表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄貴への恋を実らせてあげたい!  作者: じいちゃんっ子
俺と兄貴の中学入試
43/229

情報は必要です

「覚えてるよ」


 何とか気持ちを立て直す。

 吉田久と名乗った少年(自分もだが)の事は正直、覚えて無い。

 しかし、オリエンテーリングの事は覚えてるので嘘は言ってない。


「そうか、お前凄い有名人だったんだな。

 山添兄弟の事は聞いた事があるぜ、とんでもない兄弟が飛龍学園にいるって」


「何だお前ら知り合いだったのか?」


 俺達が話ていると吉田の知り合いらしい男の子が入ってきた。


「顔を見て、もしかしたらって思ったんだ。

 オリエンテーリングの時に名前聞いたと思うけど、悪いな忘れてた」


「いや1回会って聞いた名前を覚えてる方が少ないって。

 偶然だね、この合宿には1人で参加を?」


 俺も同じだ。

 しかし落ち着いて見たら、吉田久ってかなりの男前だな。

 背は俺と変わらんが、高い鼻筋で切れ長な目、髪型は当時一般的だった坊っちゃん刈りじゃない。

 これは佑樹に匹敵するかも...


「オリエンテーリングの時の奴等はいないよ。

 そっちも一人みたいだな」


「そうだよ」


 ポーカーフェイスを気取りながら返す俺。

 心の中は律子がいない事に感謝していた。 


「さっき聞いたが仁政を受けるのか?」


「そのつもりだけど」


「全国模試34位なら学芸中学だって狙える圏内じゃないか。

 ひょっとして兄さんも仁政狙いで一緒に行くためか?」


「いや兄の志望は学芸大学附属中で、僕だけが仁政狙いだ」


「なぜ?」


「いろいろ理由があるんだ」


 佑樹達との約束を果たす為、なんて恥ずかしくて言えない。


「俺は正直面白く無い」


「面白く無い?」


 吉田久の目付きが変わる。

 いきなり睨み出したぞ。


「希望校を決めるのは決して悪い事じゃない。

 でもな、人には才能があって限界があるんだ。

 仁政中学は凄い学校だ、俺なんかとても受からない。

 5年のこの時期に俺の偏差値じゃ目指す事自体無謀だ。

 でもここにいる奴等は少しでも上を目指してる。

 少しでも上の学校に行きたくて努力しているんだ」


 なんだ急にこいつは?


「おい、止めろよ」


 見かねた他の生徒が吉田の肩を掴んだ。


「最後まで言わせてくれ。

 6年なら分かるよ。

 合格圏だから仁政第一中学にしようとかさ。

 何でこの5年の時期に上を目指さないの?


 全国34位だから?

 頭良いから仁政からでも将来は東大でもどこでも行けるからって思ってるんだ?

 何で仁政?


 彼女いるってさっき言ってたな?

 あの時の可愛い子だろ?

 あの子が仁政行くなら僕も仁政に行くとか言ってんのか?

 受験舐めてんの?」


 いかん、こりゃまずい。

 吉田の迫力はなかなかだぞ。


「おいやめろ!

 吉田は少し外で頭冷やして来い!

 清水!お前吉田と同じ小学校の同じクラスだろ?

 ちょっとこいつを連れて行ってくれ」


 余りの剣幕に講師の1人が吉田を止めた。

 顔を真っ赤にした吉田は呼ばれた男子と一緒にホールから出て行く。


 奴の言ってた事も少しは分かる。

 俺の発言は周りを見下すように取られかねなかった事は反省だ。

 だが吉田の俺に対する態度は少し過剰、異常と言っていい。


 俺オリエンテーリングの時なんかしたかな?

 記憶が無い。

 変な事したなら分かるけど、前回が初対面で、今回は2回目だ。

 頭は混乱するばかりだった。


「大丈夫だったか?

 とんだ災難だったな」


「あなたは?」


 1人の男子が話掛けて来た。


「俺は大川、吉田と同じ飛龍学園の石山校から来た。

 すまなかった。

 吉田はあんなやつじゃなかったんだが、最近小学校でなにかあったらしい」


「そうなんですか」


「詳しくは知らないが明るかったあいつがだんだん塞ぎこんで、だが成績は落ちてないんだ。でも何かに追われるように勉強して、合宿も去年は参加しなかったのに」


 そんな話を聞きながら、余り前回の時間軸の関係者と接点は持ちたくない。

 そう考えながらも、何かに巻き込まれそうな予感がした。


 その後夕飯前まで軽い授業が各クラスのフロアに分かれて行われた。

 幸いにも吉田は俺のクラスには居なかった。

 6時から夕食。

 初日の最初の食事だけあって、余り他の系列校の子と一緒に食べてる子はいない。


 騒ぎ起こした吉田は俺から離れた席に座り夕飯を食べている。

 時折俺を睨む視線を感じるが、無視を決め込む。

 これ以上の面倒はごめんだ。


 夕食後は部屋に戻って自分のベッドで合宿のパンフレットを見ながら今後の予定を確認した。


[夕食後に一度部屋に戻へり30分の休憩の後7時30分から1時間の授業。

 その後自由時間で自習室を使わない子は部屋で10時迄に就寝。

 自習室を使う子は静かに部屋に帰り周り生徒を起こさないように就寝する事]


