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兄貴への恋を実らせてあげたい!  作者: じいちゃんっ子
宝物の思い出です。
221/229

素晴らしいお正月でしたよ。

お二人共若々しいお姿、見たところ中学生位でしょうか?


「明けましておめでとう」


「おめでとうございます」


え?


「...おめでとうございます」


とにかく返事だけはしておきましょう。


「どうしたのマスター、正月のお酒が抜けてないの?」


「ちょっと浩二君、マスターがそんな訳無いでしょ」


会話から予想すると今日は正月休みが明けたばかりの様ですね、毎年、年末の29日から正月の3日までの6日間休んで1月4日から店を開けてました。


「いえいえ由香さん、正月はゆっくり飲まして頂きましたから浩二さんの予想は当たっておりますよ」


「まさか」


由香さんが驚いてますが本当の事です。

私、こうみえても飲んべえなんですよ、浩二さんも近い未来そうなりますからね。


「さあ浩二さん、由香さんも此方へ」


私は2人を店奥のテーブルに案内します。

ここは私の大切なお客様しかお使いになれません(あしからず)。


「暫くお待ちください」


私は2人をテーブルに案内すると急いでカウンターに戻り、奥にある業務用冷蔵庫の扉を開き中を確かめます。


「やはり有りましたか」


私は1人静かに呟きます。

そうです、毎年正月休み明けの営業日にはこれを浩二さん達に振る舞っていたのです。


「お待たせしました」


2人の待つテーブルに私は例の物を広げます。


「わあ!」


「凄い...」


浩二さん達は驚いた顔でテーブルに広げられた料理を見ています。

そうです、おせち料理なんです。


「さあ、ご遠慮なく」


「良いんですかマスター?」


「マスターこの料理を1人でお作りに?」


驚きますよね、喫茶店のマスターが作る料理に見えませんもの。


「ええ、1人で食べるのは寂しいですから」


私は笑顔で祝い箸と取り皿を並べます。

今は昼前、店内に誰も居ません、例年同じですね。

正月休み明けての4日から喫茶店に来るお客様は朝のモーニング位です。


「マスターも一緒に」


「マスター宜しければ」


おっと、お誘いを受けてしまいました。

記憶の中では2人に遠慮してましたが、ここは懐かしい記憶の中、遠慮無くご一緒させて貰いましょう。


「そうですね、それじゃ遠慮なく...あそうだ、少しお待ちを」


私は素早くカウンターに戻ります。

思い出した事が有ったのです。


「ふふふ、有りました」


私は急ぎテーブルに戻ります。

酒瓶と御猪口を手にして。


「どうぞ」


「マスターこれは...」


「え?」


驚いてますね、まあ本来は駄目ですが御神酒です。

勘弁して貰いましょう...


「浩二さん達は一杯だけです、縁起物ですから」


私は苦しい言い訳を口にしながら御猪口に般若湯(?)を注ぎます。


「浩二君...」


由香さんが固まってます、まあ当然ですね。


「由香、マスターの心遣いだから一杯だけ戴こう」


浩二君は御猪口に釘付けです、中々の飲んべえですからね。

(まだこの頃は皆さんに内緒にしてた様ですが)


「もう、浩二君は」


由香さんは呆れた顔で笑っています。

懐かしいですね、由香さんの可愛い笑顔。

5、6年先には立派なお母さんになられるのですから、不思議なものです。


「それでは改めまして、おめでとうございます」


「おめでとうございますマスター」


「おめでとうございます、今年も宜しくお願いします」


乾杯をして、私達は楽しい一時を過ごしました。

やっぱり賑やかに気の置けぬ人と食べる料理は楽しいですね。

家内はまだ実家に居ますから。


「美味しい!」


「本当、マスターとても美味しいです。

このオマール海老の味、どこかで...」


流石は由香さん気づきましたか、その味付けは、


「エンペリアルホテルの味付けですよ」


「そうです、正月に親戚が持参した物と同じ、いえ此方の方が美味しいです!」


「マスター、エンペリアルホテルって?」


「私が一時お世話になったもので」


「そうなんですか?」


「マスター凄いよ!」


2人は驚いてます、実際教えたのは数年後でしたね。


「マスター今日奥さんは?」


食事も進んだ頃、浩二君は質問されました。


「家内は実家に居ます」


「そうなんですか?」


「ええ、家内の実家には子供の無い私は落ち着きませんので」


お酒のせいで思わず口が滑ります。


「...すみません」


「浩二君...」


ああ、いけません、浩二さんが落ち込んでしまわれました。

そう言えば数年後浩二さんは不妊で非常に悩まれたのでしたね。

この頃から自覚があったのでしょうか?

『大丈夫浩二さんには2人の可愛い娘さんに恵まれます』

...言えませんね、どうしましょう?


「マスター」


「はい由香さん」


「私達、マスターの家族になっても良いですか?」


「は?」


「由香...」


「マスターの家族になりたいんです、私達の子供が出来たら必ずマスターに見せます。

そして一緒の家族に...」


「由香さん...」


私は由香さんの言葉に声を失います。

そうです、由香さんは知香ちゃんと藍香ちゃんが産まれたら真っ先に連絡をくれました。

そんな意味があったのですね。


「...ありがとうございます、是非家族に入れて下さい...」


私の目から涙が溢れます、もう声になりません。


「由香...私達の子供って...」


「あ、その今直ぐって訳じゃ...」


浩二さんは違う所で声を失っている様でした。



食事も一段落しました。

私は食後の飲み物を用意します。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


「マスター頂きます」


まだ顔の赤い2人、初々しいですね。


「美味しいです」


「本当、美味しい」


私はなんて幸せなんでしょう。


「ありがとうございます」


心からの感謝で頭を下げます。


「おや?」


顔を上げるとまたしても目の前が...




「ふむ」


気づくと私はまたカウンターに立っていました。

なんとも不思議な感覚ですね。

もう自分の姿を確認しません、これは過去から順々に戻って来ているのですね。

さて、今回は...


「こんにちはマスター」


「マスター元気?」


そうです、この方達も大切な人ですよ。


「いらっしゃいませ佑樹さん、和歌子さん」


どんな思い出が甦るのでしょう?

私の心は激しく踊るのでした。


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