予期せぬ再会。前編
4年生になった。
最近の俺は考え事をする日が続いていた。
「どうしたの浩二?
最近元気無いみたいだけど、学校でなにかあったの?」
母さんが俺の部屋に来て心配そうに聞いて来る。
引っ越した新しい家は住居スペースが沢山あり、自分の部屋を与えられた。
「大丈夫、なんにも無いよ」
俺は軽く返事をする。
「そう?心配な事があったらすぐにお母さんに言うのよ。
明日の遠足のお弁当楽しみにしててね。
お母さん大好物のおかず一杯入れてあげる」
「ありがとう」
笑顔を向けるが、いつもと違うのだろう。
母さんはまだ心配そうな顔をしていた。
俺の悩み、それは明日に迫った春の遠足。
話は一週間程前に遡る。
「みんな遠足の栞は行き届いたか?」
先生の配った栞に目を通す。
春の遠足は輪善寺に参拝した後、自然村でオリエンテーリングと書いてあった。
「寺の参拝は退屈だけど、その後のオリエンテーリングが楽しみだな」
「オリエンテーリング初めて、面白そうね」
「今回の遠足はバスで行くみたい、電車と違って移動の時に一杯お喋り出来るね」
「なになに[今回はおやつは学校で配ります]か。
用意しなくても良いのは別にいいけど、またカルミン入ってるのかな?
あれ苦手なんだよな」
みんな遠足の話題で教室内は大盛り上がりだ。
しかし俺は書かれた輪善寺の文字から目が離せないでいた。
俺は前世で結婚していた。
[輪善寺]それは嫁の実家の近くで、その頃嫁の実家は門前町で和菓子店を営んでいたと聞いていた。
腕の良い和菓子職人だった嫁の祖父が営んでいた和菓子店。
確か嫁が中学生の時に祖父の病気で店を閉じた筈だ。
店に行けば嫁に会える?
いやいや遠足は平日だ、学校に行ってるだろ。
遠足の時、和菓子店はやってるのだろうか?
見た事の無い嫁の祖父と若い義母。
義父は警察官だったからこの時間帯に会う事は無いだろう...
「...ねぇ!ねぇってば!」
由香ちゃんの声で現実に引き戻される。
「なに?」
「さっきから呼んでるのに全然反応しないんだから。
それに見た事の無い真剣な顔して、どうしたの?」
由香ちゃんが心配そうに俺の顔を見た。
「うーん、別に何もないけど...」
駄目だ、前世の記憶が邪魔して上手く喋れない。
「ひょっとしたら浩二バスが苦手か?
しょうがねぇな、いつもクラブバスで移動してる俺が横に座ってやるよ!」
佑樹が任せろとばかりに言った。
「ちょっと川口君、なにを勝手に席を決めてるの?
席と班割りはこれから決めるんでしょ。
でもバスの席も隣で、班も浩君と一緒が良いなー」
「この学年は男女分け隔てなく、みんな仲良しが多いから、どこに座っても、どの班でも平気よ」
みんな口々に遠足の話題をする。
先生は叱るでもなく、苦笑いをしていた。
俺も何とかみんなと話を合わせるのだった。
そんな事があってから一週間の間、俺は前世と今世の現実を行ったり来たりしていた。
「いっその事、明日雨でも降らないかな?」
窓を開けると夜空には綺麗な満月が。
さっき夜の天気予報でも明日はこの地方一帯晴れの予報が出てたな。
前世の記憶でも今回の遠足は行った。
嫁と話題にした事がある。
『会ってたら凄い偶然だったのに』って。
もう寝よう。
眠れ無いかも知れないけど、起きたってどうなる物でも無い。
ベッドであれこれ考えているうちに1つの答えが浮かんできた。
単なる遠足じゃないか。
俺の方から会いに行かない限り、嫁と会う確率は限りなく低い。
なにより今はまだ会わない方がいい。
向こうは俺の事を知らない小学生だからな。
頭の整理がついた。
いつ眠りについたのは覚えていない。
久しぶりに熟睡出来た。
翌朝、俺は6時前に目が覚めなかった。
顔を洗ってすっきりさせる。
その後歯磨き、だんだんと体も目覚めてきた。
「おはよう!」
元気一杯家族みんなに挨拶、母さんや兄貴も嬉しそうだ。
いつもより豪華な朝ごはん(弁当箱に入らなかった残り)を食べて、リュックサックを背負い出発!
「おはよう」
「由香ちゃんおはよう!」
引っ越し以来いつも一緒に登校する由香ちゃんと合流する。
「浩二君、今日は元気そうね」
「うん、元気一杯。
遠足楽しみだな、オリエンテーリング同じ班だし頑張ろう!」
「うん!!」
最初は伺うように俺を見ていた由香ちゃん。
元気な俺を見て嬉しそうに笑った。
学校に着いてから校庭で簡単な説明を先生から受ける。
バスは校舎近くで既に数台並んで待機中。
みんな2列に並んで校門を出てバスに乗り込む。
出発前に先生が人数と席のチェックをしてバスは出発した。
「浩二今日は元気そうじゃん」
しばらくすると佑樹がやって来た
「ありがとう、良いのかバスの中を勝手に移動して?」
「先生も黙認してるよ。
それじゃ俺と席を代わってくれ」
窓側に座っている俺の隣の女の子に佑樹が声をかける。
「いいよ!早く早く」
席を交換する約束をしてあったみたいだ。
素早く佑樹が俺の隣に座る。
「あ、ズルい。私も浩君の横が良かったのに」
俺から2列後ろの席に座っていた由香ちゃんが身を乗り出して佑樹に文句を言う。
「へへアスリートたる者、如何なる時も事前の準備を怠らないのさ」
「なによ、ルール違反は即退場よ。
良いもん補助席に座るから」
由香ちゃんは俺の隣にある補助席を起こして座った。
「これで隣だね!」
「狭くない?」
補助席は小さいから由香ちゃんのお尻が心配になる。
「全然、大人でも座れるから問題無し!」
それもそうか。
バスの中は楽しい話や、トランプに盛り上がるのでした。




