いよいよ受験日 皆様編
前半は志穂さん美穂さん視点。
後半は坂倉さん視点です。
「わたくしの名前は橋本志穂」
「そして、わたくしの名前は橋本美穂」
私達は皇蘭学園初等部6年生。
皇蘭学園と言えば、言わずと知れたお嬢様学校。
幼稚園から9年間、私達はレディの道を歩んで来たわ。
でもそれもあと僅か。
そうよあと僅か。
だって春から学芸大学付属中学校に通うからよ!
「でも志穂」
「なーに美穂」
「本当に大丈夫かしら?」
「何弱気になってるの!模試でB判定貰ったでしょ!合格率60~80%よ!」
「でも志穂、B判定貰ったの1回だけじゃない。
その他の3回はC判定よC判定。
つまり50~60%つまり約2回に1回は落ちる確率よ」
「ば、ばかおっしゃい!!
余りの10%の立場はどうなるのよ!
それに考えて御覧なさい!
最初の模試を」
「あー思い出したくも無いE判定ね」
「そうよ屈辱のE判定、合格率20%以下」
「...あれは効いたわ」
「でも、それがあったから私達も立ち上がって来れたのよ!!」
「そうよ屈辱を胸に私達はここまで来たのよ」
「そう全ては」
「全ては」
「「山添有一様に相応しいレディになる為に!!」」
私達が有一様にお会いしたのは2年生の春でした。
お父様に言われて1年から入った小杉塾。
私達の入った皇蘭学園は幼稚園から大学まで付いている学園だけど、初等部から中等部、中等部から高等部、そして最後の大学に到るまでに計3回の選抜試験を受けなくてはいけない。
学力、品性が満たない生徒は弾かれてしまう。
事実、毎回初等部から中等部に上がる時に3割近い生徒が学園を去って行く。
その事を心配した父上が指導力の誉れ高い小杉塾に私達を入れたのよ。
小杉塾の指導法は精鋭主義、
学年に応じた学力の者には[一般コース]。
学力優秀な者には上の学年のコースに編入が許される通称[飛び石コース]。
私達も小学1年、入塾の際に皇蘭の誇りに賭けて優秀の証[飛び石コース]を狙いましたが夢叶わす一般コースだったわ。
翌年の2年私達は遂に念願の1学年上の飛び石コースに入れましたの。
「丁度その時でしたわ」
「ええその時よ」
新しく入った2年生の中に最高の栄誉、
飛び石2年コースを勝ち得た者が居ると聞きましたの。
最初はすぐについて行けけなくなるって話していたら、私達と同じ1年上の飛び石コースに新しく入った同学年の小娘が『有はそんなに弱くない、甘く見てたら自分が惨めになる』って言われたのよ!
生意気、本当に生意気!
でもその小娘...いいえ、坂倉さんの言った通り、有様は見事に2学年上の飛び石コースを見事な好成績で修められた。
私達が有様と初めてお話したのも丁度この頃、あの小娘...いえ坂倉さんが有様と知り合いとの事で一緒に自習する事が出来たのよ。
その後は有様に私達は骨抜きでしたわ。
いろんな話をいたしましたわ。
学校の事、弟さんの事、そろばん塾の事。
普通の話でも有様が話すとお伽噺のようでした。
そんなある日私達の従兄弟の由香が...
今は特に由香と何もありませんわ。
でも幼稚園の頃よく他の子達と一緒になって泣かせて遊んでましたわね。
それが原因で由香は皇蘭小学校でなく地元民の通う小学校に行き始めましたの、今考えるととても悪い事しましたわ。
そうね、それが原因でお父様と叔父様は少しギクシャクしましたもの。
「...そんな事よりあの日の由香よ!」
「そうよすっかり明るく凄く綺麗になった由香がいたのよ!!」
綺麗なドレスまで着ている由香に聞いたら誕生会だって。
どうせ家族しか来ないんでしょって聞いたら浩二君が来るって。
そう有様から聞いていた弟さんの名前も浩二。
由香から学年も学校も同じと聞いて確信しました間違いない有様の弟だと。
「その後パーティに飛び入り参加して確認したのよね、志穂」
「そうよ美穂。
浩二さんの笑顔は間違いなく、有様の弟さんでしたわ」
由香が好きになるのも分かるってもんよ。
その後由香が浩二さんとお付きあいをされてるって聞いて、私達も一層有様を諦め切れなくなったわ。
有様は私達の常に前を走っているから遠くに感じてしまうのよ。
でも諦めず私達は勉強を更に頑張り続け...
4年生の時に遂に私達は有様のクラスに追い付いたのよ!
「でもその後有様は学芸大学付属中学校に挑戦を言い出したのよね」
「ええ、親睦を図ろうと由香みたいに誕生会を行って有様を招待したら...
