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兄貴への恋を実らせてあげたい!  作者: じいちゃんっ子
俺と兄貴の中学入試
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覚えてるか?

 季節は過ぎ、今は夏休み。


 いつもの夏休みは、だらだらテレビを見るか、クラスの友達が遊びに来たり俺から行ったりしていた。


 でも今年は受験勉強があるので例年通り遊びに行くのは憚られる。

 それに塾も盆休み以外毎日だ。


 今年は初めて夏の合宿に参加する事になった。

 俺の通う塾は大手だけあって、他の系列校と合同合宿で、塾が借り上げた研修専門のセンターで実施される。


 3泊4日の短期なのだが、知り合いが誰もいない環境は緊張する。

 兄貴は小杉塾で夏の合宿に加えて、俺の通う塾での集中講座、更に空いた時間は家庭教師と、俺の比ではない。

 俺も来年、兄貴みたいに気合が入れば良いんだけど。


 そんなこんなで、合宿に出発する。

 まずは最寄りの駅まで電車移動。

 そこから研修センターまでマイクロバスによる移動。

 1時間程の電車移動を家族は心配してたけど、会社勤め20年を以上のキャリアがある(前世でだけど)。

 途中の乗り換えも難なくこなし、後10分で到着予定。


 電車内には見知った顔が何人かいる。

 たぶん同じ塾の生徒だろうけど、違う小学校だから、知り合いと言える程親しく無い。

 目的の駅に着き、電車を降りるとやはり彼等も同じ合宿参加者だったらしく続いて降りた。


 改札で切符を駅員に渡し、ロータリーに停まっていたマイクロバスに貼られている紙を見た。


[飛龍学園グループ夏の合同合宿]と書いてるので間違いない。

 マイクロバスの扉は開いており、乗り込む。

 既に数人の子供達は座っているが、大人はいない。

 バスの出発時間が迫った頃、関係者らしい大人がやって来て簡単な点呼を取る。


 どうやら運転手も兼ねていたようで、そのままハンドルを握りバスは出発した。

 20分程走ると山間(やまあい)の林道沿いに最終目的地の合宿所があった。


 入口で担当者に飛龍学園の何校か、そして氏名と学年を伝える。

 チエックした担当者は部屋の番号を教えてくれた。

 俺の部屋番は203、手渡された館内の案内図を見ながら移動する。

 到着した部屋にはまだ誰も来ておらず、ゆっくり中を見渡した。


 部屋は10畳くらいで2段ベッドが4基の8人部屋。

 荷物を指定の場所に置き、筆記具だけを持って結団式に出席する為にメインホールへ向かった。


 200人ぐらい入るホールには長テーブルと長椅子が並べられていた。

 長テーブル一つにつき長椅子に4人座るように指示される。


 長テーブルは全部で20基、つまり80人ぐらいの参加者だろう。

 テーブルの右上に部屋番が書いてあり、自分の番号の椅子に座り開始を待った。


 30分程するとテーブルもほぼ満席となり開会式が始まる。

 男女比は男子7、女子3と言ったところか。


 授業内容のスケジュール確認に続き、施設の注意事項等を聞いた後、生徒達の自己紹介となった。


 初対面の人前で挨拶は緊張する、これは大人になっても一緒だ。

 しばらくして俺の順番が回って来た。


「飛龍学園、岸田校から来ました岸里小学校5年山添浩二です。

 3泊4日の限られた時間ですが、宜しくお願いします」


 緊張する室内の空気をほぐす為に、ニッコリ笑顔浮かべながら、ゆっくり挨拶を終えて頭を下げた。


 一瞬静まりかえるホール。


「...地獄を想像してきたのに仏がいた」


「エンジェルよ、...天使がこの合宿に来たのよ」


「長テーブルの上に光り差し込んでいるぞ...」 


 なんの事だ?

 意味が分からん。


「はい静かに。

 気持ちは分かりますが静かにしなさい」


 顔見知りの女性講師がざわついたホールの雰囲気を再び引き締める。

 俺の顔を見つめると、更に言葉を続けた。


「山添浩二君はあの山添有一君の弟さんです。

 浩二君も5年生から特進コースに入り、前回の模試では全国34位に入ったのです。

 これは我が飛龍学園グループの5年生トップです。

 皆さんも山添兄弟に負けず頑張って下さい」


 ...更にざわめきが大きくなりましたよ。

 模試の結果は個人情報でしょ?

 全国5位以内に入ってる兄貴は別だけど。

 この時代の緩さは仕方ないなだろう。


 全ての生徒達は自己紹介を終えた。

 初日の授業は夕方からで、今から1時間は自由時間になる。

 俺は周りの生徒達に捕まった。


「山添浩二さんに質問!」


「浩二でいいよ」


「じゃ、浩二君で」


「はいはい」


「希望校は?」


「仁政第一中学校」


「得意科目は?」


「算数かな?公式とか思い出したら楽しい」


「苦手は?」


「敢えて言えば社会かな?」


「なぜ?」


「以前覚えた時と、今は変わっている事が多いから」


「変わっている?」


「ごめん忘れて」


「好きな人は?」


「います」


「付き合ってますか?」


「はい」


「私もいかが?」


「間に合ってます」


「去年オリエンテーリングした?」


「えっ?」


「したよな。

 吉田久を覚えてるか?

 石山小学校の吉田だよ。

 佐藤や袴田、伊藤と一緒にオリエンテーリングしてて道に迷ってたら、そっちの学校も遠足でオリエンテーリング中で、俺達は助けて貰たんだ。

 覚えてないか?

 そっちのインパクトに比べたら俺達は地味だったからな」


 何にも言ってないのに一方的に喋られて唖然とする。


 どうやらまた関係者(伊藤律子の)に出会ってしまった。


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