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優子姉さん 前編 

 月曜日、いつものように教室に入る。

 由香と2人でいつものように、


「「おはよう」」


「「「「「おはよう」」」」」



「いつもながら神々しい」


「俺フレスコ画を勉強してあの2人のお姿を壁画に残しておきたい」


「馬鹿ね東洋人なら南画よ、文人画で残すのよ!」


 クラスのみんなが話す会話には着いていけないので、聞かなかったふりをしよう。


「おはよう」


「おはよう川口君」


 会話に加わらず、1人自分の席でうつ向く佑樹に声を掛けた。


「あ、ああ、おはよう」


 いつもの元気が無い。

 不機嫌な感じは受けないが、辛そうだ。

 花谷さんも佑樹から離れて、自分の席で何かを考えていた。


 自分のランドセルを机の横の金具に引っ掛け、佑樹の机の向かいに座り、由香は花谷さんの机の隣の席に座った。


 授業が始まるまでみんな勝手な席に座り勝手に話すのが朝の定番だった。

 いつもなら俺達4人は1ヶ所に集まり盛り上がるが、今日は2つに分かれていた。


「由香から聞いたよ」


 そっと佑樹に話かける、隠しても仕方ない。


「そうか、橋本は花谷とは親友だもんな。

 俺振られたのかな?

 良く分からないんだ、伝え方がまずかったかな?」  


「いや佑樹は頑張ったよ」


「...そうか」


 それだけ言うと佑樹は塞ぎこむように俯いてしまった。

 今の佑樹にはこれ以上声をかけても無駄だろう。


「まだ終わってないよ、また次の休み時間な」


「ん」


 佑樹は一言返事を返しただけだった。


 俺は席を立ち、自分の席に戻る。

 由香も花谷さんの席から離れ、自分の席に。

 俺達は擦れ違いざま目を合わした。

 由香が小さく首を振る。

 花谷さんも佑樹と同じだった様だ。


 次の休み時間も、2人の反応は変わらない。

 何の変化も無く1日が過ぎた。


「かなりの重症ね、何を言っても

『駄目なんだ言えない』しか言わないの」


 学校からの帰り道、公園のベンチに座る。

 由香が花谷さんの様子を教えてくれた。


「ああ、そのようだね」


「そっちはどう?」


「辛そうだ。

 蛇の生殺しって感じかな? 

『一層の事振ってくれ!でも言わないでくれ!』ってそんな感じだな」


「おかしいよね、相思相愛なのに」


「全くだよな」


「和歌ちゃんの気持ちも分かるだけに辛いよ。

 和歌ちゃん2年生の2学期ぐらいから川口君が好きだったから」


「そうなの? 

 全然気がつかなかった」


 意外だ。

 花谷さんは学校でいつも佑樹と一緒だ。1年以上も佑樹を好きだったのか。


「男の子は鈍感だからね。

 好きって気持ちを自覚するのは女の子の方が早いものなの」


「佑樹が自分の気持ちに気付いたのが2ヶ月くらい前で、花谷さんはずっと佑樹に好意を持って貰えず片思いだった訳か。

 それは辛かっただろうね」


 花谷さんの気持ちに気づかなかった佑樹、なんて鈍感な奴。

 1人頷いていると由香は少し呆れた目で俺を見ていた。


「な、なに由香その目」


「浩君がそれを言うか!って目かな」


「ごめんなさい」


 すぐに謝る。

 こういう時は謝るのが1番だ。


「それで一番の方法は素直に和歌ちゃんの心を開かせて、今度は川口君に告白の流れを自然...は無理か」


「花谷さんの頑固だからね。

 流石は武道家、自己の精神の強さが並外れてる」


 関係無いかもしれない。

 でも楽な方に流れない花谷さんの頑固さが今はもどかしかった。


「強引な方法で行くと、素直じゃない2人は間違い無く...破滅だね」


「だな」


 最悪の展開を考えるだけで俺達まで暗くなる。

 こんな時誰か頼りになる人は居ないのかな?

 花谷さんを性格をよく知り、彼女を諭すような人...1人居たな。


「優子姉さん」


「え?」


「優子姉さんの力を借りてみよう。

 優子姉さんの心も聞けるチャンスだ」


「優子さんの心って?」


「それはね...」


 由香に兄貴の事と花谷さんの説得をお願いする話をした。


「そんな簡単に行くかな?」


「分からない、でも話だけはしてみるよ」


 半信半疑な由香。

 でも他に方法が思い付かないのでやってみる事にした。

 翌日、俺は朝一番で5年3組の教室に向かった。


「すみません、西村優子さんはいますか?」


 教室で1人の男子に声を掛けた。


「おい!我が3歳組にも降臨されたぞ!」


「おぉ2組に続いて我がクラスにも! 有一様から離れた3組に光が!

 4組の奴等残念がるぞ!」


 口々に叫ぶ3組の生徒達に着いていけない。

 何なんだこれは?


「あの、西村優子さんを」


「そうだな西村よ、浩二様がお見えだぞ」


「あら久し振りね、浩二君」


 優子姉さんは相変わらず優しい笑みを浮かべてやって来た。

 優子姉さんの袖を引っ張り、廊下に連れ出した。


「優子姉さん、お話しがあります。

 今日の昼休みに焼却炉の所まで来てもらえませんか?」


「あらら、良いわよ」


 優子姉さんは静かに微笑んだ。


 そして、迎えた昼休み。

 俺は焼却炉に、ほぼ同じタイミングで優子姉さんもやって来た。


「すみません呼び出しちゃって」


「良いのよ浩二君のお願いだもの」


「あの、兄ちゃんの事ですが、

 優子姉さんの気持ちを聞きたいんです」


 先ずは優子姉さんの兄貴に対する気持ちから聞いた。 


「私は今でも有一君が好きよ。

 でも有一君から離れなきゃ行けないの」


「何で、何で離れなきゃならないんですか?

 別の中学校に行っても優子姉さんは兄ちゃんの傍に居たら良いのに!!」


 あっさりと兄貴との別れを口にする優子姉さんに思わず声が大きくなる。


「違う、違うのよ浩二君」


「何が違うんですか?」


「私ね、5年生が終わると転校するの。

 お父さんの転勤でアメリカのサンフランシスコに。

 戻れるのは任期の終わる6年後なの」


「な、なんて言いました?」


「ごめんなさい、まだみんなには秘密なんだ。3学期になったら発表する予定だったの」


「そんな...」


 衝撃的な優子姉さんの告白に何も言えなくなる。

 前回の時間軸、優子姉さんが兄貴の前から姿を消したのにはそんな理由があったのか。


「だから私は有一君傍に居られません。

 6年間も有一君を待たせられない。

 ごめんなさい。後は順子に託すわ」


「優子姉さん...」


 はっきりと兄貴との決別を口にする優子姉さん。

 順子姉さんの名前を出す時、僅かに表情が歪んだ。


「浩二君、有一君の事でお世話になったね。

 ありがとう」


「剣道は?」


「剣道は続けるよ。

 これでも強くなったんだ。

 今じゃ和歌子ちゃんにも5回に1回は勝てるんだって自慢にならないか。

 でも和歌子ちゃん最近好きな男の子が出来て綺麗になったよね。

 確か浩二君と同じクラスの...」


 思わぬ話の展開、ここは乗るしかない。


「川口です、川口佑樹」


「そうそう川口君ね。

 よく和歌子ちゃん『佑樹が、佑樹が』って良いな、好きな人とずっと居られて」


「そうでもないみたいですよ」


「ん、どういう事」


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