まさか有様がお父様の研究テーマに触発されてしまうなんて!」
「でも有様の学芸大学付属の挑戦に私達燃えましたね」
「ええ燃えましたわ」
「それで5年の屈辱のE判定から正に寝る間を惜しんで勉強しましたのよね」
「ええ6年の時なんか修学旅行以外の学校行事全てキャンセルしてまでに」
「あら?そろそろ時間ですわ志穂」
「ええ行きましょう美穂」
「「私達の未来の為に!!」」
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私は坂倉唯。
私は口下手だ。
でも別に気にしていない。
私の気持ちを分かってくれる人は分かってくれるから。
私は勉強が得意だ。
幼稚園の頃から誰にも負けた事がなかった。
...彼に会うまでは。
文芸雑誌の編集者をしている父親のお蔭で、家にはたくさんの本があった。
教科書も図鑑でも何でも読めば頭にすぐ入った。
幼稚園の年長のある日、母さんがそろばん教室の案内を持ってきた。
『あなたの将来に役立つよ』って。
そろばんは面白くて直ぐに好きになった。
幼稚園で同い年の子なんかと遊ぶよりそろばん教室で年上の子とお話する方がずっと楽しかった。
そして私は小学校に入った。
ある日そろばん教室に新しく入った私と同い年の子が凄いって話になっていた。
最初は興味無かった。
しかしその子はどんどん昇級して半年で私のクラスに追い付いた。
驚いた。別に昇級目的でそろばんをしている訳じゃない。
寧ろ昇級に合わせて貰えるシールですら、そろばんに貼りたくないからそろばんの教科書に挟んでいるくらいだ。
ある日読み上げ算をした。
私は初めて彼に負けた。
次の授業では負けた数が増えた。
生まれて初めて負けて悔しいと思った。
その日初めてその子の名前を聞いた。
『山添有一』
普通だった。
次に私の名前を聞かれた。
『坂倉唯』
『唯ちゃん。いい名前だね』って言われた。
嬉しかった。
この人をもっと知りたいと思った。
きっと『好き』になったのだろう。
ある日、有一が誕生パーティーをすると聞いた。
行きたかった。
でも勇気が出ない。
そろばん教室で同じクラスの美樹さんにお願いした。
『私を有一のパーティーに一緒に連れて行って下さい』
美樹さんは快く了解してくれた。
無事に誕生日パーティーに参加出来た。
そこには私を敵視する子がいた。
当たり前だ有一は凄い。
だから有一の事が好きな女の子もいる。
諦めよう。
そう思った。
その時、私より少し大きな有一によく似た男の子が話しかけてきた。
『あれこの子』
腹が立った。
今諦めようとしている自分にも。
気がつくと....絡んでた。
山添浩二。
その名前は有一から聞いていた。
有一と凄く仲が良い兄弟だという事も知っていた。
一人っ子の私には兄弟が羨ましかった。
『私は坂倉唯だ、解ったか山添浩二』
浩二が名乗ってないのに先に言ってしまった。
そして訳も分からず、有一に告白していた。
...分かってもらえなかった。
有一は鈍感だった。
私は山添有一が好きだ。
でも浩二は最初の出会った時の自分の慌てぶりを思い出すから苦手だ。
浩二は悪くない、私が悪いと思う。
ごめん。
有一が2年から学習塾に通うと聞いた。
私も母さんに頼んで同じ塾に入れて貰った。
我が儘言わない私の頼みだから母さんも驚いていた。
入塾のテストは難しいテストだった。
2年生の問題ではなかった。
何とか書けるだけ書いて提出した。
結果1つだけ上の学年のコースに入った。
有一はどうだったろう?
同じなら嬉しいな。
でも有一はまた私の上を行っていた。
今度の悔しさは前回の比では無かった。
私はそろばん教室を辞めて、両親に家庭教師をお願いした。
そろばん教室で有一に会えないのは辛い。
でも有一に並べない自分は情けなくて、もっと辛い。
両親は私の本気な様子をみて了解してくれた。
何とか有一に追い付いた。
次に有一は言った、
『学芸大学付属中学校に行きたい』
私はもう迷わなかった。
『私も行く』
しかし何度も挫けそうになった。
しかし諦める訳にはいかなかった。
何故か?
勘違い姉妹の志穂と美穂がいたからだ。
絶対あの姉妹の成績では学芸大学付属中学は無理と塾の先生も言っていたにもかかわらず。
あの姉妹は挑戦し続け、6年最後の模試でB判定を取ってしまった。
勘違い姉妹は、
『1回しかB判定が取れなかった』
そう言ってたが時期が問題だ。
最後の模試でB判定なんだから。
ずっとA判定で最期にB判定の方がよっぽど嫌じゃないか。
私か?
私は最初はB判定、後3回はA判定だ。
「「お待たせいたしましたわー」」
どうやら勘違い...志穂と美穂が来たらしい。
「父さん、母さん来たみたい。
じゃあ頑張ってきます」
...何コレ??




