予期せぬ再会。後編
ようやく自然公園に着いた。
この公園は前世で嫁と一緒に墓参りの帰りピクニックした事がある。
今回は嫁と行った20年以上前で、学校の遠足。
不思議な話だ。
公園に着くと先生は荷物を下ろす様に指示する。
みんなの楽しみ、お弁当の時間だ。
持参のシートを芝生に引いて、友達同士集まって食べる。
先生の周りにも数人の生徒が囲んでいる。
嬉しそうな先生の顔が見えた。
仲間外れは居ない。
それとなく確認してから自分のレジャーシートに腰を下ろした。
「花谷さんスッゴい、大っきなおにぎり!」
「普通の3倍はあるな」
「しかも和歌ちゃん、3つ?」
「育ち盛りは食べ盛りなのよ」
ワシワシ食べる花谷さん、みんな楽しそうだ。
俺もオカズの交換したり、由香ちゃんから自分で作ったというサラダを食べさせて貰ったりと、楽しい時間を過ごせた。
昼御飯の後は30分の休憩、佑樹と花谷さんは率先して走り回ってる。
あんなに食べて直ぐに動けるのは凄い。
俺は由香ちゃんと並んでお茶の時間、長閑だね。
休憩が終わり、いよいよ始まるオリエンテーリング。
俺達の班は4人で一応班長は俺。
画板に地図とコンパスを持ってるのは由香ちゃん。
大変そうだから代わろうかって言ったんだけど、地図を見たりするのが好きで、お父さんが休みの時は一緒に地図を片手に外出するのが好きなんだって。
意外だ、てっきりインドア派かと思ってた。
後は同じクラスメートの仲間、石田君と上田さん、これで4人班。
スタートする地点にみんな集合する。
「良いですか、今日のオリエンテーリングは皆さんだけではありません。
他の学校もオリエンテーリングを行っています。
決してケンカしたりしないように!」
先生の注意が飛ぶ。
本来のオリエンテーリングと違い、小学校のオリエンテーリングは難しい事をしない。
簡単な地図を渡されて 順番通りに通過ポイントに置いてあるハンコを押し フィニッシュのタイムを競うのだ。
夕方には学校に着かないと行けないから、そんなに長いコースは設定されていない。
最後までチェックポイントに行けなかった班もタイムアップになると終了のスタンプラリーな感じだ。
「よーし由香勝負よ、運動では負けないわ!」
道具一式を担いだ花谷さんが気合いの入った声で由香ちゃんに迫った。
「班長からひとこと言っとく。気合いだけはまけるな!」
佑樹、お前も気合いだけは入ってるな。
「班長こちらも一言」
由香ちゃんから声がかかる、
「道に迷わず頑張ろう」
「「「オー!!!」」
こちらは、のんびり行きます。
それではスタート!
「うぉぉー!」
あれ?佑樹だけ自分の班と違う方向に走ってったぞ。
「こらーばか佑樹!北に向かうって言ったでしょ!!」
花谷さんが佑樹を呼び止めた。
凄く大きい声だ。
「北はこっちだろ?」
「そっちは西よ!」
「わりぃ、わりぃ」
川口班が優勝の芽はないな。
「違うよ」
「どうしたの?」
由香ちゃんがコンパスを見ながら呟いた。
「最初のチェックポイントは北東の林道の中だから、和歌ちゃん正しく地図を見てないわ」
「そうなんだ」
我が班だけ他の班と違うコースを行く。
「おっ正解。お前達が一番だ」
待機していた先生がハンコを押してくれる。
「次はこっちよ」
うん完全にリーダーは由香ちゃんだな。
「任したよ」
「任されました!」
ニッコリ由香ちゃん。
次々ハンコを押して行く、もう少しでフィニッシュだ!
「あれー違う? さっきの道左だったかな?」
林道を進んでいると茂みから声が。
聞き覚えが無い声だな、誰だろ?
「右って言ったの健二じゃない」
「まあ戻れば良いじゃない」
「山道を戻れないでしょ、もうこれで負けたら許さないからね」
声は数人だ、なんか揉めてる。
「やっと大きな道に出たぞって、うわっ」
「キャッ!」
いきなり茂みから飛び出して来た男の子に由香ちゃんがぶつかって尻餅を着いた。
由香ちゃんになんて事を!
「こら馬鹿健飛び出すなって!
