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兄貴への恋を実らせてあげたい!  作者: じいちゃんっ子
俺と兄貴の中学入試
51/229

発表!

 合格発表の朝が来た。


 朝から家族は落ち着かない。

 両親共にそわそわしている。

 じいちゃんとばあちゃんも落ち着きなく家の中をうろうろしていた。


 試験の後、兄貴の自己採点では、『大丈夫』と言っていた。

 そんな兄貴もいつもの落ち着きがなく、さっきからトイレに何度も行っている。

 試験の時より緊張しているのは兄貴の性分だろう。


「有一、一緒に見に行かなくて良いの?」


 母さんが昨日から10回以上同じ事を聞いている。


「大丈夫だってお母さん。

 みんなで見に行くって約束してるんだから」


 兄貴はその度同じ返事をしていた。


「そうよね。うん、その通りよね」


 父さんもやれやれといった感じてやり取りを見ている。

 でも本当は自分も行きたいって、態度が見え見えだ。

 じいちゃんとばあちゃんは電話を仏壇の横に置いて何度も磨いている。

 黒電話が新品みたいにピカピカだ。


 発表は10時からなので兄貴はまだ家にいる。

 当然平日なので俺はいつもの時間に学校に行く。


「いってきます」


「いってらっしゃい...」


 全然気のない家族の返事を聞きながら、いつもの待ち合わせの場所で由香と合流する。


「おはよう浩二君」


「おはよう由香」


「やっぱり落ち着かないね」


「ああ僕もだよ」


「私の家でも同じよ。伯父様が次の当主で、受験したのがその娘達だから。

 分家までみんな飛び火よ。

 お祖父様は氏子総代を務めてる神社に毎日ご祈祷に行ってるし」


「確か由香のお祖父さんが氏子している神社って...」


「そうよ、安産の神様。

『案ずるより産むがやすし』って。

 お婆様も毎日朝晩にお百度詣りしてるの。

 だから近所の何人かが、

『橋本さん誰か親戚がおめでたですか?』ってパパの病院で聞かれて困ってたわ」


「由香のお父さんも大変だな」


「そうなの、この時期に試験する中学校って国立の中学校くらいしかないから、

 学芸大学付属中学校ってすぐに分かっちゃう。

 それでなくても受験の時に伯父様が目立つ車で近所走ったから、分かる人にはもう分かっちゃってるみたい」


「だろうな」


「発表まで伯父様今回も大学休んで行こうとして志穂さん達に止められていたわ」


「想像できるね」


 今日は4人で電車に乗って発表見に行くので、駅で待ち合わせをするそうだ。


「でもあの伯父さんなら、後ろから黙って着いていきそうだな」


「まさか?」


「それだけ家族に心配かけるって事だな」


「来年は私達よね」


「そうだな」


「頑張ろうね」


「ああ頑張ろう、一緒に仁政に行こう」


「うん一緒だよ」


「ああ、ずっと一緒だ」


 手を繋ぐ。

 こういうのは照れたら負けだ。

 学校に着いて教室に入る。

 ランドセルをいつものように机に掛けてると隣のクラスから佑樹がやって来た。


「おはよう佑樹」


「うっす、今日だな」


「ああ」


「落ち着かないな。

 俺は家族でも何でもないのに不思議だ」


「それだけ佑樹も気にしてくれてるんだよ、ありがとう」


「そうかな?

 でもそう言う事だろうな」


「うん」


「来年は俺達だな」


「ああ、来年は『俺達』の番だな」


「珍しいな浩二が俺達って」


「結束感があってたまにはいいだろ?」


「そうだな。

 でも俺本当は今から不安なんだよ」


「そうか?

 佑樹の実力なら自信もっていけば良いと思うけど」


「実力試験だけなら怪我でもしてない限り自信がある。 

 だがな、過去の実績も審査の対象になるからな」


「それなら尚更だろ?

