あなたが...好き
私は浩二君が好き。
小さい頃から引っ込み思案、甘えん坊で泣き虫な私。
言いたい事が有っても何も言えず。
嫌な事をされても、ただ泣くだけ。
幼稚園の頃から、いつも周りの子達にからかわれた。
いつだったか、幼稚園で先生が配っていた素敵な千代紙。
私も欲しくて手を伸ばしたのに、横から来た子が全部奪ってしまった。
『返して』その一言さえ言えずに、ただ泣くだけ。
それが幼稚園の頃の私だった。
毎日幼稚園で泣きながらお迎えを待っている私にママが言ってくれた。
『由香はみんなと違う小学校に行きましょ』と。
でも近所にある小学校は、今までみたいに車に乗らず、毎日一人で歩いて行くと聞かされて不安になった。
そして女の子だけじゃなく、男の子もいると聞かされ更に不安になった。
姉さんに聞いたが、近所の小学校の事は全く知らないとの事だった。
不安な気持ちのまま迎えた入学式の日。
学校に入るなり、パパやママと離れて私は一人ぼっち。
不安で泣きそうになってると、先生らしき人が何か言いだした。
意味が分からず立ち尽くしていると、今度は突然大声で怒鳴られた。
『ダメ泣いちゃう!』
次の瞬間、私の隣にいた男の子が庇うように間に入り、先生と話しを始めた。
これが最初に浩二君と出会った瞬間だった。
初めて浩二君とお話しをした。
愚痴を聞いてくれた。
最後にニッコリ微笑んでくれた。
その瞬間...私は浩二君が「好き」になった。
小学校で初めてお友達が出来ました、本当に親友と呼べる人も。
そして男の子の友だちまで。
それは間違いなく浩二君のおかげでした。
この年の誕生会、浩二君を招待した。
ママに私のお誕生会に浩二君を招待しても良いか聞いた。
『良いわよ。
家族みんなに上手く言っておいてあげるから招待状を書きなさい』と言ってくれた。
でも招待状は書かなかった。
来ると返事して、来なかったら悲しすぎるから。
浩二君はそんな事絶対にしないって分かってるけど、自分の口で直接招待したかったの。
『行くよ』って返事をもらった時、天にも昇るってこんな気分を事を言うんだ。
姉さんから聞いた難しい言葉の意味を理解した。
待ちに待った誕生日。
朝からおじいさまの家に美容師さんに来てもらい髪を念入りにセットしてもらう。
この日のために仕立てたドレスを着て。
一人でポーズ。
『浩二君、何て言うかしら?』
鏡の前ではしゃいでいると、苦手な従姉妹の美穂様と志穂様が近くにいる事に気がつかなかった。
『何をはしゃいでらっしゃるの?』
そう尋ねる美穂様に、
『誕生会に小学校の友達が来るの』
と言うと、何故か食いつかれ、
『誰?まさか男の子?』
と聞かれたので
『...浩二君です』
そう言うと突然、
『私達も誕生会参加する』
と言い出した。
後で知ったけど、美穂様達は浩二君のお兄様と同じ塾で、話を聞いたとの事だった。
約束の時間の少し前に、浩二君らしき子供が来ていると守衛さんから内線を聞いて私は急いで出迎えに走った。
浩二君は学校の制服とも、普段外で着ている服とも違う素敵な服を着て来られました。
家のお仕事がニット加工?(服飾関係よねきっと)と言う事で、安く買ったから物だから余り褒められると恥ずかしいと照れてました。
...可愛い。
誕生会は私にとって夢の時間となりました。
家族みんなが浩二君をとても気に入り、
特におじいさま、おばあさまが、
『誕生会と言わず何時でもこちらに連れておいで、いや連れて来ておくれ』
と言ってくれる程でした。
以来、毎年誕生会に浩二君を招待しています。
毎年浩二君が誕生日にくれるプレゼントは私の大切な宝物。
毎年増えるプレゼントを眺めるのが密かな楽しみ。
浩二君から引っ越しの話を聞いた時はビックリした。
目の前が真っ暗になるといったらいいのか、一瞬で絶望に沈むのを感じた。
慌てて、近くだから心配しないで、そう言った浩二君。
ホッとすると同時に涙が出そうになった。
恥ずかしさから素っ気なくしちゃった。
でも私の家から近くなるだけでなく、通学路まで同じなんて、嬉しい限りでした。
こんな夢の日々がいつまでも続くと思ってました。
あの日、遠足の日までは...。
遠足の前から浩二君の様子がいつもと違うようになりました。
考え事をしてばかりで、私は不安な日々を過ごしました。
そんな不安の中で迎えた遠足当日。
浩二君はいつもの浩二君に戻ってました。
嬉しくっていつも以上に浩二君に甘えました。
でも、あの和菓子店でのやりとり、
みんなは気付かなかったでしょう、けど私にはとても不自然に感じました。
その後のオリエンテーリングではまたいつもの浩二君に戻っていました。
私は不安を振り切るように、張り切って班を引っ張り頑張りました。
...しかし運命の時はやって来てしまいました。
オリエンテーリングで知り合った地元の小学校にいた女の子。
『伊藤律子さん』
浩二君がその子の名前を聞いた時...
私の事が浩二君の前から消えてしまったと感じました。
伊藤さんから浩二君に特別な感情は感じませんでしたが、浩二君の目にいつもと違う優しさ、そして私には見せない愛しさが満ちてました。
きっと浩二君は恋に落ちたのでしょう。
私は闇の中に落ちていきました。
気がつくとバスの中で泣いていました。
浩二君を失う恐怖、私じゃない人を好きになってしまった絶望に泣くしか出来なかったのです。
親友の和歌ちゃんが心配して来てくれました。
でも浩二君の名前を聞いただけで、何も考える事が出来ず、更に泣きじゃくってしまいました。
帰りバスの中で和歌ちゃんは何も言わず、私の背中を優しく撫でてくれたのが本当に嬉しかった。
私は山添浩二君が好きだ!
昔の私のように奪われるのは嫌だ!
愛しい人が去って行くのを黙って見てるなんて絶対に嫌だ!!
あの遠足から3日間、私は学校をお休みした。
家族は凄く心配してくれた。
でもお母さんは私から何かを感じたのか、学校は心配しないように言ってくれた。
そして私の気持ちが諦めじゃなく、浩二君を伊藤律子さんから取り返す気持ちへと変わって行くのを感じでいた。
浩二君、今度は離さないよ。
私だけを見てね。
...大好き!!