ごめんなさい、道に迷ってやっとここに来たの」
男の子の後ろから出てきた女の子が申し訳なさそうに由香ちゃんの手を掴み立たせてくれた。
女の子は地図とコンパスを提げている。
どうやら向かうもオリエンテーリングの途中みたいだ。
「地図を見せてもらっても良いですか?」
「あ、助かるわありがとう」
「いえいえ、あ、ここで最初の間違いです」
由香ちゃんは女の子の地図を見ながら、ある分かれ道の交差しているところを鉛筆で指し示した。
俺は何も言えない、地図が読めない男の子なのだ。
「後は、ここの道をまっすぐ行けば戻れますから」
「分かりやすいわ本当にありがとう」
「いえお互い様です」
どうやら説明が終わったみたいだ。
本当、由香ちゃんは頼りになる。
「ところであなたたちの体操服初めて見るわ」
女の子は俺達の服装に気づいた。
「遠足で来てるからね」
ここは班長たる俺の出番だ、遅いけど。
「岸里小学校だよ」
「知らないな、岸里小学校って。
4年ってゼッケンにあるけど同学年なの?」
「そう4年だよ。同学年とは偶然だね。
岸里小学校はここからひとつ向こうの県だからな知らなくて当たり前だよ。
僕の名前は...」
「あ、良いわ名前書いてあるから。
山添浩二君に橋本由香さん、それと石田良君に上田まことさんかな?」
完全に出番を失ってしまった。
なんてしっかりした子なんだ。
花谷さんタイプだな、背も高いし。
「「そうだよ、よろしく」」
「こちらは私服だから名前分からないでしょ、
名乗るわね。
直ぐ近くにあるって言っても分かんないか、石山小学校4年佐藤、佐藤道子よ」
花谷さんに似た子は佐藤と名乗った。
続いて1人の男の子を指さす。
「こいつは」
「こいつ言うな袴田健二だ」
少し小柄な袴田君。
坊主頭が時代を感じさせる。
「この子が」
「吉田久よろしく」
ほう、吉田くんはスッキリした髪型だ。
身体も俺より大きい、佑樹より少し小さいが。
なによりイケメンなのが目につく。
「最後に」
「伊藤律子ですよろしく」
「「「よろしく」」」
最後の子は伊藤さんか、
肩まで伸ばした髪が綺麗だな。
優しそうな瞳は律子を思い出す。
あと、笑うと左にだけエクボが出きるんだ。
律子もそうだった、方エクボ...
「えっ!!」
今伊藤律子って言ったの?
まさか!?
いや、あの顔は写真で見た、間違いない。
「あ...あ、あ、あの伊藤律子さんって和菓子屋さんの?」
「えっ?何で知ってるんですか?」
この声、まだ声変わりする前だろうけど、間違いない。
前世で20年以上聞いた律子の声だ。
「いや...さっき通った和菓子屋のお爺さんが律子くらいの子供がいるって...きんつばが旨いって.....」
駄目だ、懐かしさで上手く喋れない。
律子が、律子がそこにいる!
「あらそうなのね。なら今後ともご贔屓に」
動揺する俺を余所に、律子は気にしない様子で笑う。
「いや、僕あんこが苦手で」
「大丈夫家のじいちゃん作ったあんこなら絶対食べられるから......って何?」
俺を見た律子は驚いた顔で固まる。
何かしたのかな?
「いやごめん。ついやりとりがしてみたくなって」
とにかく謝ろう。
「なにこの笑顔えっ?えっ!?」
狼狽えながら律子は俺から離れた。
一体どうしたんだろ?
「はいはい律子、帰るわよ」
佐藤さんが律子の腕を掴んだ。
オリエンテーリングの途中だから仕方ない、思わぬ再会だった。
「それじゃまたね」
「はい、さようなら」
律子達と分かれ、俺達もオリエンテーリングを再開した。
「...............」
先ほどから由香ちゃんが無言だ。
「どうしたの由香ちゃん?」
「別に何も無いよ.....」
「そう」
班のメンバーに目で尋ねるが、2人とも首を振る。
重苦しい空気の中、一番でフィニッシュ。
しかし由香ちゃんはにこりともせず、オリエンテーリングの道具を先生に返した。
『疲れたんで先に戻ってます」
由香ちゃんは先生にそう言うと、俺達の方を向かずバスに戻ってしまった。
しばらくして、次々と他の班がフィニッシュする。
最後に佑樹の班もフィニッシュ。
どうやらリタイア無しで全員ゴールした様だ。
「いやー参った参った、最後に間違っちまった」
「何言ってるの?1回で次のチェックに着いた事無かったでしょ」
佑樹と花谷さんは元気一杯だ。
佑樹の班にいた他の子達は肩で息をしてる。
ずっと走り回ってたのかな。
「まあー細かい事言うなって、浩二班は一番かやっぱりすげぇな。あれ橋本は?」
「本当、由香はどうしたの?」
「疲れたって、先にバスへ戻っちゃったよ」
「大丈夫かしら?ちょっと見てくる」
花谷さんはバスの方に歩いて行った。
佑樹はオリエンテーリングでの失敗を話し始めた。
「浩二!由香になにしたの!!」
突然花谷さんに胸ぐらを捕まれ、押し倒された。
そのまま馬乗りにされ息が詰まる。
「おい、花谷!落ち着け、どうしたんだ?」
佑樹が花谷さんを引き剥がした、何が起きたか理解出来ない。
「どうもこうもないわ!由香がバスの一番後ろの隅っこの席で泣いてたのよ!!
何があったのか聞いても、ただ首を振るだけだし。
『山添君の事?』って聞いたらビクッって。そして嗚咽してまた泣き出して......
あんた何か酷い事由香にしたんでしょ!」
叫びに近い花谷さんの言葉。
由香ちゃんが泣いてる?
一体何故?
「落ち着け花谷!!
浩二が橋本に何をしたのかは俺も分からん。
けど、浩二がそんな酷い事を橋本にすると思うか?
そんな事して平気な顔でいられる奴とお前は本当に思ってるのか?」
真剣な顔で佑樹は花谷さんに迫った。
「そう、そうよね。ごめんなさい山添君....」
何も考えられなくなっていた。
ふらふらと立ち上がり、体についた砂を払う。
「ごめん佑樹俺もバスに戻るよ、先生に言っといて」
「わかった。でもバスには....」
「大丈夫、分かってる。一番前の席に座るよ。
気分の悪くなったときの席だから空いてるだろ。
俺が居るとみんなの気分が悪くなったら大変だしな」
佑樹と花谷さんは何も言わず、俺は1人バスに戻った。




