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兄貴への恋を実らせてあげたい!  作者: じいちゃんっ子
俺と兄貴の中学入試
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見えない未来

 その後全ての1日のスケジュールが終わり、俺達は風呂の後約束通り自習室に来ていた。

 俺と祐一は同部屋で何かと便利だ。


 自習室は50人程が入れるスペースがあり監視役の講師が一人座っている。

 初日にも関わらず自習室は半分埋まり、熱気が伝わる。

 教えあう声は大声でない限り注意はしないそうだ。


 俺は教室内の真ん中の長テーブルに祐一と並んで座り早速家から持ってきた入試対策の課題に取り組んだ。


「浩二君は凄いね教え方が上手いからサクサク進むよ」


 祐一が感嘆の声をあげた。


「そうか?」


「うん分かりにくい算数の応用問題だって、いきなり公式を持って来ないで、

 分かりやすく例題出してそこから当てはめるなんて思いつかなかったよ」


 30年近く前の大学時代に家庭教師をしていた頃の経験が思わぬ所で役に立った。


「ありがとう。

 祐一は理解力があるから僕も教えやすいよ」


「そんな...ありがとう」


 祐一は真っ赤な顔でうつむく。

 可愛い奴め。

 しばらくすると、別のテーブルにいた違うクラスの生徒達が来た。


「あの、僕らも分からない所があって。

 迷惑じゃなかったら、少し教えてくれない...」


「いいけど、先生に聞かなくて良いのか?」


「うん、自習はみんなで教え合いながら力をつけるのが目的だから大丈夫だよ」


「そうか祐一はいいか?」


「うん浩二君を独り占めは出来ないしね」


「分かった、で何処が分からないんだ」


「ありがとう!

 で、この文法なんだけど..」


 気がつけば俺の周りに10人以上のグループが出来ていた。

 しかし自習室の中からこちらを睨むような視線に気づく。


「久君...」


 祐一の小さな声。

 視線の主はさっき俺に絡んだ吉田久だった。


「一緒にやるか?」


 俺は出来るだけ自然に声をかける。

 一瞬驚いた目をした吉田だが、すぐに目を逸らせて、席を立った。

 祐一と擦れ違い様に、


「祐一、分かっていると思うが余計な事を言うなよ。

 言ったら絶交だからな」


 吐き捨てるように言って、自習室を出ていった。

 少し変な空気になったが、すぐにさっきまでの空気に戻り12時の終わりまで自習は続いた。


 翌朝、俺は何時もと同じ6時前に目が覚めた。


 歯を磨きに行くためのベットから出る。

 すると上のベットで寝ていた祐一が、


「浩二君起きた?

 一緒に歯磨きに行こ、で昨日の話もしたいんだ」


 小声で話掛けてきた。

 一緒に歯を磨き、祐一と外に出る。


「良いのか?施設の建物から出ても」


 少し心配になった俺は祐一に聞いた。


「大丈夫、建物から出ても施設の外に出ない限り怒られないよ」


「詳しいな」


「去年も参加したからね」


「そうだったのか」


「うん、それじゃベンチに座って」


 朝早いとはいえ、8月の朝は明るく周りの景色もきれいに見える。


「で、浩二君の聞きたい事は久の小学校の事だね」


「ああ」


「分かった。

 久には兄さんが3人いてね、みんな凄く頭が良いんだ。

 3人共、学芸大学付属中学校に進んで一番上の兄さんは今東大生なんだ」


「凄いな!」


 吉田久はエリート兄弟の末っ子なのか。


「うん、

 下の2人の兄さん達はまだ高校生と中学生だけど二人共、東大か一橋を狙ってるんだ。

 でも久は昔からそんな兄達と比べられて来たんだ。

 見てて可哀想だったよ。

 でもね小学校に上がったら親友の女の子が出来たんだ」


「それって...」


「昨日言ったよね伊藤律子さん。

 りっちゃんって僕らは呼んでるんだ。

 りっちゃんは比べられて苦しんでいた久にやさしく言ったんだ

『兄さんは兄さん、久は久だよ。

 久の良い所私は一杯知ってる。優しい所、仲間思いな所。だからそんなに苦しまないで』って」


 律子なら言うだろうな。

 あいつは人が悲しんだり、苦しんでいると誰より心配して励ます性格だった。


「それで久はりっちゃんのお陰ですっかり元の性格に戻って元気になったんだ。

 そんな優しいりっちゃんに久も惹かれて行って...」


「おいおい、まさか....」


「久は告白したんだ。

 2年生の終わりかな?

 クラスの中で誰が好きかって話になってさ、

 久は、『りっちゃん、僕はりっちゃんが大好きです』って。

 クラスの中で告白だよ。みんなびっくりしちゃった!」


「そ...それで律子の返事は?」


「『ありがとう私も久君が大好きだよ』って。

 お似合いだったなあの2人。あれどうしたの?」


「な、な、何でもありません。

 ...その後は?」


 激しい衝撃だ。

 まさか前世の嫁だった律子にそんな過去があったとは。

 聞いた事あったかな?

 いや小学校の恋愛なんか一々言わないか、聞いたとしても忘れてるだろうし。


「その後も2人はお似合いで、学校公認のカップルだった。

 けど、去年...」


 去年?

 去年俺に会った事で何かあったか?


「去年久が家族に言われたんだ。

『小学校の内から恋愛にうつつをぬかす一族の面汚しめ』って」


「何だと?」


「久は家族に言われたんだ。

『兄達みたいに学芸大学付属中学校は無理にしても、せめて名の知れた中学校に行け。

 それが出来なきゃ2人の交際は認めない!』って。

 久の家は旧家で輪善寺の檀家総代で、伊藤さんの家も同じ檀家で門前町の老舗和菓子屋、田舎って色々あるんだよ」


「.......」


「どうしたの?黙っちゃって」


「それはいつ頃の話?」


「去年の夏過ぎ位かな?

 確かみんなで夏祭り行った時は2人共浴衣を着て楽しそうだったから」


 俺が会ったのは去年の春の遠足だから、

 俺の影響で運命が変わった訳じゃなさそうだ。


「ありがとう、大体の事は分かったよ。

 でも大丈夫か?全部話して」


「うん。

 何の根拠も無いけど浩二君なら2人を助けてあげられる気がするんだ。

 何の自信も無いけど」


「そうか、そろそろ起床の時間だ、部屋に戻るか」


 こんな話は律子から聞いた事無かったぞ。

 何にせよ吉田と話するか...

 いやまずは頭を整理しよう。

 俺は先の見えない未来に混乱していた。



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