父さんとじいちゃんは既に正装している。

 ホテルで着替えたら良いと思うんだけど、父さんは着なれた感を出したいんだって。


 もちろん兄貴もばっちり正装する予定だ。

 子供の正装は、家にある短パン白靴下、赤い蝶ネクタイにサスペンダーを覚悟したが、招待状の中に『主役の有一様と浩二さんの召し物はこちらで用意致します』と書いてあったのでホテルでの着替えとなった。


 俺の分も用意してくれるのは有難い。

 いくら子供でも、短パン蝶ネクタイは恥ずかしいのだ。


 車の中で母さんは持ちなれないハンドバッグの金具を落ち着きなく触っている。

 ばあちゃんも着物の小物が入った鞄をずっと触っていた。


 やがてクルマはホテルに到着する。

[直接駐車場に入らず、ホテル玄関前に車を着けて下さい]と招待状に書いてあったので、それに従う。

 車を所定の場所に止めると数人のホテルスタッフが我が家の車を取り囲んだ。


「な、なんじゃ!」


「ば、場所間違えたか?」


「おっ....お父さん!」


「あらまぁ、こりゃこりゃ...」


 パニックの車内。

 不安そうな兄貴は俺を見るので、とりあえず心配しない様に頷いた。


 運転席のドアの前で一礼するスタッフに恐る恐る窓を開けるハンドルを回す父さん。


「は..はい?」


「山添様、ようこそエンペリアルホテルへ。

 お荷物はあちらのスタッフにお預け下さい。

 お車はこちらで移動致しますので鍵は付けたままお降り下さい」


 澱み無く話すスタッフ。


「あ、ありがとう...ございます」


 先程のパニックを見られ

 小さな声で返す父さん、ドンマイ。


 みんな車から降りて、我が家の自家用車がスタッフの運転で駐車場へ去って行くのを見送る。


 後のガラスにデカデカと[山添加工所]と書いてある平凡な白い車。

 搬入業者と間違われないかな?


「招待状の返送のハガキに車で来る方のナンバー欄が有ったの、こう言うことだったんだ」


 ポツリと兄貴が言った。


「タクシーで来れば良かったわ」


「6人は1台のタクシーに乗れんじゃろ」


「よう出来た人らじゃったねー」


 落ち着きを取り戻した家族はぞろぞろと館内に入る。

 見上げる天井は高く、中の雰囲気は荘厳その物。

 こんな高級ホテルは前回の人生でも数える程しか経験が無い。


「まさか帰りもまた車をここに出してくれる気かな?」


 父さんの一言にみんな固まる。

 皆無言でホテルスタッフ先導の下、祝賀会控え室に移動した。

 ここで母さんとばあちゃんは化粧と着付けの為、別室に移動。

 控え室に男4人が取り残された。


「少しホテルの中を見て来ます。

 余り入る機会も無い場所ですから。

 開始の20...いや10分前には戻ります」


 居心地の悪さを感じた父さんが席を立った。


「また逃げよったな...」


 じいちゃんがポツリと呟く。


「どうしたのおじいちゃん?」


 兄貴が聞いた。


「なんもないぞ。

 なあ有一、浩二、嫁の両親はなーんも怖くないぞ。

 怖く感じるのは、自分が(やま)しいか、後は誤解、勘違いが殆どじゃ。

 じゃが、本当に怖い事もあるがの」


 そう言って俺達の頭を撫でてくれた。

 やがて俺と兄貴の着替えの用意が出来たとスタッフが呼びに来た。


 俺達の着替えに用意された部屋は10畳程の広さで、壁の片側1面には大きな鏡が貼られいた。


「そちらの箱の中にお着替えが入っております。

 箱の上に御名前が書かれた紙が入ってございますので、お間違えなくお着替え下さい。

 お着替えが終わりましたら、ドアの外にスタッフが控えてございますのでお声かけを」


 案内してくれた女性スタッフは説明を終えると出て行った。


「浩二、僕これ着るの?」


 困った顔で兄貴が言うのも、無理は無い。


 白いタキシード。

 どこの王子様が?ってくらいのキラキラ衣装だ。

 多分志穂さん、美穂さんの選択だろう。


「大丈夫だよ。

 兄さん今日は特別の日だ、普段出来ない服を着て、普段しない事をする日だから」


「浩二は良いよ体も大きいし。

 僕がこれ着たら外国の王子もどきになっちゃう」


「まあまあ、取り敢えず着よう兄さん」


 着替えるとサイズはピッタリだった。

 体の大きさを事前に聞かれて無かったのにビックリだよ。


「浩二は黒のタキシードか、僕そっちが良かったよ」


 兄貴は珍しく愚痴を続けた。


「そんな事ないよ。

 兄さん凄く似合ってるし」


 実際兄貴の白いタキシードは良く似合っていた。

 小柄な兄貴が着ると本当に王子様みたいだ。


「ありがとう、お世辞と受けとっとくよ」


 兄貴はまだ少し不満気だ。


「スタッフ呼んで来るね」


 俺は外に控えているスタッフに声をかける。

 入って来たスタッフは俺達の姿を見て固まってしまった。


「あの...どうかされましたか?」


 兄貴が2人の女性スタッフに声をかける。

 変な格好と思われてないか心配なんだろう。


「い...いえ失礼しました。

 とても良くお似合いです」


「は、はいお二人共とても良くお似合いです」


 2人共顔が真っ赤だ。


「そ、それでは仕上げをさせていただきます」


 スタッフは兄貴にはひらひらのネクタイ(アスコットタイって言うらしい)を巻き、俺には黒い蝶ネクタイを着けてくれた。


「「ありがとうございました」」


 兄貴と二人並んでスタッフにお礼を言う。

 ちゃんとしないと橋本家にも恥を掻かせてしまうからね。


「「あう!!!」」


 スタッフはしゃがみこんでしまった。


「...私このホテルに勤めてて良かった」


「私も、本物の王子達に出会えるなんて...」


 なにか言ってるが、聞こえない事にして部屋を出ようとしたら、スタッフさん達が呼び止めた。


「少々お待ち下さい」


 そう言って後の袋から小さな花束を渡された。

 兄貴に3つ、俺に1つ。


「これは?」


「会場内のテーブル奥に水が入った器がございます。

 そこに差しておいて下さい。

 タイミングが来たらスタッフが合図をしますのでそこでお渡し下さい」


「分かりました」


 良く分からないが演出なんだろう。


「あの」


 もう1人のスタッフがまた呼び止めた。

 今度はなんだろ?


「はい?」


「写真を宜しいでしょうか?」


「えっ」


「お二人お写真を、いえ決して変な事には使いません。

 当ホテルの写真館に飾らせていただきますのでお時間は余りいただきません」


「「お願いします!」」


 スタッフさん達が頭を下げる。

 これって、どうしたら良いの?


「どうする浩二?」


 そんな事俺に聞かないでくれ。


「兄さんに任せるよ、今日の主役だし」


 兄貴は少し困った顔をして、


「分かりました。少しだけですよ」


 と返事した。


「大丈夫?」


「橋本家に迷惑を掛けられないし」


 心配する俺に兄貴は笑う。

 こんな時でも気配りが出来る兄貴は凄いね。


 その後ホテルの写真館で数枚写真を撮られてしまう俺と兄貴だった。


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