 全国大会準優勝にアンダーなんとかも日本代表だろ?」


「Uー12だ。

 後、代表っても控えな」


「そうか。

 でもそれだけ実績があるんなら問題ないだろ」 


「普通はな、だが全て辞めたチームにいた時の実績だ。

 サッカーはチームでするものだ。

 それ程の実績をあっさり捨てる人間をどう見るか、だな」


「でもチームを辞めて仁政に行った先輩達も居てるんだろ?」


「それに期待するしか無いか。

 そろそろ戻るよ、んじゃまたな!」


 佑樹が出て行くとすぐにチャイムが鳴り

 先生が入ってきた。


「起立!」


 日直の号令で席を立つ。


「礼、着席」


 席に着くと先生が、


「おはよう、今日は山添の兄さんの合格発表だな?

 もう行ってるのか?」


 いきなりだな。


「僕が家を出る時にはまだ居ました」


「そうか、結果どうだろうな?

 山添の兄さんの事なら大丈夫と思うんだが」


 この担任は兄貴の3、4年の時の担任だったんだ。


「どうでしょう?

 結果は僕より先に学校に電話があると思いますが」


「そうなんだが、元担任としては気になるものなんだよ。

 合格すれば我が校から14年振りの快挙になるそうだし」


 そんな話は職員室でやれ!

 俺は先生のデリカシーの無さに頭に来ていた。


「先生、その話は職員室でどうぞ。

 浩二君もお兄さんの結果がとても心配で大変なのです」


 凛とした由香の声が響いた。


「お、そうだな、すまん山添。

 さあ朝のホームルーム始めるぞ」


 そうして無事に始まった。

 一時限目の休み時間。


「ありがとう由香」


「お礼なんて良いわ、浩二君が怒って当然よ。

 だから思わず言っちゃっただけだから」


「あれ?僕怒ってたっけ?」


「ごまかしても駄目。

 何年一緒にいると思ってるの?

 作り笑顔なんかで私の目はごまかされないのよ」


 由香、あなたは凄いよ。


「それより発表10時ね」


「次の授業中だ」


「浩二君の家に電話する?

 私10円玉何枚かあるわよ」


「ありがとう、でもいいよ。

 どうしても知りたくなったら職員室に聞きに行くから」


「それもそうね」


 2時限目の始まりを知らせるチャイムが鳴った。


「それじゃ後で」


「うん」


 自分の席に着く。

 授業が始まったが黒板上の時計が気になって仕方がない。


 やがて時計は10時を回る。

 当たり前だが教室に何の変化も無い。

 兄貴達は発表を見た頃か。

 俺が兄貴の未来で結果が分からないのは恋がらみ以外では初めての事だ。


 そんな事を考えていると、廊下を走る足音が。

 次の瞬間教室の扉が勢いよく開いた。


「山添!

 お兄さん合格したぞ!!

 今さっき本人から電話があった。

 伝言だ、『みんな受かったよありがとう』だそうだおめでとう!」


 それだけ言うと行ってしまった。

 今の誰だっけ?

 いや、そんな事はどうでも良い。

 受かった?

 受かった!兄貴が受かった!!

 みんなって志穂さん美穂さん、坂倉さんも?

 後を振り返る。

 すぐ後の子が驚いているが構わない、俺が見る先は由香だ。


『おめでとう』

 言葉にせず、口の動きだけでそう伝えて

 由香は涙を浮かべニッコリ笑った。

 由香もさっきの伝言の意味を理解したんだろう。


『ありがとう』

 俺は心の中でそう伝えた。

 放心状態の先生がやっと我に帰る。


「う、受かった?受かったのか?

 よーし、よくやった!山添!おめでとう!!」


「ありがとうございました‼」


 先生の声に俺は心から最高の笑顔で応えた。


 クラスのみんなも俺の顔をみて泣いてくれた。


 なんか拝んでるのもいる。


 気を失ってるのもいるぞ!


 教室はパニックになった。

 先生には叱られた。


『加減しろって』

 でも、そんな事はどうでも良い。


 兄貴、おめでとう!!


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