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悩む2人 考える2人

 佑樹の相談を聞いた翌日。

 特に予定が無い俺は昨日の事を思い出しながら1日を過ごしていた。


 机の上にはボロボロになってきた例のノートが置かれている。


「最近いろいろあったな...」


 独り言を呟きながら、指折り数えてみる。


 遠足でいろいろあって大変だった。


 その後3日間落ち込んだ。


 自分の気持ちを由香に伝えて...告白した。


 兄貴の将来の夢や受験の話を聞いた。


 順子姉さんの気持ち聞いた。


「で、佑樹から相談を受けた」


[兄貴の小学校生活~]表紙を眺め、ページをパラパラ捲る。

 残りは僅か数ページしか残っていない。


 新しいノートを準備しよう。

 次のノートから題名変えようかな。

 未来は変わって来ている。

 兄貴も俺も、由香や佑樹、そして周りの人も。


「浩!電話よ~!」


 母さんの声に気持ちが引き戻される。


「はーい」


 急いで電話に出る。


「もしもし」


『あ、もしもし浩君?』


「由香?」


『そうだよ。ごめんねいきなり電話しちゃって。 

 あのね、今から用事とかある?』


 由香は少し焦った声、何事だろ?


「いや何も無いよ」


『良かった、今から家に来れない?』


「今?」


『うん。ごめんね、明日朝からじゃとても話きれなくて...』


「分かった今から行くよ」


 選択肢なんか無い。

 早く行かなくては。


『ありがとう、ごめんね。待ってる』


 電話を切って、後ろにいた母さんに出かける事を伝えた。


「由香ちゃんのお家?

 失礼のないようにね」


「はーい」


 急いで着替えて支度をする。

 由香の家は俺の家からそんなに離れていない。

 普段なら歩いて行くが、用事が気になった自転車で向かうとしよう。


 僅か2分程で由香の家に着く。

 医院の自転車置き場に自転車を置かして貰う。

 今日は日曜で休診だから1台も停まってない。

 裏口に回って家族の通用口玄関の呼び鈴を押した。


「はーい」


 奥から由香の声がする。

 玄関の鍵の開ける音がしてドアが開いた。


「早かったね」


 少しお洒落な服を着た由香、いつもながら可愛い。


「自転車だからね」 


「そっか、ごめんね急に」


「いや別に良いけど、随分静かだね。由香、家族の皆は?」


「今日皆は梨香姉さんのテニス部の試合に応援に行ってるの、だから夕方まで誰もいないのよ」


 な、なんだと?

 また二人っきりの家、今ね誰もいないの...だと?


「あの浩君聞いてる?」


 少し呆れ顔の由香。

 なぜ俺が違う事を考えてるのが分かるんだ?


「ああ、聞いてるよ。

 家族は留守なのか、で話って?」


「実は昨日の夜に和歌ちゃんから電話があったの、

 明日の朝、会えないかな?って。

 それは川口(佑樹)君の事でね、昨日和歌ちゃんの家に来て。

 これ以上は電話じゃ話せないからお願い』って。


 だから電話をかけたまま受話器を押さえて、そっとママに明日出掛けて良いか聞いたの。

 そうしたら、お世話になった花谷さんからの相談なら必ず行きなさい、って」


 あの後佑樹は直ぐに花谷さん家に行ったのか。

 即断即決は佑樹の持ち味だけど、いくら何でも早すぎるな。

 花谷さんもビックリしただろう。


「今日の朝から和歌ちゃんの家に行って来たのよ。

 話が長くなっちゃって、さっき帰ったばかりなの」


 成る程、それで由香はお出かけの服を着てるって事か。


「それで花谷さんの話って」


 想像は着くけど。


「それがね、昨日の夕方川口君が急に来て和歌ちゃんに話しをしたんだって。

 試合に来てくれて嬉しかった事、サッカー留学の話が来てる事、まだ悩んで結論が出ない事。

 そして川口君は和歌ちゃんが好きな事...って浩君余り驚いてないね」


 やはりか、いきなりの告白。

 佑樹らしいと言えば佑樹らしいけどな。


「驚いてるよ」


「私に隠し事出来ると思う?」


 やはり無駄か。


「いえ思いません」


「さ、話して」


「はい、実は...」


 由香に昨日佑樹の家で話し合った事を伝えた。

 俺は秘密の話なんか出来ないのだ。

 未来から戻った事以外は。


「そんな話を浩君にしてたのに、何で私に内緒にしてたの?」


「話を直ぐしに行くって思わなかったんだよ。

 その日のうちに告白しに行くと思う?

 明日の朝には由香に話そうって思ってたんだ、本当だよ」


 苦しい弁明になるけど本当の事、由香は俺の顔をじっと見つめた。


「嘘は言ってないみたいだね」


「分かるの?」


「分かる」


「何で?」


「内緒」


 やっばりね。


「話の続きだけど、和歌ちゃん話を始めるといきなり泣き出しちゃったの。

『どうしよう?佑樹が行っちゃう。

 いなくなっちゃうよ、夢を応援したいけど私離れたくないよ』って。

 だからね和歌ちゃんに聞いたの

『川口君が好きなの?』って」


「それで?」


「好きなんだって。

 でも川口君には重荷になりたく無いから、

 今のところ好きなのか分からない、でも返事は言うから。

 サッカー留学凄いチャンスじゃない、頑張りなよって、嘘ついたんだって」


「そうか、花谷さんらしいな」


 強い意志、さすがは花谷さんだ。


「うん、和歌ちゃんらしいよね。

 川口君は、

 俺の事が好きかどうか今度返事聞かせてくれ。

 留学の話は来月中に返事しなきゃいけないんだ、それまでに頼む。

 お前はイタリア留学を応援してくれるんだなって言い残して帰って行ったって。


 私も好きって言いたいのに言えないなんて悔しい!悔し過ぎる!!って、和歌ちゃん泣いちゃって、大変だったの」


「...うん」


 そりゃあ苦しいよな。


「浩君、私どうしよう?」


 由香もすっかり涙目だ。

 親友の苦しさが痛い程分かるんだから当然か、俺もだけど。


「結論を出すのは佑樹と花谷さんだ。

 でも2人には幸せに成って欲しい」  


「そうだよね、絶対に2人は幸せにならなきゃ。

 私和歌ちゃんには心配かけて助けて貰ってばかりだもん」


「分かるよ、僕も佑樹には随分助けられたしな。

 まずは花谷さんだ、ちゃんと返事をする事かな」


「返事って和歌ちゃんは重荷になりたくないって...」


「違う!ちゃんと花谷さんの本当の気持ちを佑樹に言わなきゃ駄目だ!」  


 俺は大声になっていた。


「そうじゃなきゃ佑樹は未練を残したままイタリアに行っちゃう。

 花谷さんも後悔が残って誰も幸せにならない!!」


「そ、そうよね」


「佑樹は本当の気持ちを花谷さんに言っんだ。

 次は花谷さんが佑樹に気持ちを話す番だ。

 サッカー留学をどうするかは佑樹の問題で、その事は佑樹が結論を出せば良い」


 ここは譲れない。

 周りがどうこう言える話じゃない。


「分かった、和歌ちゃんには私が学校で話てみる」


「そうだな、僕も佑樹には直ぐに結論を出さないように言っておくよ」


「ありがとう浩君。すごく楽になったよ」


「いや僕も話が聞けて良かった。

 そろそろ帰るよ」


「うん気を付けて」


「バイバイ」


「さようならまた明日ね」


 由香と別れ家に帰る。

 どんな結末になっても、しっかり見届けなければならない。

 そう思いながら家路へと急いだ。


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