じいちゃんは怒ると怖いのだ
机に向かってノートに書き込みながらあれこれ考える。
「浩!昼御飯出来たよ、早く食べなさい!」
部屋の外から若々しい母さんの声がした。
「はーい」
急いで落書き帳を机の背面板と壁の隙間に隠して食堂に走って行った。
中にはまだ30過ぎの母親が..』
「わ、若い」
昨日までの自分より、遥かに若い母親の姿に思わず呟く。
なにしろ今年の正月に会った母はもう80歳近いお婆さんだったんだから、この感覚は間違いない。
「『若い』って何よ『若くてきれいな』とか続かないの?」
うん母さんだ、この受け答え。
「今朝はびっくりしたわよ、おばあちゃんに聞いた時私仕事してたから全然気が付かなかったの。ごめんね」
「ううん大丈夫、心配しないで」
母さんに心配かけないように元気に返事をする。
「そう良かった。じゃ明日からまた保育園行ける?」
そうかこの頃は保育園に行ってたんだ
俺はこの保育園に良い思い出は全く無い。
神父じゃないのに祭服を着て聖書の言葉を話すエセ神父園長。
何故かおやつはいつも岩おこし。
何より嫌いだったのは園長の息子が、
[兄ちゃん先生]と園児に自分を呼ばせ、気に入らない園児には怒鳴ったり痕が残らない程度に叩いたりしていた。
こいつは高卒ニート上がりで、保育士の資格を持って無かったのを後で聞いた。
そして俺も4歳の頃こいつの餌食になった。
クリスマス会で演奏する木琴の練習中、上手く出来ない俺の頭に、
「こうするんじゃ!!こう!!」
と木琴のバチを叩きつけたのだ。
さすがにこの一件は問題となり、こいつは馘になるかなと思ったが謝罪したのみで相変わらず保育園で先生面をしていた。
あの時のじいちゃんは怖かった。
謝罪に来たあいつに、
『儂がお前がやった同じ事をお前にやる!
文句は無いじゃろ!!4歳の孫の頭に30前のお前がやった事を60過ぎの儂がお前にやるんじゃ、文句は無いじゃろ!!』
じいちゃんは大正初期の生まれだけど170センチ近い身長で90キロ近い巨漢。
しかも元陸軍将校と来てる。
怖い、今思い出しても怖い。
あいつは土下座する勢いで謝罪した。
「本当に大丈夫?体調悪いの?」
母親の心配そうな声に我に返る。
「大丈夫明日から保育園に行くよ」
笑顔で返すのだった。