親子ってすぐ分かりますよ。
「さあこちらに」
知香さんと藍香さんをいつもの席に案内しながらお二人の制服からこの時代を推測します。
(知香さんは高1で藍香さんは中3ですか)
ワッペンに刺繍された[HS]と[JH]。
お母さんの由香さんも同じ学校で制服まで同じデザインでしたから私でも分かるのです。
二人とも本当に綺麗です。
知香さんはお母さんに(由香さん)お顔がにそっくり。
妹の藍香さんはどちらかといえば浩二さん似でしょうか?(もちろん2人共美少女です)
そういえば性格も知香さんはお母さん似で藍香さんは浩二さんに近いですね。
決めた事には真っ直ぐ突き進む性格の知香さん。
藍香さんはいつも周りに気を配って、どこか掴み所の無い所まで浩二さんに良く似ていて...
「マスター注文いい?」
「はい」
水を用意して早速注文に伺います。
「私はダージリンを」
「私はカモミールで」
「畏まりました」
藍香さんがダージリン、知香さんはカモミール。
知香さんは浩一さんと来られる時はいつも同じ物(主にコーヒー)を頼まれますが本当はお母さんと同じで紅茶やハーブティーがお好きなんです。
藍香さんはコーヒーか紅茶、ミルクや砂糖は滅多に入れません。
こんな所まで浩二さんそっくりです。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
「ど、どうぞごゆっくり...」
お2人の笑顔に思わず声が詰まります。
輝く笑顔、さすがは浩二さんと由香さんの子供です。
さてカウンターに戻りましょう。
「マスター少し時間いいかな?」
「はい?」
藍香さんが呼び止めました。
何かありましたか?
「大丈夫ですよ」
店内は私達しか居ません。
お二人の近くに椅子を持って来て座ります。
「実は知香姉の将来の事なんだけど良いかな?」
「将来ですか?」
はて、こんな展開は記憶に有りましたかね?
「ちょっと藍香」
「だって、知香姉ったら勝手に決める気でしょ?」
「勝手に?」
「うん、知香姉ったら特進コース辞めて一般コースに移る気なんだよ」
「だって...」
藍香さんの言葉に俯かれる知香さん。
思い出しました。
知香さんは仁成第一中学からそのまま高校に内部進学されたのです。
成績が良かった知香さんは中学からずっと特進コースに所属してたのですが高校から一般コースに移られたのでしたね。
たしか浩二さん達に黙って勝手に決めて、由香さんが怒ったそうです。
浩二さん当時困ってましたね。
後で知香さんが理由を言ったら今度は由香さんが賛成して浩二さんが反対して...
前回は聞き手に回ってましたが今回は少しだけ言葉を挟みましょう。
結果は変わらないですから。
「知香さん、浩一君の為に時間が欲しいんですね」
「どうして...?」
「マスター知ってたの?」
目を丸くするお二人、驚いた顔までお父さんとお母さんに似てます。
「考えなくても分かりますよ、高校ですら浩一君の大学近くにある所に変わろうとした位ですし」
「あ、うう...」
「...知香姉」
恥ずかしそうな知香さんと少し心配そうな藍香さん、姉想いです。
「安心して下さい。反対はしませんから」
「本当?」
「はい」
反対したら知香さんはきっと逆に燃え上がります。
「でも説明はして下さいね」
「やっぱりそうよね」
藍香さんは大きく頷きます。
前回高校卒業の前に知香さんは浩一さんの下宿するアパートに転がり込んで山添家と伊藤家は大騒ぎでしたから。
「必要ですから」
「そうよね」
「でも...」
何か言いたそうな知香さん。
この時から既に考えていたのですね。
「...お母さんも19歳で私を産んだし」
「知香姉、お母さん達は大学に行ってたよ?
誰も反対しなかったじゃない」
「だけど」
困りましたね、浩二さんは不妊で悩んでました。
だから早く子供を作るのに両家共反対しなかった経緯があります。
実際浩二さんの精子は減り続けて藍香さんの後は子供に恵まれませんでした。
「浩一さんは知ってるのですか?」
「ううん」
知香さんは悲しそうに首を振ります。
そうでしょうね、浩一さんは皆さんが困る事は苦手ですから。
「祐ちゃんは賛成だって」
「そうなんですか?」
祐ちゃんとは清水祐一さんの事ですね。
浩一さんのお母さんと一緒に夫婦の様に暮らしてますが本当は浩二さんが大好きで、浩二さん以外みんな知ってます。
「知香姉、祐ちゃんは当てにしちゃダメ」
「分かってる」
あらら、祐一さん頼りにされてませんよ。
「何にしても浩一さんに素直に言わないと、そして将来に向けて建設的話をしましょうよ。
誰も結婚に反対しないのですから」
「け、結婚!?」
「マスター結婚って...」
赤い顔で固まってしまいました。
おかしいですね、だって浩一さんもそのつもりでしょうし。
その時店の扉が開きました。
「いらっしゃいませ」
私は席を立ちカウンターに戻ります。
「おや?」
そういえば前回は知香さん達と入れ違いに来られたんでした。
今回は丁度良かったと言って良いのでしょうか?
「マスター久しぶりです」
「お久しぶりです浩一さん」
「え!?」
「嘘!?」
焦る知香さんと藍香さんの声が聞こえます。
「え、知香ちゃん来てるの?」
「はい、おみえですよ」
「私も居るんだよ」
「あ、ごめん藍香ちゃん」
頬を膨らませる藍香さんに困った顔の浩一さん。
頭を掻きながらお二人の座るテーブルに行かれました。
「マスター僕ホットね」
「畏まりました、さあ知香さん」
私は浩一さんの背中越しから知香さんに微笑みました。
「え。何?」
「あ。あの私...」
「知香姉、頑張れ」
さてどうなるやら、私はカウンターに戻りコーヒーを淹れてテーブルに運びます。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
真っ赤な顔で頷かれる浩一さん、知香さんも真っ赤です。
「マスター、浩一さんが『ありがとう』って」
「ほう良かったですね」
「ち。ちょっと藍香ちゃん」
「藍香てば!」
「良いじゃん。『でも大学はちゃんと行ってね』って、浩一さんありがとう!」
「そうですか」
嬉しそうな藍香さん。
知香さんの事が本当に心配だったんですね。
「さあどうぞ、熱いうちに」
私は浩一さんにコーヒーを薦めます。
「ありがとうございます」
真っ赤な顔のまま浩一さんはカップを持ち、
「美味しいです」
にっこり微笑まれます。
浩二さんの人を幸せにさせる笑顔は浩一さんにも引き継がれたんです。
また白い靄が...
「ほう」
気づけばまたカウンターに立っていました、少し体が重いです。
「よいしょ」
カウンター奥の椅子に座ります。
この椅子を使い始めたのは私が60歳を過ぎた頃からでした。
「マスター大丈夫?」
「お久しぶりです」
「元気してた?」
「体はどうですか?」
店の扉が開くと、すっかり立派になった4人が入って来ました。
早速席を立ち皆様を出迎えます。
「大丈夫ですよ、いらっしゃいませ」
それは浩二さんと由香さん。
そして薬師さんと...立派なお腹をした杏子さんでした。
どうやら柚さんの対面が近づいて来ましたね。
夢の最後は近いです。
少し寂しさを覚えつつ私は皆様を席に案内するのでした。