予期せぬ再会。中編
バスは1時間程走って最初の目的地、輪善寺の駐車場に入った。
名刹である輪善寺の駐車場は大きくてバス専用の駐車場のスペースも広く、バスが4台入ってもまだ余裕がある。
「ふいー、着いた着いた!」
「体がコキコキに、凝ったよ」
「あーよく寝た!」
みんな口々に言いながらバスを降りる。
俺は周りの景色を眺めながら。久しぶりに見る懐かしい光景に浸っていた。
「はい集合!」
先生の声にみんな4列に並んで集合する。
「今日は一般の参拝の方々もいらっしゃるので、騒がずバラバラにならないように隣の子と手を繋いで移動します。
分かりましたか?」
「「「「えー!」」」」
「4年になって手を繋ぐのかよ」
「あんた、手洗った?」
みんなが騒ぎ出した。
男女の諍いが少ない学年だけど、やはり手を繋ぐのに抵抗があるのか。
あと数年したら好きな人でも居ない限り、繋ぎたくても繋げなくなるぞ。
「はい、うるさい!
さっさと繋いですぐに出発!」
先生が手を叩きながら生徒達に言った。
「浩君、手を繋いで良いかな?」
隣にいた由香ちゃんがおずおずと手を出す。
そんな不安な顔をしないで、手くらい繋ぎますよ。
「お手をどうぞ、お嬢様」
少しおどけて、ニッコリ右手を差し出す。
「あ...あ、ありが、ありがとう」
耳まで真っ赤な由香ちゃんが固まった。
「あれは反則よね」
「うんあれは堕ちるわ」
「スマイル神がスマイル王子に変わった?」
何か後ろで何か言ってる。
「ちょっと佑樹!あんまり力入れないでよ!」
「うるせい、嫌なら袖口を摘まんでやるよ」
「なんで摘まむになるのよ、力を入れないでって言ってるのに」
佑樹と花谷さんはいつもの調子だ。
駐車場脇の専用口から寺の山門前に出る。
門前町は通らずお寺に入った。
ほっとするが少し残念な気もする。
残念?何が?
自分の心が分からない。
「どうしたの?」
隣で由香ちゃんが不安気に聞いた。
「なんでもないよ。
やっぱり古いお寺さんだから空気が違うなーって、少し緊張したみたい」
「そうね、本堂には国宝の仏様があるって書いてあったわ」
「釈迦如来像だね、鎌倉時代の作だったかな?」
「く、詳しいのね」
「うん、ちょっと調べて来たんだ」
これは嘘だ、代々お寺の檀家だった嫁の実家は先祖代々の墓もあ。
前世の墓参りに来た折、お寺の方にも何度か参拝した事があったのだ。
「凄いわ浩君、何でも知ってるね。
お勉強も塾にも行ってないのにいつもテスト満点だし」
幼稚園から塾や習い事をしている由香ちゃん。
さすがは橋本家のお嬢さまだ。
俺は中身が49歳のオッサンだよ?
小学生の問題を間違えちゃ不味いでしょ。
さすがに言えない。
「わー凄い、おっきい仏像。
こんな立派な仏様初めて見た!」
少し興奮気味の由香ちゃん、俺も仏像を見上げた。
うん、変わらないな。
前世で最後に見たのは20年前だったかな?
って事は今から20年後か、ややこしいな。
何にせよ800年以上前の仏像からすれば同じ様なもんだ、変化無いのも当然か。
無事に参拝が終わり、次の目的地の自然公園に向かう。
ここから車で5分程の距離だから、バスでなく30分掛けて徒歩での移動と栞に書いてあった。
班ごとに分かれて引き続き移動する。
同じ班の由香ちゃんと手を繋いだままで移動してる。
「もう手を離してもいいんだけど」
「まだ繋いでいたいの、ダメ?」
由香ちゃんが悲しそうな目で呟いた。
「諦めろよ浩二。
あれだけのコージースマイルをモロに喰らったんだぜ、橋本はしばらくは戻らねぇさ」
「そうよ、私でも無理ね」
佑樹と花谷さんはそう言うが、2人も手を繋いだままだぞ。
言わないけど。
「さっきのは横目で見てても強烈だった」
「「そうそう」」
好き勝手言ってるみんなも殆ど手を繋いでる。
ここでふと気づいた。
俺達は今門前町を歩いている。
この先700メートル歩くと国道に出るのだけど、その途中に和菓子屋が数軒があったはずだ。
1度、ここがお爺ちゃんのやってたお店、今はお爺ちゃんのお弟子さんがやってるんだけど、改装してあんまり面影がないなー、って嫁が言った事がある。
店の屋号はその時のまま変わってないとも言ってたな。
なんだったかな?思い出せない。
この辺りの、どの和菓子屋さんだったかも思い出せない。
「おーい可愛い小学生が歩いてるぞ、見てみい律子と同じくらいじゃー」
数軒の和菓子屋の一軒から白衣を着た人の良さそうなお年寄りが出てきた。
「まぁ可愛い、遠足かしら?
おてて繋いでるの、仲良しさんね」
『律子!』
忘れた事の無い名前。
それにあの面影のある女性の顔、間違いない!
「ああ!ここだ!!」
我慢できず、俺は叫んだ。
「ど、どうしたの?」
仲良しさんと言われ、嬉しそうな由香ちゃんが驚いて顔を上げた。
「「「なんだ?どうしたの?」」」
周り生徒達も騒ぎ出す。
まずい、説明の仕様が無い。
「ん、どしたんじゃ?」
「なにかな?」
数軒の和菓子屋さんもこちらを見てる。
『うぅ、か、か、考えろ!』
パニック寸前の頭で必死に考える。
「由香ちゃん、ここのきんつばって凄くおいしくて有名なんだよ!」
思い出すまま由香ちゃんに叫んでた。
「えっそうなの?
でも浩君あんこ苦手なんじゃ...」
「でも由香ちゃんあんこ大好きだよね。
今度来るときは買ってあげるね」
唖然とする由香ちゃんに構わず、一気に捲し立てる。
『お爺ちゃんの作るあんこは甘過ぎず絶品だったんだから。
特にきんつばは名物で観光ガイドのオススメのお土産に載るぐらいだったの。あれならあなたも食べられたかもね。残ー念』
って嫁が話してくれたのを思い出したからだ。
「あらよく知ってるわね、ありがとう。
家のお店の自慢の御菓子なの」
「おーおーありがとよ。
今度お嬢ちゃんとデイトに来たら家に寄っとくれよ。
焼きたてのやつをごちそうするぞ」
「ありがとうございます、是非また来たいと思います」
俺は渾身の笑顔で頭を下げた。
「えっ!ありがとう待ってるわ...」
「はぁー婆さんが生きとりゃ、見せたかったわい...」
固まるお義母さん、写真でしか見た事が無かった義祖父と別れ、手を振って店を離れた。
その後、先生から隊列を乱したと連帯責任でみんな怒られた。
ごめん。




