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...きみが好き

 翌日いつもの時間に起きる事が出来ず、母さんに起こされた。

 昨日の様子を心配していたのか、いつも起きる6時から少し過ぎただけなのに起こしに来てくれたのだ。


「おはよう。大丈夫だよ」


 心配する母さんの言葉を軽く流し、シャワーを浴びてから朝御飯を食べて家を出る。

 いつも後から家を出る兄貴は黙って俺の顔を見ていた。


 学校に行く時、いつも由香と待ち合わせする空き地、今日由香はいない。

 いつもは俺が来るより前に居るのに。

 そのまま1人学校向かい教室に入る。


「おはよう」


 いつものように朝の挨拶。

 しかし誰からも返事は返って来ない。


「よっ」


 佑樹だけが遠慮がちに手を上げた。


「大丈夫かよ浩二?酷え顔だな、調子悪いのか?」


 佑樹は心配そうに聞いた。


「大丈夫だよ」


 何とか返事をする。

 だが頭の中は昨日から混乱したままで上手く返せない。


「そっか、余り無理すんなよ」


 佑樹は自分の席に戻る。

 その後誰とも喋らないまま1日が終わった。


 次の日の朝、同じ時間に家を出る。


 今日もいつもの場所に1人、ただ時間が過ぎた。


「...そろそろ行こうかな」


 独り言呟きながら学校に向かう。

 教室に入り、佑樹と少し会話をしてから、後は1日中同じ事を考えていた。


 由香はやっぱり今日も休みか。

 帰りに見舞いに行こうかな...


 俺は何を考えてるんだ?。

 そしてまた1日が終わる。


 遠足から3日目の朝、今日もここに由香はいない。


 もしかして今日は由香1人で学校に向かっているかも...

 少し駆け足で学校に向かう。


 来てない。


 花谷さんが、毎日学校の帰りに由香の家に寄って由香の母親から様子を聞いているそうだ。


『昨日あたりから元気になって来た』

 佑樹から教室の外でソッと教えられた。

 花谷さんが言うには由香の様子は俺に内緒だそうだ。


 由香、そんなにショックだったのか?

 前回の時間軸みたいに転校したりしないか?

 今回は俺が由香を不幸にしただけじゃないか?

 少し元気になったって、俺の事は諦めたのか?


 俺はどうしたんだ!

 由香、由香、由香って、由香の事ばっかり考えてるじゃないか!


 その日は学校から帰ってから晩御飯だけ食べて風呂には入らずに寝た。


 翌日はいつもの6時前に起きた。

 昨夜は風呂に入らなかったから気持ちが悪い。


 シャワーを浴びよう。


 制服と替えの下着を取りだして部屋を出た。


「浩二」


 風呂場に向かう途中で呼び止められた。


「じいちゃん...」


「ちょっと良いかの?」


「うん」


 じいちゃんと婆ちゃんの部屋に入る。

 じいちゃんは座卓の前に座り、俺も向かいに座った。


「ばあさんはおらん。

 2人で話がしたいので遠慮してもらった」


 どうやら朝早くから俺を待っていみたいだ。


「最近は何かあったみたいだが、詳しくは聞かん。

 言えん悩み事があって、言いたくないなら無理に言わんでも構わん」


 俺は小さく頷く。


「今一番大事なもんをよう考えてみい。

 完全に失ったもんは絶対に帰ってこん。

 ええか浩二、お前を大事に思ってくれる家族がおる。

 心配してくれる親友もおる。1人じゃないんじゃ」


 じいちゃんの大きな手が俺の両肩に優しく置かれた。


 じいちゃんは戦争に行ってたんだ。 

 たくさんの戦友、部下を亡くして来た。

 大切な人、失った人達の想い。

 全てを視てきた人だから言える言葉。


 じいちゃんの言葉は重く、そして暖かな愛情があった。


「さあ、はよう風呂に入って来い。

 ばあさんがお前の起きて来る時間に合わして沸かしたんじゃ」


 少し涙ぐみながらコクコクと頷き立ち上がる。


「好いてくれるおなごもおるみたいじゃしな」


 じいちゃんは小声で呟いた。


 風呂場の前には婆ちゃんが心配そうな顔で待っていてくれた。


「ありがとう。じいちゃんの話を聞いたら頭の中がスッキリしてきたよ」


 ニッコリ笑うとばあちゃんも笑顔に変わった。


「朝御飯作って来るからね、浩ちゃん、しっかり昨日までの物を流すんだよ」


 そう言い残し食堂に向かう婆ちゃん。

 お風呂から上がり、朝御飯を食べに食堂に入ると、珍しく両親が揃っていた。

 じいちゃんと婆ちゃんがいる、兄貴がいる。

 みんな俺を心配して朝から集まってくれていた。


「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫です」


 頭を下げてから俺は笑った。


「もう大丈夫そうだね...」


 兄貴がポツリと言う。


「あぁそうだな」

「良かった良かった」


 父さんと母さんがホッとしたように続いた。

 じいちゃんと婆ちゃんは何も言わず、嬉しそうに何度も頷いていた。


 新しい運命を切り開く覚悟を決めた。


『由香、君が好きだ』

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