4年生の決意 中編
目の前に家族全員が集まっている。
緊張感から中々声が出ない。
「ん?どした浩二?
別に急がんでエエ、ゆっくりでエエから」
じいちゃんのさりげない優しさに気持ちが解れる。
「うん、僕も兄ちゃんと一緒で中学校受験しようと思って」
「えっ!それは無理よ!絶対無理!!」
母さんが大声で立ち上がった。
「お金の問題じゃないの、学力、学力の問題。
馬鹿じゃないのは母さんも分かってるのよ。
でもね塾にも行って無い浩二が...」
「母さん落ち着いて、浩は
『中学受験する』しか言ってないよ」
さすがは兄貴、俺の言葉不足をすぐに気付いた。
しかし母さん、分かってるけど絶対無理って。
「うん、兄ちゃんの言った通り学芸大学附属中学じゃないよ」
「あっそうなの?
ごめんなさい母さん早とちりしちゃたみたい」
「母さん落ち着きなさい。
で、浩二はどこの中学校を狙うんだ?」
父さんが聞いた。
「うん仁政第一中学校だよ」
「「「仁政第一?」」」
家族の視線が少し痛い。
「あの仁政第一か?」
兄貴の言葉のトーンが少し下がる。
「有一難しいのか?」
「うん、この辺じゃ学芸大学付属中学の次くらいのレベルだよ」
「次くらいって浩二、大丈夫か?
母さんも言ったが塾にも行ってないお前が4年の今から勉強して間に合うものか?」
兄貴の様子に父さんは心配そうに聞いた。
「分からない。
正直、厳しい挑戦になるのは覚悟してる。
でもやらなきゃいけないんだ!」
「何か事情があるみたいじゃの。
浩二、言うてみい」
じいちゃんの言葉に頷き、先を続ける。
「いつも僕が一緒にいる友達がいるでしょ?
みんな仁政第一に挑戦するんだ。
僕も一緒に挑戦しなきゃ駄目なんだよ」
「どうして駄目なの?」
「僕がみんなの人生を変えたから」
「「「人生を変えた?」」」
家族の視線が一斉に集まる。
『何を言ってるの?』
そんな心の声が聞こえる様だ。
「佑樹はサッカー留学しようとしていた。
僕が一緒いたから佑樹は留学をやめてサッカーの名門の仁政第一を目指すって。
花谷さんも佑樹と一緒に剣道日本一を目指して仁政を受けるんだ。
そして、由香は僕の為に家族に迷惑かかるのを覚悟して同じ地元の中学校に上がろうとしてるんだ」
「それっって浩のせいじゃなくて、みんなの選択じゃないの?
何で浩がみんなの人生を変えた事になるの?」
家族の反応はそうなるだろう。
でもここが正念場だ。
「僕は兄ちゃんみたいに凄く勉強が出来る訳じゃない。
スボーツも少し上手くやるだけで一番になれる訳でも無い。
でも僕と一緒にいたい、一緒の学校で過ごしたいって言う仲間が出来たんだ!
そんな友達を、親友達を裏切りたくない。
僕と出会わなければ皆違う人生を送っていたんだ。
だから僕は今こそ、今こそ僕は逃げずに頑張りたいんだ!!」
みんな静まり返る。
やがて静かにじいちゃんが口を開いた。
「浩二、人の出逢いは運命じゃ。
決まった運命はもう変えられん。
出会った以上、出会わなければと言う事はないんじゃ。
だがの、浩二の思っとる事はよう分かった。
浩二は運命の仲間達に出会えた訳じゃな?」
しっかり頷く。
「分かった。
有一は将来の夢が決まり、浩二は運命の仲間達と一緒に居れる為に頑張るか。
ええ事じゃ、儂ゃ浩二を応援するぞ」
「そうか、浩二がそう言うならしっかりやれ」
「私はまだ全部納得出来てないけれど、お勉強しっかりやって頑張りなさい」
「おーおー浩ちゃんも立派になったねー」
良かった、皆応援してくれるみたいだ。
「浩」
「何?兄ちゃん」
「本気か?
本気で仁政第一に挑戦するのか?」
「ああ本気だ」
「分かった、正直に言うよ。
佑樹君達は知らないけど、今から勉強しても非常に厳しいと思う」
「有?」
「黙って母さん。
だけど今から塾だけじゃなく僕も勉強みてやる。
僕も自分の勉強があるから全部見れないけど僕の橫で勉強しなよ」
「分かった」
兄貴の言葉はもっともだ。
なんの準備もなく、勢いだけで中学受験が成功するなんて思ってない。
そんな甘い世界じゃない事を兄貴は伝えたいのだろう。
「小杉塾は今から行っても駄目だよ。
あそこは低学年から基礎だけじゃなく受験に向けた勉強法を徹底的に叩き込むんだ。
だから僕が、行ってるもう1つの塾、飛龍学園に行くべきだね。
あの塾は学芸大学附属中学には弱いけど、他の学校への進学実積は大したものだから」
「ありがとう兄ちゃん」
「まだ早いよ。
まず僕が受かって、浩が次に受かってからだよ」
これで方針が1つ決まった。




