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兄貴への恋を実らせてあげたい!  作者: じいちゃんっ子
番外編みんなのプロポーズ。
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孝のプロポーズ。後編

「瑠璃ちゃん久し振り」


私、川井瑠璃子(27歳)は親友の山添由香を喫茶店に呼び出した。


「久し振り由香、急に呼び出してごめんね」


「良いのよ、私も瑠璃ちゃんに会いたかったし。

瑠璃ちゃんこそ仕事大丈夫だったの?」


「うん今日は土曜日だしね、事務所もお休みよ」


私の仕事は弁理士、たまに弁護士と間違われるが知的財産の保護や特許庁への出願手続きを代理で行うのが主な業務だ。


「瑠璃ちゃん凄いわ。弁理士って日本に1万人くらいしかいないのよね?」


「もう少しいるよ1万3千人位かな?」


「それでも凄いわ」


私にしてみれば由香の方が凄い。

由香は19歳で長女を出産して21歳で次女を出産した。それでも8年で医学部を卒業して現在大学病院で研修中だ。

しかも母親をしながら...


「瑠璃ちゃん?」


「ああ、ごめんなさい。子供さん達は元気?」


いけない、いけない。つい羨ましくなってしまった。

私も27歳、本当は早く結婚もしたいし子供も欲しい。

でも...まあそれが今日の相談なんだけどね


「うん元気よ。生意気盛りで困っちゃう」


「今小学校何年?」


「上が小2で下が小1よ」


「早いわね」


「まあ大学生で産んだし」


「羨ましい!」


「ありがとう」


由香はにこやかに笑う。

大学の時に由香が子供を妊娠したと聞いて羨ましい反面、大学生活を満喫出来ないのを少し可哀想に思った。

学生の妊娠出産には人に言えない苦労もあっただろう。

しかし由香の笑顔に後悔は全く窺え無かった。


「最近の浩二さんは?」


「今お父さんの医院を手伝う為に色々と準備してるよ。新しい診療項目が増えるから」


「外科医だっけ?」


「うん」


「大変ね」


「まあね、新しい機材の購入や銀行の融資で大変みたいだけど」


由香は少しはにかんでいるが由香の実家は物凄い大金持ちだ。

恐らく融資等受けなくても充分やりくり出来るのだろう。

でも由香は昔から全くそんな所(お嬢様気質)が無い。

私は仕事柄沢山の人間に逢う。

でも改めて思う。

私は由香の人間性が大好きだ。


「青木君は?」


「まあ忙しいみたいね」


やっぱり聞くよね、孝さんは実家の会社を継がずに弁護士になった。

孝さんの実家は跡を継いでくれると思っていたから反対が凄かった。


「そうなんだ」


「うん」


素っ気ない私の態度で孝さんとまだ結婚どころじゃないと分かったみたいで由香は少し悲しそうな顔をした。


「お母さんは元気?」


由香は話題を変える様に聞いた。


「元気よ、相変わらず浩二さんが大好きでね」


「あらら」


私の母は今も浩二君が大好きで、浩二君の近況を聞こうとするが私が知るはずも無い。


「来世があるなら結婚したいとか言ってる位だし」


「それは駄目」


「由香?」


「駄目」


私の冗談に由香は真顔になる。

少し怖いよ。


「もちろん母さんの冗談よ、冗談」


「冗談でも駄目」


慌てて取り成すが由香は収まらない。

実は母さんは本気で来世に期待しているが黙っておこう。


「それだけ浩二さんが魅力的なのよ、許してあげて」


「魅力的なのは分かるよ、まあ瑠璃ちゃんのお母さんだから今回は許してあげる」


やっと由香は笑ってくれた。

どれだけ浩二さんが好きなんだ?

由香の愛の深さに私は改めて驚愕(恐怖?)する。


「ところで瑠璃ちゃん今日は?」


「そうそう、今日は由香に先輩として相談に乗って欲しいの」


「先輩って私達同級生じゃない」


「違うよ年齢じゃないの。妻としてかな?」


私は今日の本題に入る事にする。

私と孝君の将来の事を...