[翌朝は6時30分起床。

 7時までに寝床を整理して、7時30分までに朝食]ね。


「山添君」


「誰ですか?」


 2段ベットの下にいた俺はベット脇で手刷りに手をかけた男子に目が行く。

 目がクリっとした小柄な可愛い?男子と言うよりまだ男の子と言った感じの子が立っていた。


「少し良いかな?」


「良いですよ」


「さっきはびっくりしたよね、ごめん。

 最近吉田君おかしな事になっていて」


「えーとまず君、誰?」


 いきなり話されても困る。



「僕は清水、清水祐一です。

 さっき自己紹介したけど忘れた?」


 うん。正直忘れてた。

 それを言ったら傷つくだろうからそこはボカそう。


「思い出したよ。

 ごめんね、さっき色々あったから。

 ちょっとボーっとなってた」


「そのさっきの事なんだ。

 僕は久...吉田君と同じ石山小学校の同じクラスなんだ。

 あっ同じクラスって小学校のだよ。

 塾のクラスは君と同じ...」


 さっきの授業の時、清水君は同じクラスにいた気がする。

 つまり同じ難関特進コースか。


「さっき同じ教室にいたよね。

 同じ難関中学校受験特進コース、一緒に頑張ろう」


「ありがとう覚えてくれてたんだ」


 さっきまで忘れてだけどね。


「どういたしまして。

 で、さっきの話の続きなんだけど」


「そうそう、僕は吉田君と幼馴染みで、ずっと同じ保育所と小学校なんだ。

 それで一番の友人なんだよ。

 さっきの吉田君はあんな感じだったけど、ついこの前まで明るくて冗談も言う楽しい人だったんだ」


「そうだったの、それじゃなんで?」


「色々あったんだ、伊藤さんの事とか」


「伊藤?」


 清水君の言った名前に思考が止まる。

 まさか伊藤って...


「知らないよね、同じ学年にいる子で伊藤律子さん。

 吉田君と仲良しでずっと一緒にいる子なんだ」


「く、詳しく教えてくれないか?」


 俺はベットから飛び出して清水君に迫った。


「どうしたの山添君、急に雰囲気が...」


「いいから、教えてくれ」


「どうしよう?

 吉田君に口止めされてるし...」


「清水君、いや祐一。

 君と僕はもう友人だ、親友と言っても良い。

 親友に隠し事はいけないな」


 にこやかに祐一の手を握る。


「し...親友って。

 あの、親友ならお願いがあるんだけど」


 祐一は顔を真っ赤にして俺を見詰めた。

 そんなのは構わない。



「言いたまえ友よ!」


「何か人格変わって無い?

 僕も浩二君と呼んでも良い?」


「もちろんだ、祐一君。

 さっ、言っておくれ浩二と」


 俺は両手を広げ、祐一が俺の名を呼ぶのを待った。


「ありがとう浩二君」 


「どういたしまして」


 こんな事で律子の話を聞けるなら安いもんだ。


「もう1つ良いかな?」


 緊張が解れた祐一がお願いの追加をして来た。


「いいともー!」


「いいともーって何?」


「忘れてくれ。

 さ、言ってくれ」 


「あの、浩二君って仁政第一中学校を受験するんだよね」


「そうだよ」


「僕も仁政を希望してるけど模試の判定はC判定つまり50~60%なんだ。

 このままの成績じゃ受験先変更も視野に入ってきちゃう。

 ずっと仁政第一を目指してきたから諦めたくないんだ。

 浩二君、この合宿中だけでもいいから僕と一緒に勉強して下さい」


「そんな事か、もちろん良いよ。

 一緒に自習もしょう。

 自習室は12時までは使い放題だしね」


「良いの?

 嘘じゃないよね!

 あの山添君と一緒に勉強できるなんて!」


「おいおい、僕の事は浩二だろ。

 それに僕はそんな嘘は吐かないよ」


 よし、これでいい。

 まずは情報収集だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