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優子姉さん 後編

「そんな事があったのね」


「ええ」


 佑樹の留学に悩む花谷さん。

 俺の話を聞き終えた優子姉さんは何度か頷く。

 これなら花谷さんの説得をお願い出来るかもしれない。


「浩二君、和歌子ちゃんの道場に通ってる私に何とかしてもらおうって考えた訳でしょ」


「え?」


 いつも穏やかな優子姉さんとは思ない程冷めた瞳に息が詰まった。


「有一君と離れなきゃならないのに!

 人の恋だ何だを私に手伝えって言うの!」


「えぇ!!?」


「諦めたくないのに、諦めなきやいけない私が泣きながら、

『優子は駄目だったけど、和歌子は諦めるな!頑張れ、頑張れ!頑張るんだ和歌子は大丈夫!』って言うの? 

 それで、『分かりました。佑樹君あなたが好きです』ってなる?

 あなた、それは和歌子ちゃんを馬鹿にしすぎよ」


「ぐぅ!!!」


 次々に繰り出される優子姉さんの言葉。

 俺は何も言えない。

 あなたは呼ばわりも巻き戻ってから初めて言われた。


「つまりね、そういう事なの。

 人の気持ちを自分の意のまま動かす何て無理なの。

 そんな事できたら立派な詐欺師よ。

 なりたい、でもなれない、そのジレンマがあるから人は成長出来るんじゃないかな?」


 正に正論、俺はぐうの音も出ない。


「和歌子ちゃんの事は分かったわ。

 それじゃね浩二君」


 立ち去る優子姉さんのの後ろ姿を見ながら軽率な自分の言動を悔いていた。


「ただいま」


 やっと教室に戻って来た俺は倒れこむ様に由香の机にもたれかかった。


「おかえりなさい、優子さんと話できた?」


「駄目だったよ」


「駄目って話ができなかったの?」


「ううん話は出来たよ。でも」


「ああ浩君の感じた事は良いのよ。

 知りたいのは会話の中身だけ。

 帰りに私の家に寄って」


「え、由香の家?」


 またしても?

 嬉しいけど、緊張するんだよ。

 下の医院で由香のお父さんとお母さんが居ると思うと。


「浩君の家って家族がたくさんいて賑やかで楽しいけど、内緒の話には向かないのよ。

 だから家に来て、お願い」


 由香、上目遣いで見ないでくれ。


「分かったよ」


「イヤ?」


 躊躇いを見透かす様な由香。

 こりゃ敵いません。


「了解、帰りに寄らしてもらいます」


 最近由香の洞察力が凄い。


「ただいま、さあ浩二君入って」


「おじゃまします」


 由香に続いて家に上がり、そのまま部屋に入った。


「今家には?」


「誰もいないよ?」


「ですよね」


「そんな事より、教えて」


「うん、優子姉さんは....」


 今日の昼休みに優子姉さんとした話を出来るだけ詳しく由香に教えた。


「成る程ね、さすがは優子さん。

 後は任せましょ。

 和歌ちゃんが言ってきたら直ぐ川口君に伝えてあげて、よろしく」


 由香はニコニコ、良い笑顔だけど...


「今の話、どうして優子姉さんに任せるってなったの?」


「えっ浩二君、分からないの?」


「うん分かんない」


 由香は軽い溜め息の後、小さい子どもを諭すような目で俺を見た。


「浩二君は今回の件で優子さんを利用したね」


「う...」


「浩二君に完全な悪気は無かったけれど、傷ついてる優子さんに和歌ちゃんの事を手伝って貰おうとした。

 それでも優子さんは浩二君のお願いを嫌と言わなかったでしょ?」


「確かに断らなかったけど、優子姉さんの言い忘れかも...」


「あのね、優子さん最後に何て言った?

 和歌ちゃんの事は分かったって言ったんだよね。

 浩二君のお願いに嫌と言わないで、最後に分かったって。

 どうして駄目だったって思えるの?」


 成る程そう言う事か、少し理解出来たぞ。


「後は優子さんに任せましょ。

 優子姉さんは凄いわ、さすが浩君のお兄さんを見続けてただけの事はある。

 傷ついているのに人の為に動く精神力、ひよっとしたら6年後、ひよっとするかも」


 由香、変なフラグを立てないで。

 しかし俺は鈍いのか?

 由香には分かりやすく俺にはサッパリ分からなかった。

 49歳まで前回は生きたはずなのに

 これで話は終わり、俺は家に帰った。


 そして3日後の朝、いつもの教室。


「佑樹、今日帰り時間ちょうだい」


 いつもの様に佑樹とまるで弾まない会話をしていると花谷さんが割り込んできた。


「ああ良いぜ。どこで待ってたら良い?」


 花谷さんの姿に少し焦りながらも早口で返す佑樹。

 由香から必ず花谷さんからアプローチがあると聞いていたので佑樹に

『返事は来る、きっと来るから』と言い続けてたから佑樹の動揺は少なく済んだ。


 花谷さんの後ろで由香は神妙な目で俺達を見ている。

 佑樹に花谷さんは何を話すのか知らないみたいだ。


「放課後の教室で良いわ。

 ...佑樹帰らないでよ」


「分かった絶対待ってる」


 しかし本当に花谷さんが佑樹の所に来たんだ。

 優子姉さん凄いよ。

 それを予想した由香も凄い。


 そして全ての授業が終わり、放課後になった。


「それじゃ僕と由香も帰るね」


 教室に残っても違和感無いような会話をしていた俺と由香。

 他のクラスメートが教室を出る。

 俺達4人になったのを確認して出ようとした。


「待ってくれ浩二!」

「お願い待って由香!」


 2人の声が響く。


「立ち会ってくれとまでは言わないから

 、廊下で待っててくれ。

 頼む!」


「私からもお願い」


 俺は由香と無言で頷き廊下に出た。


「大丈夫かな?」


「絶対大丈夫だよ」


「そうだな」


 5分くらい経っただろうか。


「浩二、橋本、入ってくれ!」


 扉の向こうから佑樹の声がする。

 俺達はもう一度頷いて扉に手を掛けた。


「開けるぞ」 


 ゆっくり扉を開けると2人の幸せな笑顔が俺達を見つめていた。

 向かい会い、手を握る佑樹と花谷さん。

 後ろでは教室のカーテンが風にたなびき、幸せな二人を祝福している様だった。


「浩二...ありがとうな」


「由香、色々ありがとう...」


「おめで...」

「和歌ちゃん!!」


 飛び出した由香が花谷さんと佑樹の2人に抱きつく。


「よかった~!

 和歌ちゃんよかったよ~よがっだよ~」


「ちょ、ちょっと由香っ!あんた泣きすぎ!」


「わっ橋本お前鼻、鼻水が!

 浩二何とかしろ!」


 二人の間で崩れる様にすがり付く由香。

 そういえば由香は泣き虫さんだった、最近少し忘れてたよ。


「はい由香ティッシュ」


「いやティッシュじゃなくて、あ~もう!」


「おめでとうお二人さん」


 俺は心から祝福の笑顔を浮かべた。


「「ありがとう!」」


 最高の笑顔で答える2人。


 俺はまた人の運命を変えてしまった。


 不思議と後悔は無かった。


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