「私、明日孝君にホテルのラウンジに呼び出されたの」


「それって」


「ええ、たぶん孝君の言い方からするとプロポーズだと思う」


「良かったじゃない!瑠璃ちゃんおめでとう!」


由香は我事のように喜んでくれるが私は素直に喜べない。


「迷ってるの」


「迷う?何を?」


「孝君との結婚...」


「...訳を教えてくれる?」


「うん、分かった」


私は結婚を迷っている訳を説明する。

実は私の方から逆プロポーズをした事がある。

今から3年前、地元で弁護士をしていた孝君が東京の大手弁護士事務所に採用され地元を離れるのが決まった時。


離れ離れは辛いので私から孝君に言った。

『私と結婚して下さい』と

孝君は悩んで私に言った

『まだ早い、未熟な僕が今結婚したら親の賛同は得られない。数年待って欲しい』

孝君はそう言った。


そして3年が経った。

私は今勤めている特許事務所の仕事が凄く楽しい。

遣り甲斐もあるし責任も任されている。

孝君との関係は悪くないが今事務所を辞めて東京に行くなど絶対に考えられないが私の本音だ。


「成る程...まあ分かるかな」


由香はうつ向き頷いた。


「私は今の環境を変えたくない。3年前に『待て』と言っといて今は良いから結婚しようって都合良すぎない?

せめて期限を言ってくれたら良かったのよ。

『3年なら3年』と」


私は不満をぶちまけていた。


「話し合った?」


「え?」


「孝君と結婚後の事とか将来の事話し合ったの?」


「いいえ、私が聞きたく無かったので最近は将来の話は避けてたし...」


「なら別れるの?」


由香がポツリと言った。


「そんな事は...」


「だって孝さんは結婚したい。

瑠璃ちゃんは今は嫌、孝さんと将来の事すら避けて話してないんでしょ?

何より明日がプロポーズかもしれないのに気持ちが定まらない瑠璃ちゃん。なら仕方ないよね?」


「そ、そんな...」


私は由香に核心を突かれ何も言えなくなる。


「ハッキリさせなきゃ。

お互いの言葉に『理』がある。だからこそね」


「理?」


「うん。瑠璃ちゃんの逆プロポーズ、分かるよ。

『愛する人についていきたい、離れるのは嫌』

でもね瑠璃ちゃん、青木君は大学を瑠璃ちゃんと過ごす為に進学先をねじ曲げて地元に残ったんだよね」


「うん」


そうだった、孝君は私との学生生活の為に名だたる大学を蹴って地元に残った。


「そうなれば青木君の親はどう思う?

『息子は東大を狙えたのに』

そう思うよね?」


「うん」


「でも青木君は意地を通した。

そして大学在学中に司法試験をパスした。

凄いよね」


確かに凄い。全国で最年少合格。大学は大騒ぎだった。


「そして親の会社を継がず弁護士の道へ進む。

そして2年のキャリアしかないのに東京の大手弁護士事務所に移籍、これも凄いよね」


そうだ、孝君が家の反対を押し切り弁護士になったが何の実績も無い新人弁護士、他の弁護士が嫌がる案件をこなしていた。そんな孝君の活躍が認められ新しい事務所にスカウトされた。それも日本でも有数の有名弁護士事務所。

私の勤める業界も弁護士と仕事する事が多いので知名度の凄さは知っていた。


「そんな事務所に移籍して青木君がいきなり結婚。馴れない新しい土地で瑠璃子の事も考えるとなかなか仕事に集中出来ないそう考えるんじゃないかな?」


誰でも最初は実績など無い。

私も最初は簡単な事務仕事からコツコツだった。

でも孝君はいつでも忙しそうで...きっと嫌がる仕事も積極的に引き受けていたんだ。


「そうして3年を経てやっと瑠璃ちゃんにプロポーズでしょ?

で瑠璃ちゃんが嫌なら諦めるのも選択肢よ」


「嫌だ!」


私は思わず叫んでいた。

孝君の気持ちも考えず話し合いすらしなかった自分本位な私は危うく大切な物を失う所だった。


「それなら明日は?」


「もちろん...受けるよ」


「そう、良かった...」


優しく微笑む由香、凄い、本当に由香は凄い。

何と言うか、達観している。


「由香凄いわね」


「まあ浩二さんの奥さんをしていると考え方がうつるの」


「うつる?」


「ええ、人に幸せを与えたいって」


由香はそう言って笑った。

翌日私は孝さんのプロポーズを受けた。


ちゃんと将来の事も話をした。

孝さんは私の勤め先の事務所を辞めるのを反対した。

『キャリアを捨てるな。僕が新しい事務所を立ち上げる時に協力して欲しい』と

やはりこの人は大人だ。

私なんかより1歩も2歩も進んでいる。

しばらくは週末婚になるがもう私は迷わない。


「孝さん、あなたについていきます。

一緒に幸せに成りましょう」



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