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兄貴への恋を実らせてあげたい!  作者: じいちゃんっ子
俺と兄貴の中学入試
53/229

その時兄貴は

 

「ただいま」


「おかえり浩二」


 猫の様に甘える由香といつもの場所で分かれ、家に帰ると兄貴が微笑みながら玄関で俺を待っていてくれていた。


「兄さんおめでとう!良かったね!」


 兄貴の久し振りに見る心からの笑顔に俺は思わず抱きついた。


「ありがとう浩二、本当にありがとう。

 みんなの協力のお陰だよ。

 そうじゃなければ今日こんな日を迎える事は無かったよ」


 後を見ると家族全員が俺と兄貴を見ていた、

 母さんとおばあちゃんは泣いていた。

 じいちゃんと父さんも笑顔。

 みんな本当に嬉しそうだ。


「さあ早く上がりなさい。

 今日は浩二は塾が無い日だろ、ささやかだけど御馳走を食べながら有一の家庭教師の先生も一緒にみんなで有一を祝おうじゃないか。

 まずは部屋に行って着替えておいで」


 父さんの言葉に部屋に戻り、急いで制服から普段着に着替えてリビングに行くとじいちゃんと父さんが兄貴と一緒に笑顔で待っていた。


「まずはあらためて兄さんおめでとう!」


「ありがとう浩二」


「早速だけど今日の様子を教えて』


「ああ、いいよ。詳しく言うね....」

 ―――――――――――――――――――――――――


 有一視点


 駅に8時に待ち合わせした僕は5分前に着くとら改札で既に坂倉さんが来ていた。


「早いね」


「家にいても落ち着かないから20分前に来た」


「ごめん、待たしちゃったね」


「私が勝手に来ただけだから有一は気にしない」


「でも寒かったでしょ?

 待ち合い室で待ってても良かったのに」


 少し紫色に変わっている坂倉さんの唇。

 大丈夫かな?


「それじゃ早く有一に会えない。

 寂しいのは嫌だ」


「そうなの?

 でも早く会えて嬉しいよ。

 今日は緊張するね、朝からもうドキドキが止まんないよ」


「もう結果は試験直後から決まってるのに発表までの時間が無駄に長い」


「そうそう、分かるよ」


「あら、お待たせいたしましたしら?」


「ごめんなさいね」


 そこに橋本志穂さんと美穂さんが駅に着いた。


「おはよう志穂さん美穂さん、時間通りだよ。

 さあ切符を買って出発しよう」


「「はいですわ」」

「おー」


 電車は丁度通勤ラッシュの真っ最中で僕達の小さな体はたちまち飲み込まれてしまった。


「...な、なんと言うか、地獄ですわ」


「美穂さん、どちらに行かれましたの?声は聞こえますが...」


「大丈夫です、し...志穂。ここです...」


 く、苦しい。人の圧迫感がこれ程とは...


「みんな次の駅がターミナル駅だから頑張って。次の駅で殆ど降りるはずだから」


「「はいですわ」」

「分かった」


 予想通り次の駅で殆どの人が降りた。

 1度外に出た僕達は同じ車両に乗り直す。


「し、死ぬかと思いましたわ」


「同じくです」


「こねくり回されされて、どうにかなるかと思った」


「大丈夫だった?

 みんな合格したら通学時間を変えるか、少しでも空いている車両を探そう」


「「「みんな...合格」」」


「「「その通り(ですわ)(だ)」」」


 空いた車内でお互いの乱れた髪型をさっと直す橋本姉妹。

 凄く呼吸が合ってる、さすがだ。


「今は車内だから、迷惑を考えてこんな物ですね」


「そうですわね、後は駅のパウダールームで直しましょう。

 有様10分程駅で時間取っても大丈夫でしょうか?」


 僕は手帳を開く。

 ちゃんと時間を控えて来て良かった。


「大丈夫、10分くらいなら間に合うよ」


「よかったですわ」


 駅に着くと志穂さん達は坂倉さんの腕を掴んだ。


「坂倉さんもいらっしゃい」


「なぜ?」


「あなたも髪型を直しなさい」


「私はいい」


「いいからいらっしゃい」

(そんな姿で歩かれると有様まで恥を掻きますわ)


「分かった」


 凄いね、どうやって坂倉さんを説得したんだろう。

 駅のトイレ(女子トイレはパウダールームって言うんだね)で10分程待つ。

 するとすっかりきれいになった3人が出て来た。


「「お待たせいたしました」」


「待たせた」


「大丈夫、まだ10分しか経ってないし、

 ここから学校までバスで15分程だ。

 今時刻は9時05分で、次のバスの時間は9時15分だから発表には十分間に合うよ、

 バス停は駅前のロータリーだ行こう」


「バスの時刻まで調べて来ましたの?」


「そうだよ、何かあったら大変だし」


「「さすがですわ」」

「さすが...」


 目的のバス停にバスは着いた。

 学校はバス停の真前だ。

 バス停を降りて学校の門を見る。

 合格すればここに最低でも3年間通うんだ。


「受かりたいな」


 思わず呟いた。

 後を振り返るとみんな頷く。

 同じ気持ちなんだ。


「さあ、行こう!」


「「「はい!!」」」


 校庭横のレンガ校舎に発表用の大きな板の看板が地面に刺さっている。

 看板の前には受験生やその親、塾の関係者で大混雑している。


 確か今年の定員は男女合わして150人。

 出願者数は400人だと新聞に書いてたな。

 そんなどうでもいい事を思い出す。

 まだ看板に合格番号の紙は貼られていない。

 時間は9時50分。

 ますます緊張感が高まる。


 発表5分前になり2人の職員が巻物にした大きな白い紙を持ってきた。

 慣れた手付きで1人が板の端に紙を貼り付け、もう1人が板の上に貼り付けて行く。


 紙に書いてある数字が見える。

 緊張で全部貼り終わるまで僕は目線を上げられない。

 3人もそうみたいで、僕達は4人並んで下を向いていた。


 しばらくすると歓声が聞こえてくる。

 僕達4人は目線を合わせみんなでゆっくり掲示板を見上げあ。


 僕の番号、あった、あった!

 すぐにみんなの番号も見る。

 坂倉さん..あった!!!

 志穂さん....あった!!!

 美穂さん.......あった!!!!

 みんな合格!

 信じられない!!


「有...あったよ...」


「おめでとう坂倉さん!」


「あった!!あったよ!!」


 あの冷静な坂倉さんが泣きながら僕に飛び付いて来た。

 驚きながら坂倉さんを抱き止め、志穂さんと美穂さんを見る。


「あ...ありましたわ」

「わたくしも...」


「「や、やりましたわありましたわ!!」」


 受験票を震える手で握りしめ2人は崩れ落ち泣き出した。


「おめでとう!!みんな合格だ!!

 最高の結果だよ!」


「「ゆ、有様!

 有様!有様!坂倉さん!やりましたわ私達もやりましたわ!」」


 僕は2人の手を取り4人で肩を抱き合い喜んでいた。


 すると後から...


「志穂~!!美穂~!!おめでとう!!!」


 叫びながら走って来る志穂さん達のお父さんがいた。 


「お、お父様!?」


 志穂さんと美穂さんは泣きながら驚いていた。


「やったな!やったなー!」


 その姿にいつもの威厳は無く、子煩悩な志穂さん達のお父さんだった。


 その後、僕達は学校に電話をかけに行ったんだけど電話の前は大混雑。

 するとの志穂さん達のお父さん(橋本隆一)が、


「電話のある所まで送るよ。

 安心したまえ、今日は私の自家用車だからね」


 そう言ったので安心して僕達はお願いした。

 学校を出て、最寄りの駐車場に停められていた自動車に乗せて貰い、最寄り駅の公衆電話で学校と家に連絡する事が出来たんだ。


 ――――――――――――――――――――――――――――


 兄貴から話を聞いて状況が目に浮かぶ。


「結局伯父さんも発表に来たんだ」


「もし娘達だけ落ちてたらと思って声がかけられなかったそうだよ。

『酷い』って志穂さん美穂さんも少し怒りながら、でも笑ってた」


「そうだろうな」


「それでね、今回の合格を祝う会を橋本家でするから来てくださいって」


「良かったね、行ってきなよ」


「いや、僕達家族全員で。

 坂倉さんの家族も」


「僕も?」


「浩二も」


「考えときます」


 明日由香に詳しく聞こう。

 

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